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妖精カフェ  作者: 星村直樹
アルバイトはカフェで
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異世界の扉

 4月までは、1日中、ここにいることができる。今日、妖精カフェは、お休みの日なのだが、朝10時にお店に来て研修を受けながらのんびりとやればいいと言われた。


「おはようございます」


「時間通りね」

「千里君、来たね。ぼくは、奥を掃除しているね」

 そう言ってマスターの大海博史さんは、奥に引っ込んでしまった。ここは制服がなく、私服で仕事をする。休憩室がないので、奥の棚に私物を置いただけで、店の掃除に取り掛かった。奥は、今日もやっているらしく、焼きたてのケーキがいっぱい置いてある。


「うちのは、全部、お手製なのよ」

「じゃあ、一昨日来たとき私が食べたレアチーズケーキもそうなんですか」

「レアチーズケーキ!あれは、マスターが作っているのよ」

「以外!アンナさんが作っているのかと思った」

「私も作れるわよ。でも、パイの方が得意かな。おばあちゃんが得意だったから」

「食べてみたいです」

「試食させてあげるね」


 昨日、不思議だと思っていたけどそのままスルーした。あの、ピクシーみたいな風の妖精。ウィンディのことが気になる。


「ウィンディは、居ないんですか」

「奥よ。妖精がいるカフェは、今日もやっているのよ。博史さんと準備していると思うわ」


 アンナは、私に慣れてくると、マスターを博史さんと呼ぶようになる。公にはマスターなのだが、なんだか、のろけられているように聞こえる。アンナと仲良くなったら、絶対なれそめを聞くんだ。



 ここは、喫茶スペースの隣にアンティークショップがある。喫茶スペースもアンティークショップに雰囲気を合わせて、全部木製のアンティークの椅子と食台を使っていて、この店によく調和している。食台は、重そうで、ちょっと動かせそうにない。椅子もそうなので、食台の上に置いて掃除しないで、出し入れして掃除をする。床も重厚な感じの木製。たまに、ぬか袋で磨いているそうだ。ぬかとは、お米を精米するときでる粉で、これが一番いいのだと言っていた。


「表の品物は、危なくないから、アンティークのお店も掃除してね」


「危ないって?」


「一般の人が買っても大丈夫ってこと。昨日のプラントオパールなんかも安全なんだけど、宝石でしょう。高価なものも、奥のお店に置いているのよ」


「どんなものが危ないんですか」


「表のお店に慣れたら、おいおい教えてあげる。まずは、普通のアンティークを覚えないとね。でも、そうねぇ、これは、ステンドグラスで作った電気スタンドでしょう。でも、奥には、走馬灯っていうアイテムがあるのね。それを回すと、一瞬、魂が抜けちゃうのよ」


「えー」


「一瞬死んじゃうってこと。危ないじゃない。だから、当分、奥の品物には触らないこと。表の品物を覚えるのが先よ。でも、先にお客様対応かな。その後は、カフェの作業。紅茶もコーヒーも、ちょっとコツがいるのよ。うちは、機械じゃないから」


「はい」


「いい返事よ」


 この時、お客さんに、奥のお店の話しはしないでねと、念押しされた。魂が抜けるようなアイテムなんか、売ったら大変。私は、真剣に頷いた。



 研修が、ひと段落して、お昼になった。それで、奥の部屋で昼食になった。奥に行ったのだが、妖精がいるカフェはなく、魔法アイテムが置いてあるお店もなかった。アンナは、この家のリビングに案内してくれて、簡単なものでごめんねと言いながら、ミートソーススパゲティをご馳走してくれた。


「どうしたの、きょろきょろして」

「妖精さんたち、いないなと思って」

「そうね。じゃあ、スパゲティ食べてから教えてあげる。じゃないと、さめちゃうわ」

「いただきます」


 アンナは、コーヒーも入れてくれた。それは、とっても美味しいコーヒーだった。

「フレバーコーヒーよ」

「わたし、ドリップしたコーヒーなんて苦くてだめだと、あまり飲んだことなかったです。ですけど、これなら、お砂糖なしで、お茶感覚で飲めます」

「よかった。千里は、何にでも感動してくれるから、こっちも嬉しくなるわ」


 食事がおわって、アンナお手製のパイとコーヒーのお代わりを貰いながら、ウィンディがいるカフェのことを教えてもらった。


「昨日、ウィンディが、魔法使いは、悪い魔法使いもいるって言ってたでしょう。でも、すぐ問題を起こすのは魔術師よ。実は、彼らは、とっても魔法が下手なのよ。なのに、背伸びして無茶するから、私たちにも人間界にも迷惑かけるのね。妖精たちは、何かしらの魔法を自然と身に着けて生まれてくるの。魔術師は、妖精を捕まえて、無理やり、自分たちのために働かそうとするのよ。だから、みんなを守るために、妖精たちがいるところに行く扉には、時限断層を設けているのね。その薄い膜は、6次元の膜で、虫たちも感知できないわ。でも、千里には、通り方を教えてあげるね」


「6次元って、ここは、3次元の世界ですよね」


「私たちの世界は、空間の3次元に、時間の1次元を足した4次元世界よ。虫たちは、空間連鎖って言う5次元も感知できるのね。魔法使いには、虫を使い魔にしている人もいるわ。だから、その5次元より高位の次元、6次元の膜を出入り口にして、妖精たちの世界を守っているのよ」


「妖精の世界ってどこにあるんですか」


「異世界よ。みんな精霊界って呼んでる。火、水、風、土の精霊がいるからよ。私たちの世界とは、理の違う世界で、簡単に言うと、魔法が使える世界よ」


「昨日魔法使いがいるって言ってましたけど、じゃあ、それは、精霊界のことで、私たちの世界のことじゃあ、なかったんだ」


「そんなことないわ。原子より小さな世界は、混とんとしている。そこは、私たちの世界なのに、ウィンディの世界の理もある所よ。だから、科学の先には、魔法世界が広がっているのよ」


「科学の先ですか?」


「そうね。私は、人間界の魔法学校出身よ。おいおい、話すわ。まず、科学を理解しないとね。精霊界には、妖精のほかに、擬人化人や龍族がいるわ。お客さんは、魔法が使える以外、私たちと変わらないのよ。社会制度は違うけど、私たちは、彼らから見て異世界人で、治外法権的な所にお店を出しているから枠外でしょう。モラルもそんなに変わらないし、普通に接して大丈夫よ」


 妖精カフェの本当の入り口のカギ。それは、今の科学では、何億分の一の、何億分の一という確率でしか見つからない局所ブラックホールに触ることである。ブラックホールとは、光でもどんな物でも吸い込んで、外に逃がさない宇宙の星だと思っていたが、常に発生しては蒸発しているとても身近なものだそうで、それに触れることができると、ウィンディがいる異世界に行くことができるよう扉に細工しているそうだ。


「異世界に行くなんて、人に見られるわけにはいかない。だから、お店から、このリビングに入るのは、目くらましで、二階の自宅に上がる扉に仕掛けをしているのよ。まず、ここを押して、膜を発生させてね。それで、膜を通れば、ウィンディがいるカフェに行くことができるわ」


 膜ができたのは、認識できた。 二階に上がる入り口が、ちょっと黄色く光って見える。でも、ブラックホールって、黒いんじゃないの?


「ううん?ブラックホールは?」


「ミクロの世界の話だから見えないわ。この膜面の上でもいっぱい発生しているのよ。後は、触ることができる人しか通れないけど。千里は、大丈夫よ。これは、とっても薄い膜だけど、物凄い重力がかかっているのね。だから、出入りするだけで、こっちの世界より時間が1秒進むのが遅れるの。以前は、もっとずれて大変だったけど、博史さんが改良してくれたのよ。どう、博史さんってすごいでしょ」


「う~ん、今のところ、理解不能です」

 とりあえず膜に触ってみることにした。

「あれっ?触っても何も起きません」


「千里は、目にその触覚があるんじゃないかな。一回感じれば、指先でもできるようになるわよ。とにかく、通ってみて」


 アンナに言われるままに膜を通ると、目の所で、宇宙が爆発するような感覚を感じた。私は、物心ついたころから、目の中の視界の端に、赤い光と青い光が流れているのが見えていた。最近では、視界の中にも、その青い光と赤い光があるのを認識していたが、これが何なのか、いくらネットで調べても出てこなかった。どうやら、アンナの言う次元を感じる触覚がそれを見せているようだった。


 一寸先は闇?

「きゃー」

 そこは、奈落の底かと思うぐらい暗黒で、私はどこに向かっているのかわからなくなった。


「止まっちゃダメ」

 アンナが私の背中を押した。ちょっとこけそうになり、かがみこんでしまった。


「千里、もう、大丈夫よ。目を開けてみて」


 カフェは、森の高台に有った。ここは、天窓から陽射が入っていて、とても明るい。3月の東京と違って暖かく、カウンターが小さく見えるぐらい広々していた。


 ひゆー、ふふー(千里、来たんだ)

 ウィンディが、店内からカウンターに、嬉しそうに飛んできた。


「ウィンディ」

 そう言って、ウィンディの前に指先を差し出した。嬉しそうにタッチするウィンディ。さっきの暗黒は何だったんだろう。ウィンディと指先タッチして落ち着いた。


 ひゅーひゅー(もしかして、時限断層を見ちゃったのかな。目が泳いでいない?)


「そうなの。ちょっと休ませてあげて」


 ふゅー(わかった) ひゆーしゅー(千里、こっちに来て)

「千里。ウィンディについて行って。オープンスペースは絶景よ」



 そこは、眼下に森と林と草原と、遠くに海を見下ろすことができる絶景の場所だった。遠くに飛んでいる翼竜は見たことがなく、ここが異世界だと思い知らされる。私は、ここに座ってというウィンディのポーズをよそに、この絶景の中に立ち尽くした。

お茶感覚で飲めるコーヒーと言うと、ハワイのコナコーヒーが有名。ハワイで、アメリカンコーヒーを飲んだ時、飲みやすさと美味しさで、これが、アメリカンコーヒーなんだと目から鱗だった。これ、ホワイトハウスの晩餐会で、必ず出されるコーヒー。ライオン印なら大概コナがブレンドされている。ここのフレバ―コーヒーも美味しい。

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