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妖精カフェ  作者: 星村直樹
火龍王のタマゴ
33/96

ジャッキーのカフェ

 3月の終わりといっても、ロンドンは寒い。トニーは、トレンチコートのポケットに手を突っ込んで、オックスフォード通りの大英博物館側で、親友を待った。リチャードの謹慎は解けていない。しかし、日本に行く前にどうしてもある人に会って、頼まなくてはいけないことがある。

 人波から、スタジアムジャンバーを着たリチャードを見かけた。二人は、無言で、この、人の多い通りから離れて、大英博物館側に向かった。大英博物館近くまで行ってしまうと、魔法使いのコミューンがあるから、魔法使いや魔術師たちの目に留まってしまう。だが、その前に古い隠された町がある。


 魔法使いの中には、昔から人に混ざって生活している者がいる。占い師や魔除けのまじないをしている者たちだ。教会に頼まれて、エクソシストをするとか、警察に頼まれて、捜査の協力をする魔法使いたちは合法だが、占い師やまじない師は、昔からやっている個人経営。魔法協会に入っていない人達だ。こういう人達は、魔法使いたちのコミューンから、ちょっと離れたところにいる。それは、古い町なので、薬屋もあれば、カフェもある。アイテム屋もあれば、何でも屋もいるし、情報屋もいる。


 ただし、そう言うアイテム屋があるコミューンの中心街。ミユキ横丁に、人は、入れない。入れるのは、魔法や魔術が使える者たちだけである。


「ここに来るの、久しぶりだな。父さんと小さいころ来て以来だよ」

「用がなくても、たまに来てくれよ。ジャッキーが喜ぶ」

「情報屋って、女の人だったのか」

「魔法学校の先輩だよ。3つしか違わない」

「それじゃあ」

「アンナの同級生だった人だ。ごめんな、黙っていて。本人が許可してくれなかったんだ」

「いいさ。許可してくれたから会えるんだろ」

「アンナには敵がいるって言っただろ。気をつけろ、知らなくていいことを知ってしまったらリチャードも危険になるんだ」

「いいさ、トニーの助けになる」

 トニーがリチャードの肩をゆすった。親友がいて本当に良かった。



 古い店が立ち並ぶ中、ちょっとへこんだ狭い路地かなと思えるようなところがある。そこは、すぐ行き止まりになりドアがあるだけ。ここがジャッキーの店だ。一階は、カウンターがあるだけのカフェバー。2階にオフィス。今日は顔合わせだけなので、カフェのカウンターに座った。


チリリン


「いらっしゃい。待ってたわ」


 客が一人もいない。来ても近所の人だけと言う感じの店だ。


「お邪魔します。彼がリチャードです」


 リチャードが頭を下げる。


「あら、お調子者って聞いていたけど、随分印象が違うのね」


「ちょっと、大失敗をやらかしまして」


「ふふっ、聞いているわ。ジャッキーよ」


 そう言って、リチャードに握手を求めた。ついでにトニーとも握手する。


「二人とも座ってね。昼間は、お酒を出さないわよ」


「ぼくは、飲まないですよ」

「おれ、もう一年、高校生です」

「リチャードなら、1年かからないさ」


「聞いたわ。だから、トニーに頼んで、あなたに来てもらったのよ。アンナの謎を解く気はない?」


「望む所です」



 ジャッキーは、出されたダージリンを飲もうともしない二人をにらんで、腰に手を当てた。これは、とっておきのマフィンも出すしかないわね。と、ため息をつく。


「アンナは、風の魔法使いよ。風のピクシーを使役できるのよ。シルフとラフォーレが、私にいたずらするんだけど、最初は、見えなかったわ」


 下を向いていた二人が、ガバッと上を向いてジャッキーを見た。


 ふふっ、食いついてきた。

「マフィンも食べてね」

 ジャッキーは最終兵器を出した。これで、二人に話しやすくなった。二人とも、元気があるように装っているけど、すぐ下を向く。


「アンナさんは、風のエレメンタルと契約しているんですか?」

「学生のころから妖精が見えるなんて、敵わないや」


「アンナは、パイを焼くのが得意よ。おばあちゃんに教わったって言ってた。そのパイをシルフとラフォーレがほしがったのよ。妖精は甘いものが大好きよ。その二人の妖精が、小6の時だったかしら、非常勤講師で来ていた大海先生に懐いたのね。あらあら、と思っていたけど、アンナもそうだったのよ。一目惚れってやつね」


「じゃあ小さいころから妖精が見えていたんですか」

「大海さんって、妖精カフェのマスターの!」


「大海先生は、たまに来てくださって、闇魔法を教えてくれたわ。トニー君の専攻でしょう、闇魔法」


「そうです。だから、ケンブリッジの物理学科を選んだんです」


「そうね。理解できれば、次元を超えることだってできるかもしれない。先生も、そう、仰っていたわ。大海先生だけど、専門は、アイテム収集よ。趣味は、ケーキ作り。それが、シルフとラフォーレが懐いた理由ね」


「アンナさん、その人と結婚したんでしょう」

「妖精カフェのマスターのことだぞ。腐海の空を飛んでいた人のことだぞ」

「うぇ、そうなのか」

「恋愛の方にだけ反応するなよ」


「そう、先生に会ったの。すごいでしょう。闇魔法を極めると、空を飛べるのよ。風魔法も、風に乗れば同じことができるわ」


「おれも、大海先生に習いたかったな。空を飛びたいですよ。自分たちは、習ったことが無いです」


「それがね、大海先生には敵がいたのよ。3年前に殺されそうになって、まだリハビリ中。リザード魔術師教団って聞いたことある?」


「火の魔術師教団ですよね。アンナの謎に到達したのは、この、教団を知ったからです」

「魔法を使って戦争を起こすなんて無茶苦茶だ。人と共存できなくなる」


「そうよ。でも、彼らの魔術は弱い。だから、強力なアイテムを集めているところみたいね。大海先生は、彼らの上を行くトレジャーハンターだったのね。だから、狙われた。アンナは、大海先生を助けていたのよ。そして、仲間も探していた。私は幼馴染だから、当然、アンナの味方よ」


「寮の暖炉に、トカゲの紋章を見つけたんです。最初はそんなに気にしていなかったんですが、たまにその紋章が位置を変えていたんです。気味悪いじゃないですか。それが教団を知ったきっかけです」


「敵も、自分の味方を増やそうと、学校にアプローチしているのよ。男の子の部屋は、それなんだ。女子寮は、釜土だったわ。私の話をする前に、あなたたちが解いた、アンナの謎を教えてくれる?」


 いつの間にか二人は、紅茶を飲み干していた。マフィンも1つ食べていた。ジャッキーは、二人にダージリンと、とっておきのマフィンのお代わりを用意した。

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