ヒイラギの秘密の部屋
ヒイラギの部屋は、大自然?そのものだった。一応、千里が踏みしめている道があるので、高台になっているヒイラギの寝床に行って、腰を下ろすことができる。あゆもそこに落ち着いた。
高台から続く川があって、その川を起点に植物が生い茂っている。高台は、絨毯のような苔が密集しているので、安全?地帯になっている。
「沙羅曼蛇部隊は、付いてこなくても大丈夫だよ」
「勝手についてきたんだからいいんじゃない」
「あゆが気に入った証拠ですわ」
「この子たち、たまにここで狩りをしているよね」
「ほんとだ、イノシシさんたちがいる」
「見えるの?」
「あれは、土猪だよ」
沙羅曼蛇部隊が、ついでに狩りを始めた。
「この川ってもしかしたら」
「分かる!ヒイラギのよだれだよ」
「でもこんなに?」
「ここって、世界樹の中でしょう。その影響で、寝ているときに、勝手に増殖魔法が働いているみたいななんだ。精霊たちにとっては、栄養があるみたいで、こんなことになったんだよ」
「ヒイラギさん、ちょっと恥ずかしいですか?」
「ものすごく恥ずかしい」
そこに、蟻族の遊撃隊が、ヒイラギに訴えてきた。
キキッ、キキッ。キャリュコムミア
「いいんじゃない、増えすぎだから。少し間引いてもらおうよ」
「この蟻さんたち、なんって言ったの?」
あゆの反応に3人が嬉しそうな顔をした。
「沙羅曼蛇たちが、狩りをしているけどいいのかって。ついでに、ムカデもお願いしていい?」
「分かった。みんな、ガツンとやっちゃって」
「ムカデがいるの!」
「まあ、いろいろと」
蟻族の中でも、とても大きな、それも立派な羽を持った蟻が、あゆの目の前に羽ばたいてきた。少し赤い色をしていて、優しい面差しをしている。
キュリリ、ウフーラ。キャリ
「ごめんなさい、ウフーラさん、まだなにを言っているかわからないの」
「ウフーラが分かるの!ウフーラ、名前で呼ばれたよ」
キャリ、キュキュキュ
「名前で呼ばれて嬉しいって」
キャリキュリキュキュ
「お友達になりましょうって言ってる」
「お願いします」
あゆがそう言うと、羽のない兵隊蟻が、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッと、やってきて整列した。そしてその前に降りる羽蟻たち。
「素晴らしいです。あゆさんは、軍隊蟻の女王とお友達になったのですよ」
「そうなの?」
キュキュリ?
「あゆです」
「多分、この部屋に来たときは、この子たちが守ってくれる。安心して遊びに来てね」
キュリーー
ウフーラの号令一家、軍隊蟻が解散した。ウフーラは、あゆの横に座って、あゆに見えないサラマンダー族の族長と世間話を始めた。
「あゆは、私の属性と相性がいいのね」
「うんうん」
「京爺に報告しますわ」
「みんなの精霊たちも見たいな」
「ここの物を食べてたら、自然にそうなるんじゃないかな」
「ユミルの火の国料理を食べるんでしょ。次は、ぼくのところだよ」
「水は、必ず飲みますわよ」
精霊界にいるというのは、とても大事なことだとわかった。あゆは、ここに来てよかったと思った。
東京側、妖精カフェ厨房
千里は、腰に手を立てて、ぐつぐつ煮える鍋を見ていた。
カレーって意外と簡単ね。〈強気〉
やっぱり、カレーにはリンゴと蜂蜜よ
そうは言っても、肉がいっぱいのカレー、主役は牛肉だ。
ご飯もOK。蜂蜜とリンゴ汁もたっぷり用意して、超甘口カレーになる準備もした。多分ウィンディたちも食べられる。
精霊界に行ってみると、ユミルが来ていた。サイモンもターシャも一度、家に帰ってから、ここに来るという。今日は、みんなここで、カレーだ。
「ユミルさん、いらっしゃい」
「千里のカレーを食べに来たわよ」
「変にハードルを上げないでください。でも、お肉をたっぷり入れました」
「楽しみね。あゆは?」
「サラたちの秘密の部屋です」
「私も覗きに行こうかしら」
「途中から通れなくなりますけど、大声出したら聞こえると思います。カレーができたから、みんなを呼んできてください」
そう言って、ユミルにとっては、ちょっと狭い扉に案内した。ユミルは身長は、180センチ。オスのリザードマンは、2メートルを超えている。
ウィンディと店の片づけをしていたら、サイモンとターシャ、デビットとサーシャがやって来た。
「サイモンさん、帰って来たんですか」
「出張続きだったからね。龍王にもバクバにも、休んでい良いと言われたんだ」
「明後日は、また、龍王城よ」
ターシャは、ちょっと不満顔。
京爺は、ムシキングのデビットを見かけたので、捜査状況の詳細を聞きたいとやって来た。
店も片付いたので、サーシャとターシャに手伝ってもらって、夕食の準備を始めた。サラたちの方は、ユミルが来たので、また、秘密の部屋を案内していたとかで遅れてやってきた。
夕食が始まった。カレーが、好評だったのでほっとした。
私たちは、あゆが、土属性と相性が良いという話で盛り上がり、ユミルとターシャとサーシャは、料理の話で、京爺と、デビットと、サイモンは、仕事の話で盛り上がった。
「店長代理お疲れ様」
みんなで乾杯した。
「何とかやれそうね」
「あゆが、フルーチェを作れるんだって」
「店長代理、明日からは、ケーキがないから、プリンとフルーチェを出す?」 私の提案
「いいわね。千里、作れそう?」
「何とか」
そんなわけで、プリンとフルーチェを冷蔵庫に仕込んで、アパートに帰った。
東京のアパートに帰ってマスターに今日の報告をしたら、すぐメールが返ってきた。アンナが設定してくれていたのだろう、このメールは、飛行機に搭乗しているため通じませんとある。二人は、まだ、飛行機の中だった。ロサンジェルスに着いたらメールを読んでくれるだろう。3月末のちょっと寒い日。この後、温かくなったら桜の花が咲く。4月は、もうそこだ。