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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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玉露とフルーチェ

「お母さん、みんな来たー」


「居間に入ってもらって。お茶とフルーチェの準備ができたわよ。取りに来て」

 台所から、あゆの母、美代の声が聞こえる。


「はーい、千里も手伝って」

「いいよ」

 でも、なんでお茶とフルーチェ?


 サラたちは、テーブルの上に置かれた妖精用のちゃぶ台の周りに落ち着いて、部屋を見回した。

 あゆの家の居間は、板張り。テーブルと、テレビ、クーラー以外は、純和風。掛け軸が掛かっていたり、ご主人の趣味なのか盆栽が置いてあるが、とてもシンプルだ。


 台所に行くと、かっぽう着姿の、あゆのお母さんが、お茶請けの準備をしていた。

 みんなには、白磁器の可愛い神棚用の茶碗と急須。それよりちょっと大きなガラスの器に、たっぷりのフルーチェ。そのフルーチェの上には、イチゴジャムだったり青りんごジャムだったりマーマレードだったりブルーベリーが、ちょこんと乗っている。色とりどりで綺麗。それと、私たち用。私が、あゆとわたし用で、あゆが、みんなのを持って行った。美代さんは、自分の分と、お代わりを用意しているみたい。後から来ると言っていた。



「みんな、食べていいよ。実験は、後でもいいんでしょ」


「私も、私も」

 ウィンディが遅れてやってきた。


「いただきます」×4


 お茶って、妖精向きじゃあないと思うんだけど。

 そう、思いながらお茶を飲んで驚いた。確かにお茶なんだけど、甘い。砂糖を入れているわけでもないのに、甘い。


「このお茶、美味しい!」


「そうでしょう。皆さん居らっしゃい」

 美代さんが、自分の分を持ってやってきた。


「みなさん、あゆのお母さまの美代さんよ」


「はじめまして、サラよ」

「こんにちわ、ヒイラギです」

「アクアです。よろしくお願いします」


 みんなお茶を飲んでまったりしていた。


「皆さんいらっしゃい。好きなフルーチェを選んで食べてね。ジャムの好みが重なったら、ここで、のせてあげるわね」


 驚いたことに、みんな綺麗に4色のジャムに分かれた。小さなスプーンで、フルーチェをほおばる。


「美味しい。これも和風?」

「和風って言えばそうかな。家庭のおやつだよ」



 ウィンディの問いに、あゆが答える。私は、お茶が甘いのに驚いて、美代さんに聞いた。


「これ、お茶ですよね。こんなに濃いのに甘いです」

「玉露よ。今度、淹れ方を教えてあげるわね。60°ぐらいでやるとこうなるのよ」


 みんな好き好きに話しだした。当然お代わり要求。他のジャムが気になるみたい。そんなに食べて、この後大丈夫かな。


「美代さん、また、後輩ができたのよ。ヒイラギが、カフェを手伝ってくれるのよ」

 ヒイラギが、フルーチェを食べながら、ぺこっと頭を下げる。

「まあ! じゃあ、ヒイラギさんも、あゆの先輩になるのね。よろしくお願いします」


 ごほっ、ごほっ「えっ、私って、あゆの先輩?」

「そりゃ、そうなるでしょう」


「明日、妖精カフェに来るんですって。たった三日の先輩よ。私なんか一週間の先輩なんだからね(2日休んでいたけど)」

「ほとんど変わらないじゃん」

「てへへへ」


「よろしくお願いします。先輩」


「まかせて」

「先輩か、いい響き」


「いいなー」

「うらやましいですわ」


 アクアとサラも、親と交渉中。二人とも、親には、「ガラスの糸を完成させなさい。話は、それから」と、言われている。



 ひとしきり、わいわいした後は、サラの龍眼が機能するか、ここで実験することになっている。あゆと美代さんが、かたずけをしてくれている間に実験開始。



「みんな、オーラが見えるよね」


「見える」

「変な感じ」

「昨日から、落ち着かないですわ」

「やれそうよ」


「じゃあ、私が、サラの背中を押すから、みんな助けて」


 みんなオーラが見えるのだ。東京側では、龍王の魔力が届かないだけ。


 私が、サラの背中を押すと、サラの炎のオーラが、渦を巻きだした。その渦が、左右に分かれて、右外回りと左外回りに回転しだす。


「行くわよ」   ウィンディが、私の手に自分の手を重ねる。

「私も」     ヒイラギも手を重ねてきた。

「力を貸しますわ」最後にアクアが、手を重ねて、サラを後押しした。


「サラからの力の逆流をつかむのよ。そうしたら、サラと同じものが見える」

 ウィンディが、マスターの教えをみんなに伝える。


 ズキュンと、視界が広がった。まるで、浅草橋を俯瞰してみているよう。通りにいる多くの人。多くのビル、その中にいる人。精霊界の人ほど強くないが、人々のオーラが見える。


「すごい、街一つ、丸ごと見える」

「もっと広くならない。敵と遭遇しないようにって、マスターが言ってたわ」

「ウィンディの言っていることは分かるけど、これでも、信じられない人の数よ」

「すごいですわ」

 ヒイラギは、初めてで、一生懸命集中していて、無言。


「おじさまの玉子は、いないね」

「わたくしも、炎のオーラを出している。大きなタマゴは、見えないですわ」

「こんなに、人がいるのに、わかるね」

「残念」

「そんなに都合よくいかないよ」


 実験は、成功した。後は、王子が隠されている場所の特定を待つだけだ。地球は広い。


 あゆが帰ってきた。

「実験は、成功した?」


「成功したよ」

 サラが、ホッとしていた。


「じゃあ、竹野屋さんで、いっぱい食べようね」



 みんな涼夏堂の裏木戸から出発する。美代さんが送りに来てくれた。私は、気にしていなかったけど、ウィンディは、深々と頭を下げている美代に、同じぐらい頭を下げて答えていた。



 神田連雀町というのは、関東大震災でなくなった街だ。そこに竹野屋さんがある。二階建ての古民家のようなお店で、二階には、個室もある。あゆのお父さん12代目、平賀伊右衛門は、此処のご主人と仲良しだ。一見では無理な個室を借りてくれた。一緒にあゆがいるから、一見でもないか。あゆは、よく来ているみたいで、元気よく入り口を開けた。


「おじさん、おばさんこんにちわ。今日は、友達連れて来たよ。宵野千里さん」

「こんにちわ」

 ペコっと頭を下げる。竹野屋のご主人とおかみさんに、妖精たちは見えない。それでもウィンディたちも、各自に挨拶しながら、頭を下げた。


「よく来たね。二人とも、いっぱい食べる気なんだって」

「そりゃあ」

「ねっ」

「いいわよ。いっぱい食べて」

 そうか、ウィンディたち分を、さっき、あゆの家で食べたってことね。それでも、あゆは、いろいろなのを注文する気だ。妖精たちは、ここに入った途端、目から星がこぼれていた。本当に甘い、いい匂いがする。


 最初に出てきたのが、イチゴのかき氷。持さんの器とスプーンに、あゆが丁寧にイチゴの蜜部分と上に乗っていたバニラアイスを分ける。更に持参の小さなちゃぶ台を食卓の下において、お店の人には見えないようにして、みんなに配った。


 妖精たちは!!! ものすごい興奮状態って言うか、一挙に食べ過ぎて、キー――ン状態。美味しいのか辛いのかわからない。


「すっごい美味しい」

「なにこれ、美味しいけど、頭イタッ」

「うーー」

「キー――ンってきましたわっ」


 まあまあ、標準の反応。どうよ、日本の甘味って、アメージングでしょ。


「みんな、一挙に食べない」

「今度は、メロン味よ」


 今度は、慣れましたわっていう顔で食べている。



「次は、あんみつよ」


 此処のは、真ん中につぶあんがドテッといて存在感がすごい。でも、周りはフルーツポンチって言うぐらいフルーツがいっぱい。後は、寒天とみつ豆。


 あんみつもすごいインパクトだったみたいで、みんな完成品にかぶりついた。異世界のフルーツに甘いあんこ。周りの蜜。どれも、妖精たちの好きなものばかりだ。


 あんこは、お腹に溜まる。これで普通なら打ち止めのはず。でも、止まらない。


「最後は、くず餅よ」


 くず餅に、たっぷりのきな粉に、黒蜜。くず餅は発酵食品。いいくず餅は、それだけで甘い。


 甘いものは別腹というが、全部別腹だと、やっぱりお腹がいっぱいになる。みんな、大満足してくれた。



「満足」

「お腹いっぱいですわ」

「もう、無理」

「氷菓子だよね、最初のキー――ンってきたの」


「かき氷のこと?」


「そう、かき氷。あれを学校の後輩たちに食べさせたい」

「いいですわね」


「サラったら、また、悪いこと考えちゃって」


「いいんじゃない」

「あゆもなの、でも、かき氷なら、私たちでも、すぐ作れるよ」


「やろうよ。マスターに言う」

「ウィンディ先輩やる気だね」



 そんな打ち合わせをしつつ支払いになった。最初、あゆが全部払おうとしたけど、私はボーナスをもらっている。みんなの説得もあって、私が支払いすることになった。



 食休みというか散歩してから帰ることになった。ニコライ堂目指して、神田川を越えて湯島聖堂をちょっと見て、それから電車に乗った。



 車窓から外を見ながら、サラが、ぽつんと「王子も、こんなに自然が少ないところにいるのかな」と、言っていた。お茶の水から、浅草橋だと、秋葉原を通るから、特にそんな感じかもしれない。今度は、自然がいっぱいあるところを見せたいと思う。

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