敵を欺くにはまず味方から
今晩は 本日も投稿させていただきます。
『 リックぅ 着いたよ 』
『 お疲れ様 これでセオ以外は全員揃ったね 』
『 はい、リック様 』
集合場所にマーサが到着して、とりあえず勢揃い。
本物のセオは別行動で、いずれ合流予定。さっきも念話で状況を知らせてくれたから別行動中でも問題なし。
「 マーサが到着するので、これで揃います 」
ノエルさんは念話が通じていないので小声で伝えるのだけど、耳元で囁く感じになるの少しくすぐったそうだ。
『 リック様ぁ なんか嬉しそうです 』
『 えぇぇ そそそんなことないよ 』
『 じーーーーー 』
フェオがジト目で見つめてくる。
『 ほ、ほらさぁ ノエルさんは念話使えないからね、小声じゃないと・・・ 』
『 ずっとくっついてますしぃ 』
『 いや、それは魔法の効果がね 』
『 リック様ぁ ユーンも手を繋ぎたいニャ 』
そう言いながらユーンが空いてる方の手を取ってくる。
『 ユーンちゃんずるいぃ 』
今度はフェオが後ろから抱き着いてきたのでけれど・・・ もはや歩きにくい状態に。
「 羨ましいです・・・ でもこの護衛中だけは・・・ 少なくとも権利があるはずですよね・・・ ぅん 」
小さく呟きながらさらに体を押し付けてくるノエルさん。
「 リックぅ あたいを仲間外れにしないでよぉ 」
とどめとばかりに正面から飛びついてくるマーサ。
みんなを落ち着かせるの少々手こずりました・・・
「 仕方ないのですニャ しばらく我慢しますニャン 」
やっと聞き分けてくれたユーンを撫でてあげる、時間はかかったものの一番最初に納得してくれたしね。
「 ふにゃ~ 」
耳の後ろ側や、あごのラインを撫でるとさらにおとなしくなるユーンは本当に可愛い。
「 あうぅぅ 私も我慢しますから~ 」
ユーンが撫でられているのを見て我慢できなくなったようで、フェオも言い出した。
「 偉い偉い、ありがとう フェオ 」
フェオは頭や垂れ耳を撫でられると一気に脱力する、最近は我慢できるようになったけれど最初の頃は外でもお腹を撫でて攻撃してくるので結構焦った。
まぁ犬族にとっては親愛の情を示す最大表現らしいので無下にも出来ず、といって街中では困るから何とか理解してもらって室内で主に夜に一杯してあげている。
「 はうぅぅぅん リック様ぁ くぅぅぅぅん 」
うっとりと目をつむってされるがままのフェオ、うんうん本当に良い子で愛くるしいねぇ。
そんな様子をじっと見つめながらも平静を装っていたマーサだけれど。そろそろ限度かなぁ なんかプルプルしてきるし。
筆頭嫁としてのプライドや姉としての威厳もあるだろうけどねぇ。
一旦フェオとユーンの撫でまくりを止めると、2人が少々物足りない顔で見上げてくるけれど僕がマーサを見ているのに気が付くと納得してくれたようだ。
うん、2人ともとってもいい子だ。
「 また、後で撫でてあげるからね 」
「「 はい!! 」」 「 ニャン 」
「 マーサ 」
声を掛けながら、大きく両手を広げて呼び込むと。
「 あーん リックぅ 」
躊躇なく飛び込んでくる。
「 マーサ、ごめんね。でも説明したよね、ノエルさんを護衛するためには必要な事だから 」
「 うん、あたいだってわかっているんだよぉ でもさぁつい・・・ ごめんよぉ 」
胸に顔を埋めて甘えてくるマーサ。もうねぇ可愛いすぎるよこのウサギさんは。
落ち着くように背中をポンポンしながら抱きしめていると。
「 うん、 もう大丈夫 我侭は当分仕舞い込むからさぁ だからぁ 護衛が終わったらいっぱい可愛がってくれるって約束しておくれよぉ 」
「 もちろん約束するよ 仕事が終わったら一番最初にマーサを思いっきり甘やかしてあげる 」
「 絶対だよぉ フェオもユーンも あと本物のセオもいいかい 」
『「「 はいマーサ姉様 」」』
しっかり聞いていたようで、セオまで念話で返事をしてきた。
『 私は2番目で良いですから、姉様と同じくらい甘やかしてくださいましね 』
もちろんフェオもユーンも順番通りに同じことを約束させられました。
もちろん僕はそんな約束大歓迎なんですけどねぇ。
「 さぁ 約束もして納得できたところで、今から今後の行動説明をします 」
ちなみにここは町からも街道からも離れた、森の中の使われなくなった猟師小屋。
事前に確認にしてあって、何年も使っていないようだ。
さらにミーネにお願いして周辺監視は怠りないし、念のために小屋の中には〈ノイズキャンセル〉の魔法が掛けてあるので声が外に漏れる心配はない。
「 え、 前に説明してもらったのと変わったのかい? 大きな船で行くんだろ 」
「 うん、ごめんね 船にはまた今度護衛じゃないときにしよう 」
セオ以外には今回の事は打ち明けていない、もちろん奥さん達は信用しているけれど、セオ以外は素直すぎるから嘘がつけないんだよね。
『 私は素直でないということでありましょうか? 』
『 違うよぉ セオはほら特別だからね 』
『 あい、すこし拗ねてみたかっただけです。 主様はとてもお優しいですねぇ 』
ミーネとセオには全く隠し事が出来ません。
『 私はご主人様と一心同体ですから これからもずっと いずれ私に体が出来ても心は常にご主人様と一緒です 』
『 え、ミーネ 体が出来るの? 』
『 え、え ぁぁぁ えーと 出来たら嬉しいなぁという話ですわ で、で でも もし、もしもですね わ私に体が出来ましたら・・・ ごご主人様はぁぁぁっぁ あ、あ、愛し・・・ ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ な、なんでもありませーーーーーん !! 』
何か知らないけれど、ミーネさんは自己完結してしまい、逃走しました。
真っ赤になって走り去ってゆくミーネを想像したらとっても可愛かった。
『 うん、きっと可愛いよね ミーネはさぁ 』
『 ・・・ ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ ぷしゅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ 』
『 主様、ミーネ様はオーバーヒートしてますわ 』
セオが冷静に解説してくれる。
「 リックぅ 念話は終わったかい。 まぁセオは離れてるから仕方ないけどさぁ 」
「 ごめんごめん、話の続きをするね 」
残念ながら多重思考とか平行会話は中々難しいので、念話をしているとどうしても反応が遅くなってしまう。
マーサにはセオとの会話ということもバレバレです。
「 そうだよ きちんと説明して欲しいよぉ 」
「 うん 今から計画を全部明らかにする 」
そう言って僕は話し始めた。
ノエルさんを取り返したい連中は間違いなく、街道や港で待ち構えているはず。
更には可能性は低いと考えているだろうけれど、冬の山越えでナール王国入りしてからクレイファ共和国を目指すルートにも当然監視はあるはず。
ノエルさんを取り返したいドリナエン公爵の手の者共は、当然のことながら貴族としての力が及ぶ国内でノエルさんを拘束するつもりだ。
ノエルさんが国外に出てしまえば、いくら有力貴族と言えどもその影響力は低下してしまうし、派手な誘拐や拉致は出来なくなってしまう。
その上連中だって馬鹿ではないので、ノエルさんが宿に居ないことはもう気が付いた頃だ。
必死で探しまわっているだろうし多少荒っぽいことも仕掛けてくる可能性もある。
だから今は足取りを掴ませないことが肝心。
セオが別行動しているのは、そのためだ。
セオは光学迷彩でノエルさんの外見に偽装して、今頃は船着き場近くにいるはず。
予定ではさらに転移魔法を駆使して、同行予定だったの隊商の近くにも出没して囮になってもらっている。
そうやって時間を稼いでもらっている間に僕らは、目的地を目指すのだ。
最初の目的地はトオッカから西方にあたるナールとの国境山脈の一角にある廃鉱山。
そこは20年ほど前まで銅が産出されていたのだけれど、すっかり掘りつくしてしまい廃棄された鉱山だ。
元からあった洞窟と鉱山開発より以前から人為的に掘られた坑道が続いており相当に深い。50年以上前にそこから銅が産出することが発見されて鉱山として栄えたらしいのだが、昔からある坑道に関しては謎が多く迷路のように入り組んでいることから深部に入る者はいないらしい。
一説によると、太古の昔に神様のお作りになった魔道具が隠された丘が天変地異で隆起して大山脈となりその魔道具を探索するため坑道が掘られたが発見できずに忘れ去られたという話があるが真偽は不明だ。
もちろん一般的には伝説として語られており、今や信じる者もいない話なのだけれど・・・
『 少なくとも襲撃者がノーマークのルートがあります 』
護衛の話を受けてからどうしたら安全に国外に行けるかを、セオと話し合っていた時にミーネが伝えてきた。
『 どういうこと ミーネ 』
そこでミーネが伝えてきたのが廃鉱山の話だった。
『 もしやその廃鉱山が何処かへつながっているのですか 』
セオの問いかけに対してのミーネの答えはというと
『 可能性はあります。この話はナール王国でも伝説として残っております、同じような人為的な洞窟はナール側にもあります 』
『 でも、繋がっているかどうかは確かめようがないよね 』
『 はい、その通りです 過去にも調査は試みられましたが、既存の魔法では不可能でした 』
ミーネのその言葉が僕に何かを求めているように感じた。
既存の概念に囚われる事のないことが電子魔法の強みのはず。
迷路のような洞窟をどうやって通り抜ければいいのか、地図も無い真っ暗な洞窟・・・
『 うん ミーネありがとう そうだよね 新魔法を作ってしまえばいいんだね 』
『 さすがはご主人様です 』
嬉しそうに答えてくれるミーネ、そのあとセオとも相談して作り上げた新魔法が、電子魔法〈音響探査〉。
いわゆるエコーロケーション、蝙蝠やイルカが超音波を発して位置情報を掴んでいる事を応用した新魔法だ。
何度か試した後で、セオに伝授してから使いこなしてもらったうえで例の廃鉱を確認してもらったところナール王国側に抜けられることが判明した。
追っ手の目が届かないルートが確立した瞬間だった。
あとは情報を秘匿して、監視の目を潜り抜け廃鉱までたどり着くことが最優先される。
「 ここから廃鉱山までは旧道を通って丸一日掛かるけれど、人が通れば痕跡がどうしても残ってしまう 」
「 はい、私のような犬族でしたら嗅覚で追跡も出来ます 」
フェオが頷きながら伝えてくる。
「 そう、だからまずここから馬で今晩中に山脈の麓まで移動する。夜の移動になるけれど覚えてもらった電子魔法で問題ない 」
みんなに覚えてもらった新しい電子魔法は〈暗視〉。これは赤外線カメラの応用で、目の前のスクリーンに暗視カメラを通した映像を展開することで夜道でも問題無く走ることが出来る魔法だ。ダッジさんが用意してくれた馬もしっかり訓練されており魔法に対する体性も高く問題なく夜道を走れることは実証済み。
「 あの魔法なら、夜も全然怖くないよぉ さすがはあたいの旦那様だよ 」
「「 私たちの旦那様ですよぉ マーサ姉様 」 ニャ 」 フェオとユーンが声を揃えて微修正を入れてくる。
すっかり仲良しだね、うちのワンコとニャンコは実に微笑ましいです。
「 うん、ありがとうみんな。 馬はそこで乗り捨ててゆくから、ダッジさんの知り合いの農家があってすでに話は付けてある 」
「 そこからはどうするのニャ 」
夜明け前には本物のセオとそこで合流して、廃鉱山までは転移魔法で行く。
「 セオ姉様の転移魔法って他の人は飛ばせなかったはずでは 」
フェオは良く把握している、そうなのだセオの転移魔法は基本的に自らの転移を可能とする魔法。
「 うん、その通りなんだけどある条件が整えば距離や重量の制限はあるのだけれど可能なんだよ 」
そう、そのためにこんな回りくどいやり方を取っているのだ。
まぁそれが色々と物議を醸しそうな方法なのでこの場での詳細な説明は避けておいた。
さぁまずは馬による夜間行動だ。
お読みいただき誠にありがとうございます。




