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女将さん

こんばんは 本日の投稿でございます。

とりあえずもうこの街にとどまる必要もないので、翌日に出発することにして今日は早めに休むことに。


「 なぁリックぅ 夜明け前とかに出なくていいのかい? 早朝のほうが人目もないよ 」


風呂から出て上気した顔のマーサが訊ねてきた。


ちなみに高級な宿で大きい部屋と言うこともあり、この世界では珍しく大きな風呂が部屋に付いています。

お嫁さん達は僕と一緒に入りたがって大変でしたが、ノエルさんもいるのでそこは自重ですよ。


「 確かに人目は少ないけれど、早朝に慌ただしく旅立てばそれだけで目立つよね 堂々と宿を引き払っていかにも予定通りですという感じで旅立つ方が却って目立たないんだよ 」


僕は先に風呂から上がってきたフェオの毛を風魔法で乾かしながらマーサに答えている。


「 くふぅーーーーーん 」


乾かしてもらうのが気持ち良いらしく、フェオが小さく声を上げている。


「 さすがリック様なのですニャ 」


すでに乾燥済みで僕の側にくっついているユーンが褒めてくれた。


「 なぁなぁ フェオはもう乾いただろぅ 次はあたいの番だよぉ 」


「 ダメなのです フェオの毛はまだ半乾きです・・・  ふやぁぁぁぁん・・・ 」


僕の説明はどこかに行方不明だ・・・


マーサはフェオに早く代われと小声で急かしているが、フェオは聞いているのかいないのか。







「 主様~ ノエルさんとお風呂を頂きますね 上がったら私の髪の毛も乾かしてくださいましぃ 」


「 ゆっくり温まっておいで、次はマーサの番だし時間かかるから 」


「 あい、でも私より先にノエルさんの髪を乾かしてあげてくださいね 昨日も羨ましそうに見ていましたので 」


「 へ? えぇぇぇぇぇ あ ぁぁ あの・・・ 」


急にセオに話を振られて、真っ赤になってオロオロしているノエルさんの手を引きながら風呂に向かうセオがいた。


魔法ドライヤーとでもいうこの髪の毛を乾かす風魔法は温度調節はもちろんだけれども、効果がどの程度かはまだ不明だが電子魔法でマイナスイオンを発生させているいるのだ。

少なくともお嫁さん達には大好評なので今後も継続決定だな。

特にセオの自慢の長い髪が艶々になったとかで、大絶賛された。

マイナスイオンドライヤーって凄いね。


でもさぁ ”綺麗なお姉さんは好きですか ”って聞かれたら 好きですって答えるよね普通。














「 お世話になりました 」


「 またこの街においでの際はぜひご利用ください 」


「 フェオは泳ぎに来たいです!! 」

 

湖畔亭をチェックアウトして、出発しようとしたところ狐族の女将さんがお見送りをしてくれました。


「 すみません朝の忙しい時間に見送りまでしていただいて 」


「 いえ、大切なお客様ですから 当然ですわ 」


正直なところ、一見の客に過度なもてなしの気もするが・・・




「 なぜ私たちをそこまで厚遇していただけたのでしょうか? 正直なところ料理の質も別料金を支払うレベルでしたし、あの部屋は貴族向けの特別室ですよね 」


さすがセオ!! 僕の聞きたいことをうまーく聞いてくれた。


「 閑散期ですから と言いたいところですが・・・    本当の理由は実に単純ですわ 」


「 ニャ? 」


世情に疎いユーンは理解していないようだ、あとでゆっくり説明してあげるからね。




「 聞き流してくださいね 」 女将さんはそう前置きして話し始めた。



「 獣人に寛容なこの国にいると忘れがちなのですが、私は奴隷上がりです 」


女将さんの口からいきなりびっくりするような話が飛び出した。



実は女将さんは隣国スウェインランド王国の出身で、戦災孤児から奴隷落ちしてしまった一人らしい。

たまたま最初の奴隷商人が比較的まっとうな商売人だったこと、そして最初に買われた先が湖畔亭の経営者だったこと、これらの幸運と彼女自身が働き者で頭も良かったことからこの宿で働くことになり、彼女を買った経営者の息子と結ばれて女将となり今に至っていることを話してくれた。

自分は獣人のとしても奴隷上がりとしてもとても恵まれている、そして世の中には不幸があふれていることも女将さんは知っている。

実は娘さんが3人と言う話は聞いていたけれど、実の娘さんは一人だけらしい。最初の子が難産で、その後は子宝に恵まれ無かったため、孤児院から赤ん坊を引き取って養子にしたとのこと。

中々できる事ではないよね。


そんな彼女がこの宿で働きはじめて30年以上、女将になって20年近くが過ぎて今までに沢山のお客を迎え入れ眺めてきた。そしてこれも人情だが、獣人と他種族の夫婦にはついつい融通を効かせて上げたくなるそうだ。

獣人に寛容と呼ばれているこの国でも差別はある。

せめてこの宿に泊まる獣人には出来るだけのもてなしをしたいという彼女の同胞に対する優しさだ。


今回僕らが現れた時も当然そう思ったらしいのだけれど、それ以上にマーサやフェオ、そしてユーンが女将さんから見ても、大事にされ愛され幸せそうなその姿に感動すら覚えたという。


「 あまりにも嬉しくてついね 」


とても嬉しそうに狐族の女将さんは教えてくれた。


「 あたいはスラム育ちで、リックに命を救われたんだよ 」


「 フェオは奴隷でしたけれど、ご主人様に救っていただいたうえにお嫁さんにしてもらいました 」


「 私は孤独なとこから連れ出して幸せになりましたニャ 」


「 私も竜種としての伴侶を得られましたわ 」


流石の女将さんも最後のセオの発言には少し驚いていたけれど、そこはプロフェッショナル

すぐに平静を取り戻していた。


「とても素敵な旦那様ね、きっと世界で2番目に素晴らしいご主人なのね 」



「 あい、女将さんのご主人も、きっと全世界で2番目にいい男ですわ 」



「「 ふふ 」」


女将さんとセオは微笑みあって自らの旦那が一番であることを確認していたようだ。





「 道中お気をつけて 」



深々と頭を下げて見送ってくれる女将さんに一礼して僕らは歩き出した。


「 今度は暑い時期にくるよーー 」


マーサは大きく手を振っている。


「 お魚美味しかったニャ!! 」


うん、確かに美味しいお魚だったね。







湖畔亭の女将さんは、僕らが曲がり角を曲がる前に最後に振り向いた時にもこっちを見て見送ってくれていた。

きっとまた来よう、お世辞抜きでそう思った。



大通りを南下して、南門から街の外へ。

何処の街でもそうだろうけれど、外へ出るときはそんなに手間はかからない。

普通はね。


だけど門のところには何故か行列が出来ている。

うーん面倒なことが起きているようだなぁ。


出口前に出来た行列の先には、どうみてもいかつい男達が人間の壁を作っているようだ。


マーサやユーンが昨日見た連中だろうか・・・

多分そうだよね、きっと。



今日もお読みいただきまして、本当にありがとうございます

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