4大精霊が協力し合ってハンカチを
3月の終わりの週、精霊界、妖精カフェ。千里の部屋の前にある作業場
5人は、紅茶で乾杯していた。トラングラー魔法学園のクリスタ学園長に、妖精の絹のハンカチと、ガラスのハンカチを1週間で作れと言われてから3日目。妖精の絹糸を完成させたのである。後は、機織り機でハンカチにするだけ。ガラスのハンカチを作る期間を4日も残しての完成だった。
「乾杯、これで、私たち、ずっと一緒だね」
「ヒイラギ甘い。まだわからないよ。ガラスの糸の方が大変なんだよ」
「サラの言う通りですわ。でも、半分出来たのですよ。最悪ごまかせるのでは?もちろん最善を尽くします」
「二人とも、頑張ろうね」
妖精の絹糸は信じられないぐらい細くてつややかなのに、ガラスの糸は、これより細くしないといけない。ここからは、サラと、アクアと3人での作業になる。ヒイラギは、絹のハンカチの機織り。ウィンディは、妖精カフェに戻ることになった。
「赤夏と氷水晶を一緒にしたブレスレットは完成しましたの?」
「本当は、ブローチが、ほとんど完成していたのよ。あなたたちが、それを早く言ってくれないから、修正中なの。もうちょっと待って」
「ガラスの糸を依る千里の右腕に、ぼくたちの触媒をつけた方が、微調整できるのは間違いないもんね」
「マスターは、徹夜していたみたいだから、もう、出来るんじゃないかな。今朝来ときは、ケーキも焼いてなかったし。急いでやってくれたのよ」
今日の御茶請けは、アンナ特製のラズベリーパイ。
「そうね。今日は、ここまででいいんじゃない」
ウィンディの提案通り、解散することになった。みんな秘密の部屋に戻って、自分の王国を建設する。
最初、絹糸をうまく引き伸ばせないで、ぼこぼこにしていたのは、私が、ウィンディの触媒である、風硝石しか身に着けていなかったためで、ヒイラギの触媒になる唐津勾玉をマスターにもらって、同時に持つことで、いきなり、綺麗な妖精の絹糸を作れるようになった。でも、普通は、この二つのアイテムを一緒にすると、更なる不協和音を発するとマスターが言っていた。私は、こういう合わせ技に相性が良いらしく。とてもうまくいった。試しに、もっと厳しいであろうと言われる赤夏と、氷水晶の原石も二つ持ってみた。けれど、不協和音を起こすことはなかった。
私も自分の部屋に戻ったけど、東京のアパートもそうだが、私は給料が入るまで、自分の部屋に家具を置くことができない。アンナに和布団をもらったので、ここで仮眠することは出来る。だけど、だだっ広くて落ち着かない。カウンターでも手伝おうかなと思って、カフェに戻ることにした。
カウンターに戻ると京爺が、珍しくお酒を飲まないで、コーヒーを飲んでいた。このあいだ、ヤマメ屋で仕入れたコーヒー豆が、いたく気に入ったらしい。
「おう千里。妖精の絹糸が出来たんじゃて」
「この間、腐海で、ヒイラギと共同作業したからかな。ウィンディは、ずっと言葉の翻訳のために力を貸してくれてるし。魔力の調節がやりやすかったから、すく出来たんですよ」
「そりゃすごい。でも次はガラスの糸じゃろ。ここからが大変じゃぞ」
「頑張る。それにしても京爺は、今日も早いのね。本当は、いつも夕方に来るんでしょ」
「酒を飲みたいからの。今日は、サイモンに呼ばれたんじゃ。ここで待ち合わせなんじゃが、遅いのー。サイモンとは飲み仲間じゃから、久々に飲もうという話じゃと思うんだが」
ここは、カフェなのに、サイモンも、お酒を出せっていう人。サイモンは、この妖精カフェがある森の大樹に住んでいる竜の擬人化人で竜人の王。龍王だから、偉い人なのだが、最近は、4大竜に呼ばれまくって、精霊界中を走り回っている。本当に偉いんだかどうだか、新婚なのに、ずっと家を留守にしていて、奥さんのターシャが、かわいそう。
「京爺すまん、遅れた」
「やっと来たか。なんだか忙しそうじゃの」
「そうなのだ。ずっと家を空けていただろ。久々に帰ったんだが、ナーシャに絞られてな。なかなか、ここにこれなかったのだ」
あたりまえよ
溜まっていた食器を洗いながら、胸の中で相槌を打った。
「サイモンさん、ウィスキーのロックでいいですか?」
「いや、京爺と同じものを貰おうか」
「なんじゃ、かしこまって」
「実は、火竜と水竜の間で、戦争が起きそうなのだ。京爺、相談に乗ってくれ」
「エリシウム山に火竜が集まっとるあれか。そんなにやばいんか」
「詳細は、ここでは話せんが、まずいことになった」
「平和を紡ぎたいんなら、ほれ、ここに千里がおるじゃろ」
「私ですか?」
「そうじゃ、4大精霊と一度に契約できた人間じゃぞ。火龍王なら、サラと。水龍王なら、アクアと謁見してみい。そりゃあ、王は喜ぶに決まっとる。そのうえで、千里のことを紹介して話してやれば、4大竜が仲良くできるとわかるじゃろ。どうじゃ、冴えた考えじゃろ」
「千里君、頼むよ」
「えー無理です」
「そうじゃ、絹のハンカチとガラスのハンカチを献上すると言って、妖精王たちに謁見するのもええな。どうせ、みんなの手前、会いに行くじゃろ」
「もう、飛躍させないでください。まだ、ガラスの糸を作っていないのに」
そう言って、とりあえず、お冷をサイモンの前に出した。
「平和のためなら何でもやりたい。千里君、考えてくれないか」
「はァ・」
「それで、側近達の様子はどうなんじゃ」
「昔から火竜は、精霊界統一だろう。反対する者は少ないのだが、今回ばかりは、火龍王が強引なのはわかっているようだ」
「水竜さんたちは、どんな考えなんですか」
「こりゃ、仕事に専念せんか」
「だって、本当に謁見することになったら、知ってないとまずいじゃないですか」
「まあまあ、京爺。水竜は、全種族が個々に発展するのがいいと思っているのだ。そうすれば、宇宙に版図を広げた時、同郷の種族が多くの星にいることになるだろう。広い宇宙に孤立しないで済む。人間界と違って、知的生命体の種族が豊富なのを生かすべきだと考えている」
「エグゾダスですね。私、水竜さんに1票です」
「火竜の考えもまんざらではないんじゃぞ。統一して一丸となれば、エグゾダスの時期が早まる」
「個性は減るがな」
「エグゾダスするということは、文化が発展するということじゃ。当然、生活も豊かになる。しかし、文化がバラバラだと、最終的には戦争の火種になるかもしれん。根元が一緒なのもそう悪くないんじゃ」
「難しいんですね。そんなの協力し合えばいいだけじゃないですか」
「そこでじゃ、4大精霊が協力し合って作ったハンカチをじゃな」
「あー、そこに話を戻した」
「わははは。やはり、千里君に王のもとに、行ってもらおう。そうだ、博史とアンナを呼んでもらえるかな。二人にも相談したい」
「分かりました、じゃあ、アンナさんと交代しますね」
そう言って、サイモンに、エスプレッソを出して、2階の雑貨店でマスターを呼び、東京側に走った。
この後、とてもきつい話し合いを、この4人でしていたことを私は知らない。でも、一つだけ、強烈な出会いがあったので、この時の話じゃないかと、後々思うようになる。忘れもしない、あの、背の高いイギリス紳士。




