もう1人の白銀
私は、孤独である。
永い永い時間のなかで繰り返される幾多の離別は、この心をその都度苦しめ、何度も何度も「死んでしまいたい」と縛り上げた。
生まれて初めて親友と呼んだ友が老婆になり死んでも、生まれて初めて夜を共にした恋人が戦争で死んでも、生まれて初めて存在を呪った詐欺師がその罪で処刑されても、生まれて初めてあんなに泣いた最愛の弟を亡くした日でも。
私は、彼彼女らの死を、羨ましいと思った。
死が羨ましいだなんて、そんなの異常だと嗤われるかもしれない。だが私は、死ねないのだ。
何百年経とうと変わらない妙齢の女の姿、国を滅ぼす程の伝染病に侵されもしない血液、剣で100の肉片に切り裂かれても修繕される肉体。それらは私の心に治らない傷を刻み続け、人類創成のその日から絶えることのない悲しみ、憎しみ、嫉みをただただ積み上げていく。
────だがしかし、そんな日も今日で終わりだ。
私と似たような境遇で生きていた弟が死んだその日から、私の"死"への憧れは加速した。死ぬために、死ぬために、死ぬために、今日まで必死に努力してきた。
何千年と、私が死ぬための研究をしてきたが、結局私は死ぬことが出来ない。なら、私を死ぬことが出来る身体に造り変えるのだ。それを実現するには、途方もない時間がかかった。だがしかし、私には人類創設のその瞬間からの記憶がある。
まだ魔術が当たり前に存在した時代、魔術に酷似するまで辿り着いた科学の時代、その全ての記憶が私にはある。
────いでよ、もう1人の私。
私の身体はこのホルマリン漬けの"もう1人の私の脳"に受け渡す。いや、食わせると言った方が正しいか。過去、私の脳を体内から引きずり出した日は、結局それを中心に身体は再構築されたのだから。
もう1人の私は私の記憶を完全に食い潰し、"ただの人間"として生まれ変わる。新たな脳は平々凡々な人生を送り、いつかは死に絶えるのだから。
頭の中では最初から最後まで完成しています。やる気が出た時に書き進めるので感想ください(露骨)。