竜宮城
京爺は、重力魔法が使える。最初、もたもた泳いでいたら、「最初は、ついてくるだけでええぞ。そのうち教えてやるから」と言って、京爺の後についてくるよう私を引っ張ってくれた。でも、ちょっとした方向の修正は、自分でやらないといけない。重心も、良く分からなくて、苦労した。
「京爺、あれ。あれって、サメじゃない」
音と空気は、ウィンディがサポートしてくれている。
「海なんだから、サメぐらいいるに決まっているじゃない」
「ウィンディや、千里の世界のサメは怖いんじゃ。ジョーズじゃったかのう」
「そういう意味じゃなくて、襲ってこないの?」
「ああ、あれは、ナーワルシャーク。草食じゃ」
「草食のサメって」
「コバンザメだって、生き物を襲って食っとるわけじゃないじゃろ」
竜宮の天辺に着いたのだから、このまま真っ直ぐ、水竜王様の間に降りればよさそうだが、そうはいかない。正式ではないと言っても私たちは賓客。竜宮城の門を目指す。
アクアが、肩にとまって、パグーの海のことを教えてくれた。メイドたちは、クリオネのようなバリアブルな姿になっていたが、アクアとサラは、正装で、その姿が見える。いつものアクアとサラが、そこにいた。
アクアが、故郷に帰れて、とてもうれしそうに話す。
「竜宮城は海溝の底にありますから深いですけど、アララテ海は、浅い海ですのよ。ここでは、マナ藻を栽培しています。今のうちに見渡して下さい。これは全部、マナ藻荘園ですのよ」
そう言われるまで、ずっと、荘厳な竜宮城ばかり見てたけど、振り返って周りを見て驚いた。明るい海なので、遠くまで見渡せる。見事な緑のじゅうたん。
ゴボッ「これ全部、荘園なの!」
「荘園より小さい単位をマナ藻田と言うんじゃ。どうじゃ、田んぼみたいじゃろ」
「マナ藻園が、発達したおかげで、表層海は、平和ですわ。深海にいくほど無法地帯になります。弱肉強食と申しましょうか。デンジャラスになりますのよ。千里が心配している肉食の人達は、マナ藻があるので、無茶しなくなりましたわ。今は、魚を養殖して、それを皆さん主食にしていますのよ」
「私たちに海の文明は、無いけど、平和なのはわかる。だって、こんなに景色が穏やかで、清々しいもん」
「ありがとう」
京爺について、海溝の底まで降りて竜宮城の入場門を見上げた。高さが30メートルもある。幅も半端ない。きっと、とても巨大な海洋生物も、ここを出入りしているのだろうなと思う。
入場門まで来ると、大量の水妖精と人魚達がピチピチやって来た。
「アクア様、お帰りなさいませ。皆さんもどうぞ」
「サーヤ様、海王さまがお待ちです」
「ごめんなさい。先に言って待っています」
サーヤは、私たちと入城したかったみたい。人魚姫としては、そこまで大らかにはさせてもらえないのね。
人魚たちは先に行ったが、それでも、水妖精の数が半端ない。アクアは、王位継承権第3位の姫様だから仕方ない。城付きメイドに、侍従、近衛兵までいる。
みんな堂々としている。私は、京爺に引っ張られるまま、竜宮城に入城した。
「王の間に入ったら、わしが解説しちゃるから、千里は、ニコニコしとりゃあいいぞ」
「おしゃべりしていたら、怒られるんじゃないの?」
「海の文化は、火竜たちと違うんじゃ。行けば分かる」
竜宮城の中は、ドアがものすごく少ない。王の間も例外ではなかった。遠目に見ても分かる。天井も地上もない。部屋いっぱいに海洋生物がいた。その中でも、一番奥にとぐろを巻いている水竜王の存在感は別格。
「ええか、この人数で、音を発したら、共鳴して何言っとるかわからんようになる。だから、海中は、テレパシーが発達した。このテレパシーの声は、広域にもできるし個人で話すこともできるんじゃ」
「でもね。こういう、正式な謁見は、音声よ。私たちは、声で受け答えするのよ」
「私は、それしかできない」
「テレパシーを使わないといけないときは、私が代弁する」
「わしが解説じゃ」
「わかった」
「京爺、私にも解説して」と、サラ。
サラには、基礎知識があるのだろうが、詳細を知りたそうにする。私とサラは、目で合図し合った。私たちは、ちょっと訳ありなのだ。謁見しているときにする必要はないが、火龍王とリクシャン王妃との約束がある。
「アクア様一行、おなーりー」
奥には、水竜王。その右手前に、サーヤの父親の海王。左手前に甲殻族の族長がいた。水竜王は、大きな竜玉を前において、私たちに声をかけてくれた。
「アクア姫、よう戻ってきた。それに友達まで。皆、この竜玉の前に来ると良い。わしらに、姿を良く見せてくれ」
「竜玉は、火龍王の額にある龍玉と同じじゃ」
「竜玉の前に行くってことは、広域放送と同じことよ」
アクア、サラ、それに続いて、私、ウィンディ、京爺、サイモンと続く。メイドたちは、所定の位置から動かない。
竜玉は、私の身長と変わらないぐらい大きく、透明な水晶玉に見える。
「水竜王様、お元気そうでいらして何よりです」
アクアが、スカートを少し上げて挨拶をする。
「友達を皆、連れてきたのであろうな。おお、そなたがサラか、火龍王の宝石」
「サラでございます」
サラは、タイトなスカート。ひざを折るようにして右手を手前から胸に持ってきてお辞儀をする。
「ウィンディ、前にいらして。水竜王様、ウィンディです」
ウィンディとしては、ただの付き添いのつもりだったが、ちょっと前に出て深々とお辞儀した。
「ウィンディでございます」
「ごめんなさい、ヒイラギは、妖精の絹のハンカチを織っていますので、今日は来ていません」
「残念じゃのう」
「今度、お連れします。そして、千里です。わたくし達は、全員、千里と契約しました。これから、妖精のガラス糸をサラと、千里と一緒に紡ぎます」
「宵野千里です」
ウィンディが深々とお辞儀をしていたので、私も、ものすごくそうした。
「宵野、宵野じゃと。フォブ、知っておったじゃろ」
「仁人さまが、驚かれる顔を久々に見ましたわい」
水竜王の左側にいる、ヤドカリのような甲殻人が、とてもうれしそうにした。
「こやつ。 それでは、千里は、ゴールドヘクロディアなのじゃな」
「さようでございますぞ」
「千里、すまんが目を見せてくれるか」
竜玉に私の目が大写しにされた。周りの人は、皆、水竜王のテレパシー映像で、ダイレクトにそれを見る。私も、自分の目を、こんなに大写しで見たのは、始めて。
おーーー
水竜王の間で、ため息が漏れる。
私の目が動くごとに、目の中で、上下に、赤くなったり青くなったりしている。そして、私の目の中で、赤い光と青い光が対流していた。
「アクア、よくやった」
「ありがとうございます。それで、わたくし、千里が勤めている妖精カフェで、もっと魔法の修行がしとうございます」
アクア付きのメイド。マーナは、「アクア様やっちゃったわ」と、口を押えている。
「良いのではないか。それは、我ら全体の益となる」
アクアは、既成事実をトップダウンで作った。水竜王が何気なく言っていることは、水の精霊界の重要案件を裁定した形となった。水妖精第三皇女は、妖精カフェに居て良いことになった。
「水竜王!」
「仁人」
左右の海王とフォブが、慌てて、水竜王を止めたが遅かった。
「しもうた。勅語になってしもうたか。まあ、良いであろう。右大臣、左大臣」
アクアは、満面の笑みを浮かべた。そして、スカートをちょっと上げて、お辞儀する。
海王とフォブの判断は、早かった。
海王が、私たちに声をかけた。
「サラ、ウィンディ、そして千里。アクアを頼むぞ」
私たちは、ひざを曲げて、胸に手を置き、それを肯定した。
フォブが、勅語を賜ったと宣言。
「アクアは、妖精カフェに、居て良い。よいか皆の者。京極と、サイモン。おぬしらが、立会人じゃぞ。アクアを頼むぞ」
京爺と、サイモンは、苦い顔をしながら、これを受けた。
ワーーーー
と、大きな声が、この場に響いた。
わたしは、心配して、妖精たちを見たけど、手をあげて肯定しているので、喜んでいるんだろうなと思う。クリオネの羽の部分が手だと断定。多分間違いない。
― 京爺、勅語って?
― アクアめ、やってくれたのう。普通、水竜王は、海の中の、政治にも軍事にも口出しせん。右に居る海王が将軍で、左に居るフォブが大臣じゃ、フォブが、政治を司っている。水竜王は、権威の象徴。将軍と大臣を任命するだけじゃ。じゃが、任命するんじゃぞ。水竜王が一番偉いに決まっとる。その水竜王が、うかつにも、水の妖精、第三皇女に、妖精カフェに居て良いと裁定してしもうたんじゃ
― じゃあ
― ここは、公式の場じゃぞ。その言葉を将軍と、大臣が認めた。フォブめ、その上、わしと、サイモンを、アクアの後見人にしよった。
― 後見人になってくれるんでしょ
― さっき、頭を下げたじゃろ
― ありがと、京爺
― よろしくね。京爺
ウィンディが、私たちの会話に割り込んできた。これで、私たち、ずっと一緒に居られる。
その後は、和やかな話になった。昼食の準備を迎賓宮にしているというので、そのまま移動することになった。




