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正体

本日の投稿でございます。よろしくお願いいたします。

尋問なんて生まれてこのかたしたことないよね。

でも聞き出さないといけないし、ましてや相手はただの野盗とは思えないからそう簡単にはいかないよなぁ。


ただの野盗とは思えない

その理由としては、まず馬があげられる。

僕がこの世界に来て見ている馬はもちろんまだ限られているけれど、連中の乗っていた馬は間違いなく良馬だ。

手入れもしっかりされていて、体格もいい。なにより落ち着いていてしっかり訓練された馬だとおもう。

もちろん、盗んだ馬の可能性もあるけれど。


次は連中の装備と腕前。

ミーネによると、前方から襲ってきた2人の短弓は魔法による補正が掛かったものらしい。それにしても馬上から走る馬車に向け、かなりの発射速度で正確に打ち込んでくる腕は相当な熟練者であることを示している。

さらにセオが確保した2人は魔法戦士。詠唱を終えて火魔法の発動直後にセオの対魔法アンチマジックで相殺できたので被害も無かったけれど、魔法戦士としてはそれなりのレベルらしい。


そして、決定的なのは無抵抗の彼らから剥ぎ取った装備品。

皮鎧や篭手、脛当てなどは使い込んだ中古品のようだけれど、裏側に強化素材として魔法金属が使われている一流品。


とても乗合馬車を金目的で襲う野盗の装備品とは考えにくい。




「 素直に白状して欲しいのだけど 」


「 ふん ただの野盗に何を白状させようってんだ 」


分かっているのは4人が仲間だということ、目の前にいる男がリーダー格のデニス。

残りはホルドンとセオの支配下にあるパリフェとゲイナー。

自分たちは金目当ての盗賊でこの乗合馬車に金持ちと若い女が乗っているので狙ったという話だけ。


それ以外は一切口に出さない。

こっちも警察でもないし尋問の経験も無い、しかも旅の途中だし時間もそんなにかけられないからなぁ。


まぁ2人はセオの支配下なので、このままフェーンまで連れて行って然るべき所に引き渡せばいいのだけどね。


実は少しだけ気になっていることがある。

それは、乗客の老夫婦とお孫さんのこと。


他の乗客の皆さんとは食事で一緒になったり、馬車の中でも色々と会話を楽しんだりして交流を持っているのだけれど。

例の老夫婦とそのお孫さんは僕たちを含めて他の乗客と距離を取っている。

宿でも見ていないし、ずっと野営なのだろうか。


そして今回の襲撃後には明らかにお孫さんが怯えていて、ある程度警戒を解いた今でも馬車から一度も降りずに青白い顔で震えている。


確かに襲撃は恐ろしかったと思うので仕方のないことなのかもしれないけれど・・・


それと襲撃時に老夫婦は、お孫さんを様付で呼んだ。

とっさのことで本来の呼び方が出たのだと思う、訳アリだよねどう考えても。





「 主様が優しく聞かれているうちにお答えになったほうがよろしいですよ 」


普段の声とは違う冷え冷えとした声で詰問しているセオ、きっと怒るとこんな感じになるのだろうなぁ。


「 いえ・・・ ですから 」


あまりの圧力プレッシャーにまともに返事も出来なくなっているデニスという名の襲撃者。

流石は竜種だよね、すこし同情しちゃうよデニスに。


「 で  ! 」



「 は っはい ・・・ 」


更に圧力を上げて魔力を当てにいったセオの前で、脂汗を流しながら黙り込むデニス。







「 ・・・ 全て話しますんで・・・どうか堪忍してください・・・ もうこれ以上 無理です 」


一体何があったのかよく分からないが、時間にして1分程度だと思うけれどデニスの顔は青ざめ地面には汗が水たまりを作っていた。

さらには別の水たまりが湯気を立てていたのだけれど、匂うし見たくも無いので魔法で浄化してあげた。






念のため、もう一人のホルドンも別の場所で尋問して口裏合わせが出来ない様にして内容を突き合せたけれどほぼ一致した。

奴らの狙いは商人でも女性でもなく、老夫婦の孫の拉致。

襲撃者は金で雇われた傭兵だった。あの高価な武器や装備品、さらには馬までも依頼者が用意したらしい。


「 ですから、あっしらはお膳立てされた状況に乗っただけなんですよ。その上であのガキを依頼者に引き渡せば残りの半金を貰うことになっていたんでさぁ 」


ちなみに請け負った額は装備品等は含まずに金貨50枚。半分は前渡しで残りは成功報酬とされていたらしい。


「 本当っす  依頼者の名前と顔しか知らねぇんでさぁ 」


10日ほど前にフェーンの町で声を掛けられ、金になる仕事だと誘われたらしい。

彼ら4人は元々傭兵仲間であり、所属していた傭兵団が戦闘消耗で解団したのをきっかけに国境の町トオッカへ向かう途中だったらしい。


ちなみに彼らに依頼したのは、トオッカの商人と名乗るヘイツという人族と思わしき中年男性。隙のないがっしりした体格の男だったらしい。

おそらく偽名だろうし商人とはとても思えなかったとデニスも言っていた。

商人というよりは自分たちと同じ傭兵のほうがピッタリくる雰囲気の男らしい。


それ以上は有益な情報も出てこず、連中も隠している感じもしないので尋問は終了。

セオの魔法で4人とも拘束もしくは支配下にあるので逃亡の恐れも無いのだけれど、他の乗客の皆さんを怖がらせてもいけないので少し離れた所に転がしておいた。


「 騒ぐと煩いから猿轡さるぐつわぐらい噛ませた方が良いかな 」


「 声は小さくしか出せないようにしているので問題ないですわ 主様のお手を煩わせるまでもありません 」


流石はセオ、優秀な嫁さんだ。


セオを褒めてから頭を撫でてあげると、目を細めて嬉しそうにする。

フェオが頭を撫でられるのが大好きで褒める時は必ず撫でてあげるのだけれど、それをセオがかなり羨ましそうに見ているのに気が付いて試しに撫でてみたらこれが大好評。

まぁセオの場合は頭を撫でるだけでなく、髪を手で梳きながら耳や首筋に触れられるのが特にお好みらしい。

さっきまでのクールビューティとは全然違うセオもまた可愛い、特に耳をにそっと触れると頬を赤らめてため息を軽くつくのが超絶に愛くるしいのだ。

これを始めてしまうとつい時間を忘れてしまう。






「 リックってばぁ 」


無限ナデナデ回廊に陥っていた僕は袖を引っ張るマーサの声に我に返った。


「 あぁぁ ごめんごめん   何かな 」


「何かなじゃないよぉ  何度も呼んだのに 」


少しご機嫌斜めにしてしまったようだ。


「 申し訳ない、つい無限ナデナデの罠に 」


「 あい~ もっとして欲しかったですわ 」


セオも名残惜しいらしく体を摺り寄せてくる。


「 ダメだよ あたいも可愛がっておくれよぉ 」


マーサも頬を可愛く膨らませてすり寄ってくる。

うーん両手に花で困ったねぇ。


「 マーサ姉様~ ダメですよぉ 」


フォエがマーサの後ろで困った顔をしている。

そういえば何か用だったのかな


「 マーサ 何か用だったの? 」


「 あ、 そうだよ 爺さんがリックと話がしたいらしいよ 」











てっきり馬車に戻るのかと思ったのだけれれど、マーサに連れて行かれたのは焚火から少し離れた岩のそばに張られたテントだった。


「 なんか内緒話がしたいらしいよ 」


マーサがこっそり耳打ちしてくる。


「 失礼します 」


テントの入り口をくぐると中には予想外の光景が広がっていた。


「 お手数をおかけします 」


声を掛けてきたのは老夫婦の旦那さん。

教えていただいた名前はダッジさん、そして奥様はフェリエさん。お2人とも人族で、名前は出せないけれどとある貴族の使用人らしい。


貴族関係者なら納得だ、だってそこはテントの外観からは信じられないほどの空間だもの。

そこは、広さ10m×10m位の部屋で天井までも3mほどの高さがある部屋、室内は適度な温度に保たれ家具もある。

後で聞いたところによるとマジックアイテムの一種で貴族が旅行の時とかに使うものらしい。

防御の魔法も掛かっているので、安全面も問題ない優れもの。唯一の欠点は値段が高いことだそうだ。

だから宿に泊まる必要もなかったということか、下手な宿ならこっちの方がずっと快適で安全だ。


ダッジさんは部屋の中で多少落ち着きを取り戻したのか、顔色も戻っていた。ただ奥さんはまだソファーにもたれており、お孫さんは寝かせているそうだ。

おくにベットがあるからそこかな、ベッドにはカーテンが付いており中は見えないけど。


「 家内と孫はまだ具合も戻りませんので、このままでご容赦ください 」


深々と頭を下げるダッジさん。


「 どうかお気になさらず、怖い思いをされたのでしょうし当然です 」


「 襲撃を撃退してくださった上にお優しいお言葉、本当に感謝いたします 」


暫く社交辞令を含めたやり取りを続けた後でダッジさんが本題を切出してきた。


「 リック様どうかお力をお貸し願えませんでしょうか 」


「 実はさっきの襲撃者達を問い詰めたのですが、奴らはお孫さんの拉致を企んでいたようですがそれと関係がありますよね 」


「 やはりそうでしたか・・・ 私がお願いしようとしていたのもその事です 」





ダッジさんの話によれば、奥のベッドで眠っているのは孫では無くダッジさんがお仕えする貴族の関係者であるとのこと。詳しい素性はどうかご勘弁願いたいと伏せられた。

要はその方を護衛してフェーンから国境を越えてクレイファ共和国の商都レミンまで送って欲しいとの依頼だ。

もちろん報酬は前渡で支払う上にレミンで引き渡すべき相手の所へ行けばさらに報酬を支払えるとのことだった。


「 しかし、お2人はどうされるのですか 」


話を聞いた限りでは孫だけを連れて行って欲しいとのニュアンスだ。


「 私どもは足手まといにしかなりません、それに別れた方が奴らの追跡も分散されます 」


確かに老夫婦まで護衛となると難易度が上がるのは確かなのだけれど・・・


「 どうぞご心配なく年寄りには年寄りの知恵もありますし、ノエル様をお預かりいただいておれば思い切った手も使えます どうかこちらはご心配なく 」


どうやら孫としていた貴族の関係者さんはノエルという名前らしい。まぁ知ったところで何も変わらないけれど、呼び名に困ることは無くなりそうだ。

それに、どうやらダッジさんには何か手があるようだ。


「 こちらとしても乗りかかった舟ということもありますし、元々この国を出るつもりでしたので引き受けるのは吝かでもありませんが・・・ 何故僕たちを信用されるのですか? たまたま馬車が一緒になっただけですし、さらに言えばあの襲撃自体茶番であなた方の信頼を得るのが目的かもしれませんよ 」


僕としてみればそれが一番知りたいところ、主筋に当たる大切な人を簡単にしかも単独で預けるだろうか?


「 もちろん私どもとて誰にでもこのようなことをお願いいたしません。リック様、いえ正確には奥様のセオ様をご信頼申し上げているからと、非礼を承知の上でのお願いなのです 」


「 セオを御存じなのですか 」


その答えは僕の頭の中で更なる疑問符が付きまくる結果にしかならない。セオは竜種として長い間外界に出ることも無く過ごしてきたはず、なぜそのセオを信頼?


「 はい 存じ上げるという訳ではなく・・・ 」


「 その話は私がいたしましょう 」


ソファから起き上がった奥様のフェリエさんが旦那さんの話を制するように引き継いだ。


「 お前 無理をしなくても 」


慌てて駆け寄ってその体を支えるダッジさん。


「 あなた、もう大丈夫です。 それより私がお話申し上げた方が宜しいかと 」


「 うむ 」


「 このような姿で申し訳ございません、私はダッジの妻のフェリエ 竜種の血を引くものです 」


ソファーにもたれていたため多少乱れた髪を気にしつつ話すフェリエさんの口から出たのは驚きの言葉だった。


「 竜種ですか 」


「 はい、もちろんのことセオ様のような純血種ではございません。曾祖母が竜種でその血を僅かに引くものでございますが、セオ様の波動を感じ取ること程度は出来ます 」


『 セオ 聞いてる? 』


『 あい、主様聞いております。その者の話は間違いございません、正確には私のような純血種ではなく亜竜種と呼ばれる者の子孫ですが 』


セオが言うのならば間違いは無いのだろう、となればセオの力も理解しているのだろうからそれだけでも預ける理由にはなるわけだ。


「 いま、セオにも念話で確認しましたが事実のようですね 決して疑うわけではないのですが失礼いたしました 」


「 とんでもございません、こちらこそまだお話しできないことも多い中でのお願い事で本当に申し訳なく思います。ですがここでお会いできたのも正に天佑神助てんゆうしんじょ、どうかお力をお貸し願えませんでしょうか 」


老夫婦が深々と頭を下げてくる。


貴族絡みとなれば話すわけにはいかないことも多いのは理解できるし、少なくともセオと繋がりがある人の願いを無下に断ることは出来ない。


『 この人達の依頼を引き受けようと思うけど良いかな 』


僕は念話でみんなに問いかけた。


『 主様の思いのままに 』


『 あたいはリックに付いていくよ、フェオも同じ意見だよ 』


『 ご主人様の判断はいつも的確です 』


『 報酬は金貨にするんだぜ!! そして俺を使ってくれー 』


『 リックさん 最近私の影が薄い気がぁぁぁぁ 』


後半の意見は保留するとして、少なくともお嫁さん達に異論は無いようだ。




「 わかりました、この依頼を引き受けます 」


「「 ありがとうございます」」


安心したのだろう、その場に崩れ落ちるフェリエさんと慌ててその体を支え、そっとソファーに座らせるダッジさん。

それは長い月日を一緒に歳を過ごしてきた夫婦の呼吸が垣間見えた瞬間だった。

少なくともこの二人は悪い人ではない、仮にセオの件が無かったとしてもこの人達の頼みは聞いていただろうそう思わせる夫婦の姿だった。





本日もお読みいただきありがとうございます。

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