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魔素

本日のお話になります

無事に買い物や情報収集も終えて、宿でのんびりとくつろいでいると声が掛かった。


『 ご主人様 よろしいですか 』


念話が頭の中に響く、ミーネだ。


『 いいよ 何かあったかな 』


念話なので他人には聞こえないし、話している事も分からないのだけれども僕は姿勢を正して聴く姿勢を取った。

ミーネが話しかけてくること自体は珍しい事でもないし、念話自体も慣れた。

だけど今話しかけてきたミーネの話し方と、よろしいですかと言う断りに、しっかり聞く必要がある大事な話だということに気が付いたからだ。


そして、予想通り大切な話だった・・・










「 ご主人様ぁ レウィがうんちしました!! 」


「 みてください ミルクを自分で飲んでます!! 」


「 フェオの声に反応したんですよ この子は天才です 」



嬉しそうに、本当に嬉しそうにフェオはレウィの事を報告してくる。


「 ママを探しているよ~  フェオ~ 」


「 はい すぐに行きます!! 」


ミルクを飲んでは寝て、起きると小さな声で鳴きはじめる 寝床で上げるその声はママを呼ぶ声

もはや意思疎通を図るまでも無くフェオママを呼ぶ幼い声。


元々犬族は母性や家族愛の強い種族と言われている、フェオもその例に洩れず母性がとても強いようだ。

レウィも本能で自らの最大の庇護者を感じ取っているのだろう、すっかりフェオを母親と認識している。


育児放棄された個体なのだろうレウィはフェオの愛情を受けて安心しているように見える。




僕はどうかミーネの話が間違いであってほしいと願うだけだ・・・









この世界、ランドヴェールには魔素が満ち溢れている。

だが本来であればこれだけの魔素が満ち溢れた世界に付き物である魔法生物が居ないアンバランスな世界。


この多すぎる魔素に順応すべく生物は独自の進化を遂げた。


ある植物は魔素を吸収し、根粒を作りその内部に魔素を溜め地中に固定化する。

この植物が地中に固定化した魔素は、地中の昆虫類によって更に凝集されることとなる。


別の植物は魔素をエネルギーとして取り込んで自らの成長に役立てている。

多くの樹木はその幹に魔素を溜めこむこととなり、自らの耐久性を強化しより大きく育つ。


このように多くの植物は魔素を取り込んで有効活用して成長を遂げる。


植物が取り込んだ魔素は草食動物の体内で濃縮されることとなり、結晶化して体外に排泄する種や体毛に蓄積させて換毛により外部へ出される。

肉食の動物は草食動物を摂取することにより濃縮された魔素を体内に取り込んでしまうために、排出量も多くなる。

草原の王者である剣歯虎は魔素を換毛と牙に蓄えることで排出している。

一角獅子ホーンライオンはその巨大な角に魔素を溜めこみ、時期が来ると生え変わる。

多くの動物にとって魔素は不要な物なのだ。


だが人間だけは魔素を活用できる。

人間のうち人種ひとしゅやエルフ種、ドワーフ種は魔素を魔力に変換し魔法を使い

獣人種は魔力をもって身体を強化し、独自の進化を遂げた。


魔力を使うということは魔素を消費し排出すること。



ようするにこの世界の生き物にとって魔素を排出する仕組みは必須なのだ。



当然のことながらその仕組みを持たないで生まれてきた個体は成熟することが出来ない。

体内に蓄積してゆく魔素を排出できない生物は魔素の中毒により緩慢に死を迎え入れることになる。


先天的魔素排出不全


ごくまれに誕生する個体


野生動物の場合、先天的魔素排出不全の個体を親が飼育放棄することが多い

何故なら、育たないことを本能的に感知しているから・・・


そして先天的魔素排出不全の個体にはある特徴が存在するのだ。


地球においてある特定の個体に見られる特徴と同じ、その名は先天性色素欠乏、通称アルビノ

先天的魔素排出不全個体の多くが特徴的なほどに白化個体である。








「 良く寝ています~ 」


「 とっても可愛いのですニャ 」


眠っているレウィを守る様に側を離れないフェオに飲み物を持ってきたユーンが話しかけている。


「 当然なのです レウィは世界で一番可愛いのです  フェオの娘ですし 」


親バカが炸裂しているフェオだが確かにレウィは可愛い、真っ白な毛並みと可愛らしい顔立ち。

本当に草原狼の子供なのかと疑ってしまうような愛らしさだ。


「 フェオはすっかりママなのですニャ ところでフェオママぁ この子は本当に狼さんなのですか? 」


どうやら僕だけでなくユーンも狼に見え無いようだ。


「 うーーーん 実は私もよく分かんないのです でも狼だったとしてもちゃんと育てれば大人しい良い子になるのです 」


「 そうなの? なら良い子に育てるのですニャ 」


「 うん 優しい子に育てるよぉ 」


嬉しそうにレウィを眺めながら話すフェオとユーン、その話声に反応するかのように目を開けて動き出す小さな白い可愛い子。


「 起こしちゃったかニャ ごめんね 」


「 ううん 多分トイレだよぉ そろそろだもの 」


そういうとフェオは部屋の隅に連れてゆき、ぼろ布を引いた仕切りの中で排泄を促す。


食事からの間隔と鳴き方で理解しているらしい、まことに母性とは魔法による意思疎通なんて必要としないほど強い物のようだ。




「 なんかお腹が緩いです・・・  レウィ大丈夫かな 少しお腹も熱いし 」


小さなその体を運んだ時にいつもより体が熱いことに気が付いたようだ、しかも少し下し気味らしい。




『 ご主人様・・・ 』


『 ミーネ もしかして 』


『 ただ単にお腹を下しているだけかもしれませんが 元々体が小さいので気になります 』


ミーネが伝えてきているのは、レウィの事

レウィが先天的魔素排出不全個体であるとすればこれから起こり得る事態。

やがて迎えることとなる緩慢な死。


魔素が排出できないことによる中毒症状。



『 食べ物から摂取する魔素を減らすことって出来ないのかな 』


『 可能性はありますが、その場合レウィが先天的魔素排出不全個体では無く単なる白色個体だった場合別の影響が出てしまいます 』


『 確定診断が必要なわけだ・・・ 』


確定診断をするにはレウィに魔力を流す必要があり、まだ体も出来上がっていないレウィには負担が掛かってしまう。


『 それにフェオに黙って調べるわけにはいかないよな 』


『 判断が難しいです・・・ 』




とりあえず僕は現在のレウィの主食である山羊ミルクから魔素を抜き取る方法を模索することにした。



お読みいただきまして本当にありがとうございます。

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