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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
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アンナの謎 磨製石器

 トニーとリチャードは、昨年のクリスマス前の大掃除のことを思い出していた。

 二人が暖炉当番だった。

 リチャードは、まだ、留年になるなんて思っていなかったが、トニーは、魔法使いの道に進むか悩んでいるときだった。 


「おれは、光魔法。トニーは、闇魔法が適性だと分かっていたんですが、たいして上手くなかったんです。おれは、本当にダメダメだったと思うんですが、リチャードは、運が悪かっただけだと思います。おれ等の学年は、闇魔法の先生がいなかったんです」


「1年の時にいたよ。パエッタ先生」


「でもいなくなった」×2(リチャード、ジャッキー)


「ジャッキーさん、知ってたんですか」


「あいつら、闇魔法使いを徹底的に刈っていたのよ。パエッタ先生は無事よ。でも、狙われて、暗殺されそうになった。防護魔法って光の魔法じゃない。先生は、光魔法の実力もつけたいって、修行中。もし、今年、教壇に帰ってきたらリチャード君、先生に食らいつくのよ。絶対強くなれる。それで?」


「去年の暖炉の掃除は、おれと、リチャードだったんです。暖炉に、トカゲの黒いシミを見つけたんです。気にはなったけど、掃除していたら、それが移動していたんです。変じゃないですか、シミが移動するなんて、おれも、トニーも火の魔法は、現実化できない。もしトカゲの妖精が、暖炉にいるのなら、契約したいじゃないですか、それで、二人で触ってみたんです。おれは、何も起きなかったけど、トニーがさわったら、暖炉に火が付くほどの火炎が出たんです」


「詠唱もなしで?」


「本当に触っただけです。そのとき、薬品がいっぱい置いてある部屋の奥の扉が開いている映像が見えました」


「黒いシミのトカゲは、火を吐いたら、居なくなったんで、二人とも、相性が悪かったのかなって。それで、トニー。なんで、薬品部屋の映像が浮かんだことを言わなかったんだよ」


「リチャードは、ドリア先生に、呼び出されていただろ。薬学ができれば、卒業してから仕事に困らないのに、やらないからさ。もし、薬品部屋に忍び込んだことがばれたら、留年になる。だからさ」


「どうせなったけどな」

「自慢にならないわよ」

「すいません」

「それで?」


「薬品部屋の奥の部屋には、月明かりが入っていました。それで、夜、そこに出かけることにしたんです」


「薬品部屋に入ったの? よく、ドリア先生を出し抜けたわね。ジャスティン先生の次に優秀な先生よ」


 トニーは残念な顔をした。

「ですから、出し抜けませんでした。それで、助かったんです。あの時、窓から侵入していたら、連れ去られたかもしれません。薬品部屋に侵入して奥の部屋に入ると、イスラム圏の人かな。黒い絨毯のような模様のある服に暗褐色のターバンを巻いていた人がいた」


「黒いイスラムの服! 後で、国を特定したいわ」


 トニーは、頷きながら話をすすめる。


「でも、英語で話しかけられましたよ。きれいな英語でした『君は、トカゲに好かれている。我らの教団に入れば、教主様から火の魔力を貰える。私と、教団に行くか?』と、言われました。魔術師になれってことですか?魔法じゃなく。って答えたんです。その人は笑って言いました。『火の魔法使いには、元々なれないよ』って言うんです。訳わからない。だってアイテムを使えば、いいだけでしょう。自分は火が出なかったから偉そうには言えませんけど」


「トニーは、土魔法が使えるんです」


「増殖魔法ね。だから、生命の緑石だったかしら、アイテムにたどり着けたのよ。でも、生命系は、風魔法よ。生きた植物に、生命発生系魔法をかけるなんて、無茶したわね。すぐ壊死が始まって腐りだしたでしょ」


 今度は、リチャードが苦い顔をした。

「おれが、ジャスティン校長に、魔法成果を見せないといけないので、試しにやったんです。最初は、草がぼこぼこ沸騰するような感じになって、茎から、枝っぽいものが出だしたんです。一応、風魔法の成績は良かったんですよ。緑色の石だったので、色別グラフ通り、風を使いました。当たりだっただろ」


「ぼくが手伝わなきゃよかったんだ」

「なかなか枝にならなかったから、仕方ないさ」

「実際は、生きた植物に魔法を掛けてはいけなかったんだけどね」

「緑の緑石の使い方が分かったのか」

「まだ研究中なんだ」


「それにしてもトニー君。確かに怪しい人だけど、よくついて行かなかったわね。火魔法は、攻撃魔法の王様じゃない。使い方によったら、国だって取れるでしょう。昔だったらの話だけど」


「それが、ドリア先生に邪魔されたんです。その時は、そう思ったけど、実際は、助けてもらったって、後で知りました」


 あの時は・・・・



 薬品がいっぱい置いてある部屋に、青い月の光が差し込んで、瓶の中で出汁になっているヤモリや蜘蛛が、浮き彫りになっていた。それをちょっと見たが、気味悪いなと思って、暗い方の、鉱物見本や種子見本を見ながら奥の部屋を目指した。


 奥の部屋は、窓が開いており、風が少し入ってきているのでカーテンが揺れていた。


「やっと来ましたね。月の光は、40分前から入っていましたよ」


 その部屋の窓際に、黒い絨毯のような模様のある服に暗褐色のターバンを巻いていた人がいた。顔は、暗くて見えないが、笑っているように感じた。


「あなたは、火の魔法使いですか?」


「君は選ばれたのだよ。君は、トカゲに好かれている。我らの魔術教団に入れば、教主様から火の魔力を貰える。どうだい、私と、教団に行くか?」

 謎の男は手を下に広げてトニーを誘惑した。


「魔術師になれってことですか?魔法じゃなく!」


「ははは、火の魔法使いには、元々なれないよ。君は・・・」


 その時、薬品室から光の洪水が巻き起こり、そこから、光のタイガーが飛び出してきた。


「そこまでだ。トニー君、下がりなさい。タイガーオブ・パトーナム」


 ガオン


 光のタイガーは、一直線に、黒いターバンの男に飛びついた。黒いターバンの男は、開いていた窓から外にダイブ。ここは一階なので、地面に手をついて転げ回って起き上がり、光のタイガーと対峙した。


「ファイアーウォール」


 そのタイガーと対峙した時、一瞬その男の顔が見えた。アラブ系の顔をしている。暗い肌。年は、40歳ぐらいで、やせぎすの顔。


 光のタイガーは、その火の壁をもろともせず突っ込んで行く。


「ファイアー」


 火の舌のようなものが、タイガーを襲い、打ち付ける。タイガーは、獲物への軌道を曲げられ失速していく。


「逃がしましたか」


「ドリア先生」


 ドリア先生は、英国紳士だ。鼻の下に蓄えている髭は、半分白くなってはいるが立派で、先生の威厳を保つのに一役買っている。


「トニー君、ダメじゃないですか。許可なく薬品室に入るなど、それも、怪しい輩と密会ですか。彼を知っているのですか」


 そう聞かれて、暖炉の一件を話した。ドリア先生は、顎を撫でながら、頷いていた。


「彼らの教団の名前を聞きましたか?」


「魔術師教団としか聞いていません」


「そうですか、彼らには、関わらないほうがいいでしょう。たまにうちの生徒を狙って、あのような小細工をするのです。トニー君に、火の魔法は使えません」


「それは、よく知っているのですが、現に暖炉のトカゲが火を吐きました」


「彼奴等のまやかしにハマりましたね。彼らは、火トカゲを使役しているのです。そのトカゲが、暖炉の壁に黒いシミを見せていたのでしょう。そのトカゲから火を吹かせていたのも、さっきの男です。どうです、からくりが分かった感想は」


「火トカゲの魔術師ですか。こんなこと、以前もあったんですか」


「この部屋は、トニー君が初めてです。そう言えば・・・」


 ドリア先生は、懐から、白いタクトを取り出して、光を灯した。

「コウ・・・どの瓶だったかな。いや、鉱石の方か。トニー君見なさい。この鉱石の標本をじっと見ていた光の娘を見かけた事がある。夜中に光っていたのですよ。普通じゃない。声を掛けようとしたら、先に振り向かれて、ただの石を指さしたのです」


「標本ですよね」


「この中には私がいたずらして作った、磨製石器があります。この緑っぽいつややかな石は、小さいですが、石の斧です。太古の人は、文明を持っていたのですよ。その再現です。ところが、光の彼女が指さした磨製石器が光っているではありませんか。磨製石器の中には、何等かの魔法アイテムになる石があったのではないか。これは、私の説ですがね。それを証明してくれたような気がしたのですよ」


「えっと、先生。不審者の話でしたよね」


「不審者は、不審者でしょう。ですが、全部悪いと決めつけてはいけません。こういう謎めいた話には、必ず、裏があるものです。この件に関して、調べてみますか。そうすれば、今回の不法侵入の件は不問にします。やりますか?」


「ぜひ、お願いします」


「よろしい。答えが分かったら教えるのですよ」



 リチャードとジャッキーは、吸い込まれるようにその話を聞いていた。


「そんなことがあったんだ」

「それで、磨製石器を売っている店を探していたのね」


「その後、魔法教団の不審者の話は、ドリア先生と自分だけの話ということで、誰にも話さなかった」


「うわさが広がって、本当に不法侵入の件がばれたら、懲罰ものだからな」


「それで、ずいぶん磨製石器のことについては、調べたんだよ。でも、魔法アイテムと繋がらない。それで、情報屋のジャッキーさんのことを父さんに教えてもらって訪ねた。でもジャッキーさんて、なんで父さんと知り合いだったんですか」


「それは、商売上の秘密よ。そうねぇ、魔法界も一枚岩じゃないってこと。それでいい?」


「父さんの紹介なのに、最初は、渋い顔していましたよね」


「うちの近所にだってアイテム屋さんがあるでしょう。調べていないって言うから、この子大丈夫かなって思ったのよ」


「磨製石器は、4万年前からあるものなんです。ですが、緑に光る磨製された石器なんてどこにもない。最初に斧を見せられたものだから、実用的なものだとばかり思っていたんです」


「とにかく、トニーは、マーティン家のお坊ちゃんでしょう」


「お坊ちゃんは、やめてください」


 リチャードが、笑いながら、トニーの肩を叩く。


「最初は、ちょっとだけアドバイスすればいいかなと思っていたのよ。あきらめないのよ、この子」


「トニーのいいところです」


「ロンドンのアイテム店をずいぶん回ったんだ。博物館も回った。だけど、どこの店でも言われたよ。石器は魔法アイテムじゃないですよ。とか、磨製アイテムって、いつの時?とか、本当にへこんだよ。魔法使いは、古いものを尊ぶくせに。その上、リチャードの留年の話が出ただろ。魔法アイテムがあれば、一発逆転て思うじゃないか。のめり込んだわけだよ」


「サンキュー、サンキュー」


「宝石店で、勾玉の話を聞いたときは、飛び上がって喜んだ。翡翠の勾玉だったかな。翡翠というのは鉄より硬いのに、それを古代の人が磨いていた。磨製石器と翡翠の両方とも一致する国は、日本しか無かったんだ」


「日本で古い雑貨を売っている魔法関係者って、アンナと大海先生の店しかいないのね。リチャード君のレポート提出期限も迫っていたから教えてあげたのよ」


「すごいです。ここに磨製石器もあったし、翡翠みたいな生命の緑石もあった」

「大正解でしたよ」


「それで、腐海発生ね」


「大失敗だったよ」

 リチャードが落ち込む。


「ごめん、ごめん。一昨日、トニー君から、アンナの話を聞いてびっくりしたわ。それも、リチャード君が、もう1年留年になったって言うじゃない。私も一つ持っているんだ。アンナの謎。聞きたい?」


「お願いします」

 今度は真剣な顔になるリチャード。トニーは、珍しく本気モードになっている親友の横顔を見た。

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