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ピピピッという目覚ましの電子音に起こされる。
「朝か。ダルイ……しご…と?」
何か忘れてるような気がする。
枕元を見ると剣がある。
思い出した。
昨日、世界が変質して異界化したんだった。
亡者に食われたというのに危機感が無いとはダメだろう。
シャワーを浴び、朝ご飯を食べつつ今日の予定を考える。
この近くには、華鶴高校という学校があるのだが、そっち方面を探索しようと思う。
ゲームでは、学校がイベントポイントなんてことがあるしな。
ご飯も食べた、装備もオッケー。
よし、行くか。
◆
獲得経験値増加飴と職業熟練度増加飴を食べつつ、襲いかかってくる亡者を倒して進むと、目的の学校が遠目に見えてきた。
どうでもいいけど、この飴ってレモン味だ。
警戒しながら進むとドスドスと何か音がしてきた。
慌てて物陰に隠れると、曲がり角から猪の顔でぶくぶくと太った人みたいなのが出てきた。
恐らく、オークだと思われる。
観察していると、鼻をヒクヒクと動かしている。
嫌な予感がする。
オークがこちらを見る。
目と目が合った。
「ブルモォオオオオ!」
雄叫びを上げながら走ってくる。
やっぱりバレたか。
恐らく、風に乗った匂いだろう。
覚悟を決めて、物陰から飛び出しリンドエースを構えると、オークは警戒してか後少しで間合いというところで近づいてこない。
ならば、先手必勝だ。
駆け出して懐に潜り込むとするが、太い腕を振り回して阻止された。
ーードンッ
空振りした腕が塀に当たると、ヒビが入った。
……よし、プランBだ。
アイテムボックスから小麦粉を取り出して投げつける。
オークは避けようとするが、それが狙いなのだ。
投げた小麦粉を斬り裂いて、オークに中身を浴びせる。
「フゴッ!?」
目潰しである!
驚いてる隙に眉間を剣で貫く。
なぜ眉間かというと、人という生き物は心臓を銃で撃たれても数秒は行動出来るという話しは知っているだろうか。
警察のスナイパーが、立て篭り事件などで人質を傷付けないようにする技術の1つで、眉間を撃ち抜くことで即死させるというものだ。
それを応用して、剣でやっているだけだが、効果的のようでオークは骸となった。
ログを見てみる。
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ログ:最新の10件を表示
・僧侶の熟練度が9に上がった。
・レベルが13に上がった。
・オークLv.1を討伐!90EXPと50P獲得。
・亡者Lv.1を討伐!10EXPと10P獲得。
・亡者Lv.1を討伐!10EXPと10P獲得。
……………
………
…
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「オーク強っ!?」
今まで倒してきた亡者よりレベルが高かった。
経験値も多い。
だが、それなりに強かった。
素早いというわけじゃないが、力は相当強い。
1対1なら問題ないだろうが、複数相手になると厳しいだろう。
やっぱり防具が欲しい。
軽くて、動きを阻害しないで、丈夫なのが欲しい。
さて、オークの素材は……牙か睾丸だと!?
アイテムボックスに入れて解体だ。
そして、ここから離れる。
さっきの戦闘音に集まってきたら大変だからな。
数分も移動すれば華鶴高校に着いた。
裏口とかあるのだろうが、残念ながら俺はここの卒業生じゃないのでわからない。
正面から正々堂々と行く。
校舎は死角になる場所が多いと思うので危険だ。
先に体育館から調べようと思う。
校庭は、人の1部や血が飛び散っていて街と同じ地獄絵図だ。
生存者がいるとは思えない。
隠れながら移動する。
もちろん、風向きにも注意する。
体育館の側に着いたが、オークの声がする。
ブモォ!とかフゴフゴとか言っている。
たくさんのオークがいるようだ。
慎重に近づいて中の様子を見ると、思わず目を逸らしてしまった。
深呼吸して、落ち着かせる。
よし、大丈夫だ。
もう1度、中の様子を見る。
オークの数は30体ぐらいだろう。
その周りには白濁液に塗れた裸の女性たちが倒れ込んでいる。
中には、事に及んでいるオークや、女性を食べているオークもいる。
亡者の女性がいない理由がわかった。
オークに捕えられて、 慰み者にされている。
苗床というやつだ。
エロゲなんかでは、素晴らしい展開なんだろうが、現実で見ると反吐が出る。
この数を相手に勝てる見込みはないので、撤退することにする。
自宅の近くにオークの集団が居座ってるとかないわー、と考えながら移動していたので警戒していなかった。
角からオークが出てきて鉢合わせしてしまった。
「っ!!」
「ブルフゥッ!?」
慌てて眉間を貫いたが、叫び声をあげさせてしまった。
体育館の中からオークが慌しく動く気配がする。
それ以外にも、いつ、どこからか襲ってくるかわからないし、運良く逃走出来ても匂いを辿られるだろう。
「……仕方ない」
2度と油断しないと決めた筈なのに、俺ってやつは……
神殿を開いて、職業を変更する。
選ぶのは狂戦士だ。
力が沸いてくる。
ドーピング薬も飲んで、飴ちゃんも食べる。
オークが来た。
すぅ、と息を吸い叫ぶ。
「ウゥォオオオオオオオオオオ!!」
雄叫び、咆哮、何でもいい。
恐怖を振り払い、戦い、そして生き抜く覚悟。
ここまで来てるんだ、後どれだけこようが同じだ。
「あぁ、もうめんどくせぇ!アァアアアアアアア!!」
イライラする。
俺らしくないとか、穏便にとか思ったがどうでもよくなった。
このアホ共を叩き潰す。
オークたちの動きが止まっていた。
知るか。
「潰す!」
一気に駆け出す。
さっきまでの速度とは全く違い、風になったかのような早さ。
力任せに剣を振るうと、3体のオークを纏めて斬った。
勢いのまま、目に貫手をする。
「プギィイィッ!!」
うるさいなぁ。
「黙って肉になっとけ!」
攻撃も動きも遅い。
簡単に避けられる。
一方的な蹂躙。
「クフッ」
あぁ、肉を潰すのが楽しくて笑いが出てしまった。
纏めて薙ぎ払ったり、殴り潰したり、滅多切りにしたり、やり方は色々だ。
「フハッ…フハハハハハッ」
気が付くと周りは血の海になっていた。
どうやら、オークを全滅させたらしいが、何か死体の数が多くないか?
それは、いいか。
ステータスを見ると、デメリットはかかってないようだ。
技能の“狂化”はアクティブ、つまり俺の任意で発動させるので、恐らく“憤怒”の効果だろう。
何となくで覚えているが、随分と好戦的になるんだな。
そして、レベルが一気にあがって19、狂戦士は熟練度16になっている。
飴ちゃん(大)の効果凄すぎだろう。
だけど、少し疲れた。
早いが帰るか、と思った瞬間、ここにいてはいけないと本能が叫んだ。
同時に地を蹴って、離れる。
ーーズドォンッ!!
さっきまで立っていた場所に、何が落ちて土埃を舞い上がらせる。
「グルァアアアアアアアアアア!!」
土埃の中から雄叫びが聞こえ、土埃を衝撃波のように吹き飛ばす。
さっきまでのオークより、二回りも大きく、腕が4本もあるオークがいた。
第2ラウンド開始らしい。