2
「最強の名を冠す月白組の頭領が女だとは思っていなかった、か……まぁそうだろうね。そもそもこの軍、しかも最前線の対ミハルト・ニトロス師団に女なんて殆どいないし」
純白の女は呆れ顔で右手に持ったティーカップに口をつける。座っているからよくわからないが、身長は多分175センチの俺より小さくて、体重だってずっと軽そうな細い身体。多少肉はついているが、それでもここに詰めてる一般兵士には明らかに見劣りするほど細い。
あまりの衝撃的事実に扉を閉めるのを忘れた俺に、「肌寒いから閉めてくれ」と指示するまで、俺は硬直したままだった。
「なんだ? お前、月白組に憧れてたんだろ? その顔はどうしたんだよ」
「いや、だって月白組って……ん? 組? 組なんですか?」
ある違和感に気付いた。兵役時代に仲間と8人ですし詰めにされていた部屋に比べ2倍3倍はありそうな執務室には、俺と彼女しかいない。“月白組”というくらいなんだから、他のメンバーがいてもおかしくは無いと思うんだが……。
「他の組員は募集中だよ。何年前だったっけ? 私1人で月白組を結成して、お前が2人目」
「はひぃ……?」
「口の聞き方がなってないねぇ。安心していいよ、かつての組員は全員死んだとかじゃないから。お前が正真正銘の2人目だ」
「いや、そういうことじゃなくて……いやそれも気になるんですけど……」
手袋をした手でろくろを回しながら、言われたことを鵜呑みにも出来ず質問を重ねる。
2人目? 俺が?
「えっと……あの……」
「何がわからないかわからないって顔してるね……いいよ、全部説明するから」
先ほど以上の呆れ顔でカップをソーサーに戻しソファの前のテーブルに置くと、彼女は俺の隣……ドアの目の前、いやその隣に置いてある段ボール(俺が2人くらい入りそうなほど大きい)に向かって歩いてきた。
「ここは緋野本皇国軍対ミハルト・ニトロス師団の基地、5階建ての本部棟や居室と広大な庭を持ったでっかい施設だ。ここは5階の中の1室で、私達月白組に与えられた執務室。何かあれば、そこの電話が鳴る」
俺から見て左の壁側、大きな作業用デスクに置かれたアンティークなダイヤル式電話を指さす。
そのあとすっと段ボールの前で屈み、中身をゴソゴソ漁りだす。
「んで、お前は私が探してた2人目の組員の条件にマッチしたから、師団長を通してお前をスカウトした。あ、私の名前は不知火遥、階級は大将で一応この師団の中では副官だから。不知火組長とか不知火大将でもいいけど、それだと師団長と被るから遥さんって呼んでほしい、なっ」
最後の「なっ」で段ボールの中から何かを引き出す。
「これがお前の新しい制服だ。真っ白で綺麗だろ? これに袖を通したらお前は念願の月白組の仲間入り。ズボンは丈長めに仕立ててあるから、食堂のおばちゃん所行って直してもらいな」
純白。彼女が着てるのと同じ、純白。ビニールに包まれているが、それは俺の手をすぅっと惹き付け、赤ちゃんを抱くように俺の両手に収まった。
真っ白な上に黒のパイピングが施された重ね衿のロングコート、同じくどこまでも真っ白なスラックス。
ああ、俺がずっと憧れていた、月白組は本当に存在していたんだ。