吟遊詩人
このお話で一旦終わりでございます。
「 大公様?あぁそういえば大旦那様の事をそう呼ぶ人も居るらしいね、久しぶりに聞いたよその呼び方 」
私がこの国に入って最初にあった国境を守る兵士から返ってきた声だ
「 あんた他所から来た人だろ、いまどきこの国で大旦那様の事を大公様なんて呼ぶもんはいねぇよぉ 」
そして国境を通り過ぎて、どの街でもこんな言葉が返ってくる
以前はクレイファ共和国と呼ばれていたこの国
今から100年ほど前に貴族院の汚職問題に端を発した国内の動乱は
副議長派による隣国勢力の介入が発覚したことにより国を二分した内乱へと拡大し、やがて戦争状態になったのだが
その開国以来の危機に際して、それまで議長派副議長派のどちらにも組せず
完全中立を保っていたリック公爵(エルフ女王国)が内乱への介入を宣言
これはあくまでも国内問題であると宣言し
まず国境線で圧力を掛けつつ本格介入を目論んでいた隣国の部隊に対して
武装飛行船団(20隻)と飛竜部隊(100体)による圧倒的なその威容を見せ付けることにより
その行動を掣肘してみせ
その後、国境線の共和国側に高さ5m総延長100kmに及ぶ城壁を突如出現させたという
あまりの出来事に呆然とする隣国の軍勢に対して
これもその城壁に突如作られた大手門から、1000騎程の巨大な軍馬と騎士が現れ
最後にこれも巨大な6頭立ての戦車に乗ったリック公爵(当時)が現れてこう述べたという
「 内乱は既に収まりました!貴国のお気遣いには感謝いたしますが、もはや国境の警備は不要となりました 」
目の前で立て続けに起こった出来事に、度肝を抜かれた隣国の指揮官だが
それでも本国の命もあり、子供の使いのようにはいそうですかと帰るわけにも行かなかったのだが
虎の子である直属の魔法師部隊伝令が
「 閣下、魔法師部隊200名殆どが泡を吹いて倒れております。唯一対応が可能だった魔法師部隊長殿は、白蝋のような顔色で敵う訳がないとだけ仰り腰を抜かしております 」
このような報告を受けてしまっては、無傷で帰れるのを幸いと判断するしかなく
「 丁寧なご挨拶痛み入る、流石はエルフ女王国公爵殿!見事なお手前感服いたしました 」
あくまでもエルフ女王国と事を構える気はないと宣言して撤退を開始したという。
この最前線に居たのは、リック公爵本人ではなく影武者だった言う話もあるが
真偽の程は確かめられていない
というのも、同時期に内乱も鎮圧されており
その鎮圧部隊を率いていたのもリック公爵本人だという話がある
まぁ快速の飛行船部隊をもっていたこともあり、国内移動は容易に行えたようなので
両方とも本人であったとしても決して不思議ではない
内乱治安圧後は貴族院が廃止され、人民議会が立ち上げられたのは周知の通りだが
初代議長に押されたリック公爵はこれを固辞
その後の選挙や代議員選出で混乱はあったものの
新生クレイファ共和国は無事に立ち上がることが出来た
その中でリック名誉公爵は自らの貴族位を返上し、入植地のオーナーとなり
新生クレイファ共和国議会顧問に就任
相談役として数々の問題を解決したようだ
その功績を挙げればキリが無いようだが
革新的な農業技術の普及
公立学校の立ち上げ、義務教育の推進
軍の近代化、警察制度の立ち上げ
そして何よりも使い捨てだった魔石を再利用する魔道具を一般に普及させ
生活レベルを向上させることに成功
これらの功績により人々は敬意をこめてリックを大旦那と呼ぶようになるのだ。
「 で、その大旦那さんのお屋敷って何処か分かるかな 」
とても賑やかな首都の酒場で、この国ではもはや普通の存在となっている、男性の虎獣人に酒を奢りながら旅人は情報を聞き出そうとしていた
「 あぁそうだったな、大旦那様の屋敷はよぉ町外れの丘の上だよ。西門から出れば後は一本道だ、石畳の通りを進んで緩い上り坂を上がっていけば嫌でも眼に入るぜ 」
「 そうですかぁ、でも大旦那さんは私のような者がいきなり行ってもお会いできないですよね 」
「 そんなことはねぇぞぉ、少なくとも門前払いになるなんてことはねえよ。もっともなあんたが悪いことを考えたりしていたら、怖いメイドさんに頭の中を見られて追い返されちまうかもなぁ 」
そういいながら豪快に笑って、手に持っていたジョッキを煽る若い虎獣人
他国ではまだまだ珍しい男性の獣人族だが、この国では普通に見かけるのだ
背が高く美形が多い兎族の男性や、しなやかに歩く猫族の男性、美しい毛並みの尻尾を手入れする犬族の男性も
この国の街角では有り触れた光景なのだ。
さてリック様は本当に会ってくださるだろうか
私は吟遊詩人として伝え聞く彼の功績を歌にして諸国を旅して回ってきた
他国で遠くから彼の姿を見たことはあるのだが、当然のことながら直接話したことなど無い
これも伝聞だが、彼の子供達もとても優秀でこの国のために尽くしていると聞く
そして何より彼の奥方様達だ
伝説のマーサ姫の再来と誉れも高い筆頭嫁のマーサ様の美しさは未だに健在どころか
益々磨きが掛かっているといわれ
フェオ様、ユーン様のような獣人族の美しい奥方様とともに同性からも憧れられる物語にもなっている存在であり
さらには、もはや神話の域に達しているような
神に近い存在といわれるセオ様、デニエ様、ノエル様、レイヤ様
(あくまでも庶民の噂なので色々と事実誤認しています)
そして何より庶民の人気が高いのが、メイド姿の美しいエリン様や庶民派代表といわれるエミィ様、可愛らしいドワーフ代表レニ様
その名前を挙げればキリが無く
絵姿を模した版画は相変わらず飛ぶように売れているらしい。
「 せめて奥方様のお姿だけでもこの目に焼き付けたいものだ 」
つい口に出てしまった願い
吟遊詩人として、数々歌い上げてきた彼の人とその奥方様達
もし叶う事なら、お会いして歌を捧げたい
「 ここは西門ですか 」
街中で確認もしてきたので間違いは無いと思うが、門の脇にある詰め所に居た兵士に確認してみる
「 あぁここは西門で間違いないよ 」
「 じゃあここを出て、この石畳を行けば大旦那さんの屋敷ですね 」
「 もちろん、そうさ。あぁでも残念だな 」
もしや一見では彼に会うことは叶わないのだろうか
「 いきなりの訪問では会えませんか 」
「 いや、屋敷のメイドさんが許せば誰でも大旦那様には会えるけんどよぉ。今日はお留守なんだよ 」
この門を警備しているという人族の壮年男性曰く
10日ほど前から家族ともども留守ということだ
基本的に多忙な方なので、留守にするときは何ヶ月も戻らないこともあるそうだ。
「 そうですか・・・、ご丁寧にありがとうございます 」
留守ならば仕方がない
せめて屋敷だけでも拝見しようかと思案していると
急に空が暗くなった
「 おお! 運がいいなあんた、あのルフトシッフェは大旦那様の専用船だよ 」
門番が頭上を指して叫ぶ
そう上空の太陽を遮って辺りを暗くしたのは、巨大な飛行船
噂に名高いルフトシッフェの雄姿だった。
始めてみるその大きな姿
悠然と空を往くその迫力に
思わずインスピレーションが降ってきた
背中のリュートを降ろし、しばしの調音の後に
新たな歌を紡ぎだすことにした
そして確信めいたものが心に芽生える
これは自分の生み出した歌の中で間違いなく最高のものになると
後世まで歌い継がれることになると
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
このお話はこれで終わりとあいなりました。
拙作にお付き合いいただけたこと
真に御礼申し上げます
皆様に心よりの感謝を・・・




