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妖精カフェ  作者: 星村直樹
アルバイトはカフェで
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アルバイトはカフェで

 お、おかしいな。昨日まで、バイトの募集してたのに、張り紙がない


 3月の半ば早々に東京に出てきた私は、お風呂の無い木造アパートに落ち着いた。だから、銭湯に行かなくてはいけないのだが、近所の銭湯の番台に座っているのは、おじさんで、ちょっと恥ずかしい。でも、他の銭湯は遠すぎて、自転車がないといけない。自転車がないから、それも、いやだなと思ってしまった。バイトをすれば、お風呂付に引っ越せる。お母さんは、「そんなの、お金を貯めているうちに慣れるわよ」と、おっかなびっくりな私を笑うが、どうせバイトをしなくてはいけないのだから、「学校が始まる前に見つけて慣れておくべきよ」。そう言うと、「頑張んなさい」と、励まされた。


 アパートの近くに、アンティークのお店を兼ねた「妖精カフェ」がある。私が東京に出て、初めて入ったお店だ。注文を取りに来てくれた人は、私より、ちょっと年上で、落ち着いた感じの女の人。その人、私服だったし、気さくな感じで、とっても好感が持てた。このカフェは私服で仕事ができるカフェなのだろう。そこが物凄く気に入った。その時、店の中には、確かに、バイト募集の張り紙があったのだが、今日は無い。張り紙が貼ってあったのが、店の中だったので、勢い込んで、店に入ってしまった。私が、初めて来たときと同じように店内は、閑散としていたので、募集を止めたのかもしれないが、あの、お姉さんに声をかけた後に、そのことに気づいたので、もじもじしてしまった。


 駄目で元々よ


 そう、思って、手をぎゅっと握っていると、優しそうな顔をしたマスターが奥から出てきて対応してくれた。


「やあ。いらっしゃい。アルバイトの応募で来てくれたんだね。名前を教えてくれないか」


「宵野千里です」

 そう言って、履歴書の入った封筒を差し出した。


「千里君は、アンティークに興味があるの?それとも、カフェかな」


 ここは、ちょっと頑張ってみる。

「両方です」

 本当は、アンティークの方は、よくわかんない。


「ふーん、いいね。紅茶でいいかな。ちょっと座って面接しよう」


「お願いします」


「アンナ、紅茶を持ってきてくれるかな」

「はい、マスター」


 えー、あの人、外国人!

 東京は、何でも、新鮮に見える。


「これなんだけど、見えるかな」


 それは、洒落た、小さなガラスの小鉢の上に乗っている宝石だった。私は、目がいい方だ。小さな皿いっぱいにのっている信じられないぐらい小さな宝石に目を奪われた。


「きれい。色々な形が、あるんですね」


「すごいな、見えるんだ。普通、顕微鏡じゃないと見えないんだけど」


 マスターは、にっこり笑って頷いている。とっても良い印象持ってくれたとおもった。


「これはね。プラントオパールと言う宝石だよ。この一皿で、森を作ることができるんだ」

「森ですか?」

「千里君は、アンティーク向きかもしれないね」


 マスターが、なんだか高笑いをしているように見える。その横から、アンナが、ニコニコしながら、紅茶を出してくれた。


「あなた。給仕の方も試してください」


 へっ?


「そうだね。ウィンディを連れてきてくれるかな」

「はい、マスター」

 アンナは、嬉しそうに、店の奥に走った。


「あのう、アンナさんって、マスターの奥さんなんですか?」


「わははは。若い奥さんだろ。近所の人にも良く言われるよ」


 いやいや、若過ぎでしょ

 ものすごーく突っ込みたくなった。マスターは、40代に見える。対してアンナは、20代前半、もしかしたら19歳かもしれない。これは、事件ですよ。どこで、知り合ったのか聞きたくなったが面接中だ。とりあえず、最初の疑問。


「アンナさんは、外国の方ですか。おきれいですね」


「日本人だよ。でも、おじいさんが、イギリスの人なんだ。だから、日本人離れした顔立ちしているのかな」


 クオーターなんだ


「千里君は、郷里が岡山か。ぼくは、東京だよ」


「あなた。連れてきたわ」


「おう、ウィンディ。千里君だ」


 ひゅー、ふっ、ふーふー


「えっ!えーーーーー」


 目の前に、浮かんでいる、小さな妖精。それが、ウィンディだった。透明な羽根があり、女の子に見える。緑で、明るいゴシック調の服を着ていて可愛い。


「なんですか、これ」

 驚く私に、アンナが答えてくれた。


「風のウィンディよ。風のエレメンタルより上級なのよ」

 ひゅーひゅー

「ウィンディ、ごめんよ。彼女、言葉が、わからないんだよ」


 確かに何かひゅーひゅー言ってる。

「これ、生き物ですよね」

 指さす私しの指先に、ウィンディが触れてきた。


 ひゅー、ひゅ、ひゅー


「たまたまだよ」

「指を出してくれたんじゃなくて、あなたを指さしたの」

 ぴゅーー


「でも、合格ね」

「そうだね。言葉は、そのうち憶えるさ」

「ウィンディは、おしゃべりよ。お友達になりたいって言ってるわ。さっき千里が出した指を触ったのは、握手ってことよ」


「千里君、明日から来てくれるかな。明日お店は休みだから、ゆっくり研修するといい。詳細は、アンナと話してくれ」


 口をぱくぱくして驚いていたのだけど、三人のニコニコ顔に、ハイと答えてしまった。


 マスターと入れ替えで、私の隣に座ったアンナの肩にウィンディが乗って機嫌よく何かひゅーひゅー言っている。アンナは、仕事の詳細を教えてくれた。


「ここは、普通のアンティークショップとカフェ。だけど奥は、魔法用の雑貨屋とカフェよ。奥のカフェは、妖精たちやご近所さんの溜り場になっているのね。妖精たちの、お茶代が、お金じゃないから、最初は、大変かもしれないけど、頑張ってね」


 ひゅー、ひゅー

「そうね、最初は、言葉を覚えないとね。魔法使いも来るけど、雑貨を買ってくれるだけで、あまりお茶してくれないのよ。最初は、見たことがない商品を覚えたり、妖精たちの言葉を覚えないといけないから大変だけど頑張って」


 ひゅーひゅー

 どうも、何でも、ウィンディが、かぶって話しているようだ。

「わかったわ。聞いて。魔法使いって、いい魔法使いばかりじゃないのよ。特に魔術師達が問題を起こすわ。戦争には、なかなかならないと思うけど、気を付けて。最初は、ウィンディについてもらうのがいいわ。お客さんが、どんな人か教えてもらってね」


「でも、言葉が分からないです」


「すぐ慣れるわよ」

 ひゅーひゅー(京爺に頼も)


 本当に聞きたいのは、魔法使いって、いったいどういうことですかってことだけど、注意事項を聞くのが、精一杯。やっぱり東京って、変わってる。この時は、この異常事態をそんな風に考えて、当たり前にしてしまっていた。本当に東京は、見るもの聞くもの新しいことだらけだ。翌日から当分、研修の日々が続く。でも、ちょっとお母さんに、魔法使いなんて話は、話しづらい。結局、バイトに合格したとだけを話した。



 あの時は、見分け方がわからないので聞き流していたが、アンナは、悪い魔法使いや魔術師には、雑貨を売らないでねと言っていた。私は、多分魔術師に雑貨を売ってしまった。その後、私の失敗に端を発した事件が起こることになる。私は、それをきっかけに、魔法の修行をするようになった。幸い、同い年の友達もできた。私の東京ライフは、とても充実したものとなった。

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