妖精のガラスの糸完成 ウィンディの部屋
あゆは、ウィンディと、ウィンディの部屋で、お弁当を食べることになった。そこは、楕円のドーム状の空間で、とても清々しいところだ。窓には、誰が立てたのかわからないけど、トーテンポールが立っている。そこから、部屋の奥に行くにしたがって、草原になり林になっているという感じ。林あたりにあゆが座れる丘のようなところがあって、そこに座って食事した。
「まるで庭園みたいね」
「箱庭だけどね。ちなみに、あの窓のところにあるトーテンポールは、この部屋の住人が立てたのよ」
「住人がいるの?」
あゆは慌てて、あたりを見回した。こんな狭いところを歩いたのだ。誰かふんじゃっていないか気になった。
「大丈夫、踏むことはないわよ。安心して。みんな空を飛べるし浮かぶこともできるから」
「ごめん、見えなくて」
「そのうち見えるようになるわ。みんなもがっくりしているけど、大丈夫よ」
「休憩するときは、ウィンディもこの丘に座るんだ」
「そういう時もあるけど、いつもは、そこのハンモックよ」
そう言われて、林の方を見ると、ハンモックがあった。とても趣味が良い。
「千里に私の部屋の特徴を話してって言われているんだけど。そうね、私の部屋は、何でも浄化するわよ。例えば、靴の匂いが臭いとか、汗臭い服なんかは、ここに置いておくだけで、臭くなくなる」
「すごい」
「洗濯はした方かいいわよ。アクアか千里の部屋は、部屋の上に、大きな水の溜り場があるのね。コツはいるけど、魔力なしでも水を流すことが出来るから、そこで洗濯をしてね」
「千里にちょっと聞いた。他にも、いろいろ教えてね、ウィンディ」
「ようこそ、精霊界に。期待しているわ13代目さん。お昼を食べて頑張ろうね」
「そうだね」
ヒイラギが、次は、私の部屋だと気負っていたが、もう、サラと、アクアが来ちゃったので、私が付き添えない。ヒイラギの部屋は、ちょっと危険なのだ。私たちが、ガラスの糸をつむぐところを見学して、アクア、サラと順番に部屋をあゆに見てもらうことになった。ヒイラギの部屋は、その後。
あゆが、休憩から帰ってきた。
「あゆ、来たんだ」
「お待ちしていましたわ」
「サラ、アクア。よろしくね」
そう言って手を広げたところに、妖精たちがハイタッチした。
「今日こそ、ガラスの糸を完成してね」
「ウィンディ店長代理よ」
私が手を広げて、ウィンディを持ち上げる。
「もう、ブティックの仕事を取ったんだよ」
ヒイラギも、そう。
「すごい」
「どんな商談をまとめたのですか」
「6万ルピーの仕事よ。あゆが小物を作れるのね。1号のお客さんは、サーシャよ。ターシャもそれでいいってことになると、12万ルピーね」
「店長代理の仕事をしているね」
「素晴らしいですわ」
「みんな、私を持ち上げなくていいわ。涼夏堂さんの13代目がいるから決まった仕事よ。あゆがすごいのよ」
店長代理がそう言うから、今度は、みんなで、あゆを持ち上げた。
「てへへ、もう褒めなくていいよ。それより、ガラスの糸を紡いでいるところを見たい」
「了解ですわ」
「あゆは、ぼくたちのパートナーだね」
「ガラスの糸が完成すると、みんな黙っていないよ」
私たちは、あゆを連れて、作業場に向かった。
まずは、蛍光石で、練習。これで、納得が行く物ができると、ビー玉で挑戦する。私の手には、アクアとサラの触媒、氷水晶と赤夏が一緒になったブレスレットをはめている。
サラが、蛍光石を溶かし、アクアがこの、溶けた蛍光石を飴玉のようにして4本伸ばす。私がそれをさらに伸ばして絹糸より細いガラスの糸に紡ぐ。
「手作業でこの細さでしょう。大変ね」
「あゆさん、どうでしょうか」
「絹糸と肌触りを比べてよ」
私のブレスレットにはめ込まれた触媒は、ずっとサラとアクアの魔力に反応して弱く光っている。
「いいんじゃないかな」
「じゃあ、ビー玉でやってみる?」
「やる」
「やりましょう」
しばらくして、大量のガラスの糸が紡がれた。蛍光石は薄い緑色だけど、ビー玉は、透明。本当に良いものができた。
「綺麗!ガラスの糸、成功だね。ちょっとだけ布にしてあげる」
あゆが、小っちゃい妖精用の機織り機を使いだした。さすが13代目。接客は、苦手だけど、技術は本物だ。その間、私たちも、ガラスの糸を一生懸命紡いだ。
「ふぅ、今日は、ここまででいいんじゃない」
「別の色もやりたいね」
「今日は、あゆさんをわたくしたちの秘密の部屋に、招待するのじゃなくって」
「そうだった」
気づいたら、ガラスのハンカチが完成していた。あゆが織った物をクリスタ先生に見せるわけにはいかないから。ハンカチは、ヒイラギにお願いするのだが、約束の日を2日残しての完成だった。
それにしても、大量の失敗作。あゆは、「これはこれで、ごわごわしたのは、靴下にするとか、使い道がある」と言って、綺麗にまとめていた。