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北歴400年、秋の第1月30日。今日この日、ずっと夢見ていた俺の新たな生活が始まる日だ。
15のとき嫌々に徴兵され働いていたこの軍で、クソみたいな上官と、話が合わない同僚と、風当たりの強い後輩に囲まれストレスで胃が痛かったあの日、唯一憧れた場所がある。
表立った活動があまりにも少なく、専用の豪華な執務室に籠り続けることから“紅茶部隊”とも呼ばれる、少人数の遊撃班がずっと俺の憧れだった。
もちろん俺は軍の仕事をサボりたいからそこに行きたいわけじゃない。その紅茶部隊は本当に選ばれた強者しか入れない、入隊希望者を募ることもほとんどなくスカウトを待つしかない、存在さえも不確定で色々と謎に包まれた紅茶部隊──もちろん俺も噂だけで、実際にその姿を見たことは無い──に、この俺がスカウトされたのだ。
この師団をまとめる師団長にその話をされたとき、俺は食い気味で二つ返事でそれを受けた。
15の時に紅茶部隊に憧れ、17で兵役を終えても俺は職業軍人としてこの軍に残った。もちろんそのときは何も考えていなかったし、職業軍人なんかならないで大人しくもう一度学校に通い直すか親父の店で働いておけば良かったと何度も何度も思った。
──だけど、今日、その4年越しの悲願がとうとう叶う日が来たのだ。
あの日夢見た、最強の紅茶部隊……いや、緋野本皇国軍 対ミハルト・ニトロス師団特務遊撃部隊 月白組。
5階建ての大きな建物の内部の最上階、俺の目の前にある扉以外は全て素朴な木の茶色なのに対し、その色を拒絶するかのように、その名を示すように、青味のかかった白で佇むその扉をノックする。
ああ、この部隊にはどんな人がいるのだろう。
最強の名に恥じない筋骨隆々な男だろうか、それとも以外に俺と同い年くらいの天才少年かもしれない。
「──どうぞ」
中から声がする。男にしては少し高い、少し不機嫌に掠れたハスキーボイス。大きな声で「失礼します!」と断りを入れ、白銀のドアノブを回しその扉を開く。
「本日からこちらの部隊に配属になりました! 私、名字は如月、名は影志と──もうす者、で…………宜しくお願い致します?」
「語尾の疑問形はなんだ?」
「女……?」
「はぁ……お前もそういう事言うのか……」
扉の先で待っていたのは、ふかふかのソファに腰掛けソーサーとカップを手に紅茶を啜る美しい女性。
月白組にのみ着ることが許された真っ白な軍服を着て、同じような真っ白で長い髪と地獄の底みたいな黒赤の瞳を持った、女だった。