ウィンディたちの親
今日最初のお客さんは、ターシャとナーシャ。マスターが、私用の光玉豆を作ってくれたので、これで、ターシャとナーシャに、おごれるようになった。だけど、初給料をもらってからかな。二人には、とってもお世話になる気がするんだけど、今おごるなんて言うと、「給料を貰ったことないのに?」と怒られそう。
「いらっしゃいませ」
二人は、いつも、カウンターに座るみたい。私の部署だ。
「カフェラテね。昨日のカフェラテ美味しかったわ」
「すいません、昨日の豆は試供品で、まだ入ってきてません」
「そうなの!でも、いいわ。ナーシャもいいでしょ」
「私もカフェラテ」
二人は、昨日言っていた、擬人化人誕生祭が近いので、その話をしていた。二人は、由緒ある有翼族の名家の出で、擬人化人誕生祭のメインイベントで、舞を舞うことになっている。その打ち合わせをしているみたいだった。
「千里、ちょっと来てー」
ウィンディだ。南のテラス側に呼ばれた。そこには、ウィンディより一回り大きな風の妖精が2人いた。
「うちの親よ」
「これ、ウィンディ」
「ウィンディ」
「わたくしの、お父様とお母さまよ」
ウィンディが、サラたちは、良家のお嬢さんだと言っていたから、ウィンディもそうじゃないかなと思っていたけど、やっぱり。
妖精服の十二一重っていうのかな。ご両親は、とても威厳のある恰好をしている。
「初めまして、宵野千里と申します。ウィンディには、お世話になってます」
「君が千里君か」
「ゴールドヘクロディアなんでしょう。近くで見せてください」
言われるままに顔を近づけた。
「まあ、綺麗。まるで宇宙をのぞき込んでいる様。ねっ、あなた」
「うむ。ウインディを妖精カフェに出して正解だったな」
「契約したのよね」
「そうよ。じゃないと話せないでしょ。でも、サラも、アクアも、ヒイラギも契約したわ」
「なんだと。手が早い」
「あなた、ウィンディのお友達ですよ」
「だからと言って、私が仲良くする必要は、あるまい」
「仲良くしてよ」
「ウィンディ?」
私は、はてなマークをいっぱい頭の上に浮かべた。
「後でね」
ウィンディは、その話は、今しないでと目で訴えてきた。
そう言えば、ウィンディたちの秘密の部屋は、平和の最後の砦だと言っていた。不穏な話な気がして、この話をスルーすることにした。
「相手も、王族なのですよ。私たちが平和を紡がなくて、どうします」
「い、いや、すまん」
王族? とにかく、ウィンディは、お母さん似ね
「ウィンディは、王族なの」
「一応、私って第7継承権の姫様ってことになっているけど。ほとんど関係ないわ。じゃないと、ここで働かせてもらえない」
「私は、学者肌でな。若いころは、国を出ることが多かった。今は、この中立地帯の大使をしている。これでも平和主義者なのだぞ。だが、ウィンディは、わしに輪をかけて民主主義なのだ」
「妖精界だけなんて、世界が狭いわ。このエリシウム島だけでも、いっぱい他種族がいるのよ」
「人間界はいいですね。人しかいないのですから」
あー、ちょっとわかって来た。
「そんなことないです。今でも戦争や紛争や、テロが絶えないです」
「それでもだ。惑星中に繁栄しているのだろう。こちらの方が、知的生命としての歴史は古いのに、エグゾダスは、先を越されそうだな」
「エクゾダスって?」
「宇宙に生活圏を広げるってことよ。そんな感じでしょう」
「まだ、まだ、だと思います」
「あなた、ウィンディは、これからサラさんたちと一緒に、妖精のハンカチを作るのよ。すばらしいことじゃない」
「本当か」
「4大精霊が、千里と契約したのよ。できるに決まっているでしょ」
あわわわ、クリスタ先生に言われた時は、頭を抱えていたくせに
「ねっ、千里」
「まだ魔法の話を聞いたばかりで、これからです」
「4大精霊が一緒にならないとできない、王の服を作ることもできるのね。楽しみだわ」
「うーむ。誰がそれを着ることになるのやら」
「そんなの羽衣をいっぱい作って、みんなに着てもらうわよ」
よくわかんないけど、だぶんハードル上げたー
「ねっ、千里」
「う、うん」
「それは素晴らしい。千里君。できたら、ぜひ譲ってくれ。おうひ女王に献上する」
「は、はい」
「私たちの屋敷に遊びにいらしてね」
「待っているぞ」
「ありがとうございます」
「お父様とお母さまには、昨日貰った豆を使って、カフェラテね」
「はーい」
試供品だから、初めて飲む人には出せる。なんだか最敬礼して、カウンターに戻った。本当に今日こそ、あゆに電話しよう。
この後、午後3時に、サラたちも、親を連れて、妖精カフェにやって来た。なんでか、みんな、離れたところに席を取り、私を呼ぶ。そして、ウィンディの親と交わしたような話をした。同じ話なのだから、まとめてしてもらいたかった。
驚いたのは、アクアで、王位継承権第3皇女だった。父親は、王の弟。みんなと違って、王の第一王子と第二王子に何かあったら、本当に、女王になるポジションだ。本人は、どっちでもいいって感じなくせに、ここで働きたがっているから、親が困っている。でも、私を見て、アクアの気持をくむつもりになっていた。なんだか、決断しているって感じ。
これで分かった。だから、4大精霊の妖精守備隊の人がいっぱいいるのね。私もそうだけど、日本人って、あまり権力者を好奇の目で見ない。お父さんの時代なんかは、1億総中流社会って言われた時代があったくらいだ。先に友達になったせいもあるが、本人たちと話すと普通になるから不思議。
そんな事が有って、すべての親と面識を持った後、マスターが、交代にやって来た。これから、5人で、ハンカチ制作の打ち合わせをする。みんな、親の心配をよそに、作業場に行くことになった。