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襲撃者

こんばんは、本日の投稿でございます。

あっち向いてホイ大会の余波で睡眠不足だった程度で、その後の馬車の旅は順調だった。


がけ崩れのう回路では警戒をしっかりしたので、野盗に襲われることも無く済んだ。

あとは野営中でソーンが見張りの時に狼が近づいて来た事があったらしいけれど、大型犬のライ君が唸り声を上げて突っ込んでいったら逃げ去ったらしい。

流石はライ君だよね超有能なワンコ。


そんな感じで明日の夕方にはフェーンの町に着く予定。

今日は最後の泊りで最後の野営です。


「 水場までもう少しですが、暗くなってきましたので交代しましょう 」


ソーンが御者席の後ろから声を掛けてきた。

この数日で、僕の手綱さばきも何とか形になって来たようでソーンも褒めてくれている。

今日の野営予定の水場まではもう少しかかりそうだ。


「 分かったよ 」御者席にやってきたソーンに手綱を手渡しながら、入れ替わりに僕は後ろへ下がった。


辺りは夕暮れで茜色に染まり始めている。今回の旅は天気に恵まれて、雨も無かったし本当に良かった。この夕焼けならば明日もいい天気だろうしね。


「 しかし、リックさんは器用ですねぇ。 これならあと何往復かしたら御者でやっていけますよ 」


「 ホント? お世辞でも嬉しいなぁ 仕事にできるかな 」


「 ええ、普通にやっていけますよ、腕っぷしもあるし魔法も使えるなら馬車の乗務員組合でもあっという間に免許が取れますよ 」


乗合馬車のような長距離馬車の御者は組合に所属しているらしい。長距離を走る馬車は襲われるリスクも高いらしいから、正御者になるためには経験と共に護衛としての能力も求められるらしいよ。仕事は探している最中だし御者を選択肢に入れてもいいかもね。


「 リックぅ 御者になるのかい 」


ソーンとの会話が聞こえたようで、後部の荷箱上の定位置に戻るとマーサが聞いてきた。


「 せっかく仕事も覚えたしね、まぁ選択肢に入れてみてもいいかなぁ 」


「 だめだよぉ 御者じゃ帰ってこない日が多くなるんだろ 寂しいからいやだよぉ 」


「 あい、姉様の言う通りです。主様が居ない日が多いのは駄目ですよ 」


さらには義姉二人に激しく同意するように何度も頷いているフェオ。

どうやらお嫁さんたちは御者を仕事にするのは反対のようだ。


「 何も長距離ばかりが御者じゃないし それに御者になるって決めたわけでもないよ 」


「 でもぉ 出来れば毎日一緒が良いです 」


フェオが破壊力抜群の上目づかいで訴えてくる。

これには弱いんだよねぇ。


「 じゃあ 毎日家に帰ってこれる、そういう仕事を探そうね 」


フェオの頭を撫でながらそう答えると、嬉しそうに体を寄せてくる。

確かに、こんな可愛い嫁さんを何日間も放置できないよなぁ、そうしみじみ感じるのだった。









『 ご主人様 左方より2騎、前方より2騎接近する者がおります 』


夕闇が迫る中、見通しも悪くなってきたので念のためミーネに<MAP>で監視をお願いしていたのだけれど何者かが近づいてきているようだ。


『 今までも騎馬とは何回かすれ違っているけど、側方からの2騎が気になるね 』


『 明らかにタイミングを合わせていますし、普通より速度もあります。夕刻という逢魔が時であり、襲撃にはピッタリのタイミングでしょう 』


1日走ってきた馬車で野営地も近い、そのため疲れもたまって居る頃合いで、野営地が近く油断しているタイミング。

しかも前方と側方からの同時襲撃か、少数だけど組織的な動きだな。

 

『 ただの野盗ではないかもね 』


『 その可能性は高いと思われます、あと数分で接触です 』


「 ソーン!! 前方と左方向より2騎ずつ接近中 襲撃の可能性が高い 周辺状況から見て狙われているのはこの馬車だ 」


「 え、 あ はい 」 突然の事態にソーンは驚きの声を上げる。


「 前方からの2騎が見えたら 護りの魔法を展開するんだ 」


「 わ、わかりましたぁ 」 多少声が裏返っているが、手綱を持つ手にブレはなさそうだ。


腰に下げた皮袋から巻物スクロールを出して準備もしている。

旅の途中でも見せてもらったが、護りの魔法封じた巻物スクロールだ。物理的な攻撃と中位までの魔法なら防げるらしい。

効果が続くのは10分程度。相手の攻撃手段は分からないけれど、飛び道具は当然のことながら持っているはず、まずは身を護らないといけない。


相手に先手取らせるのは愚策。こちらは馬車で相手は騎馬、どう考えても機動力では劣るためどう対処するか。


「 主様 ここは私にお任せください 」


すぐ手の届くところにおいてあるクロスボウを用意していると、セオが話しかけてきた。


「 殺さない程度でお願いできるかな 」


「 あい、お任せください 生け捕りにしてまいります 」


「 じゃあ 左側から来る2騎を頼む 」


僕の指示にニッコリと微笑むと、走っている馬車から身を乗り出すセオ。


「 セオ姉様 気を付けて 」


フェオの呼びかけに軽く頷くと、そのまま身を躍らせて空中へ。


速度が上がっている馬車の中で、ほかの乗客は身を伏せながらも心配そうにこちらを見つめている。


「 安心してください、嫁のセオは魔法師ですし僕も弓には自信がありますから 」


後をマーサとフェオに託して僕は御者席の後ろに陣取る。


「 そのまま、伏せているんだよ 頭を上げちゃだめだ。野次馬根性は身を滅ぼすよ 」


後方からマーサの適切な指示の声が聞こえる。


「 リックさん 見えました 」


前方に騎馬が見えた。案の定、相手は馬上で弓を構えている。弓を構えて突っ込んで来る奴らは敵と認識する。

ソーンも指示通りにしてくれており、見えたと叫んだ瞬間には護りの魔法を唱えてくれていた。


ちなみにこの護りの魔法は、術者を中心に半径3メートル程度の円形で魔法障壁が展開されることになる。障壁の外側からの攻撃には防御が働き、内側からの攻撃は素通りするという優れた魔法だ。


高価な魔法なので通常は乗合馬車などには使われないのだが、今回はう回路を通らざるを得ない上に腕の立つ御者ではないため用意されたらしい。良い判断だ。


激しい音を立てて、魔法の障壁が矢を弾く。

襲撃者もそれに気が付いて驚いているようだ。


「 お返しだ <誘導> 」


揺れる馬車内からの射撃は本来困難を極めるものなのだろうが、電子魔法がそれを補って余りある効果を発揮できる。

放たれたクロスボウの矢は狙い通りに襲撃者の右肩に突き刺さり、その衝撃で襲撃者は馬から転げ落ちる。


「 す、すごい たった一撃で 」


ソーンの感嘆の声が聞こえるが、今は放置。すかさず次の矢をセットして。もう一人目がけて矢を放つ。


既に相手側からも何射かが馬車に向けて放たれているのだが、魔法の障壁を破ることが出来無いようだ。


接近しつつすれ違いざまに矢を放たんとしていたもう一人の襲撃者も、肩口に僕の放った矢を受けて落馬した。


「 ぐわぁぁっぁぁ 」


まぁ余程打ち所が悪くない限りは、死んではいないだろう。

しかし魔法の効果はすごい、改めて感心した。


「 ソーン 馬車を止めてくれ  それと マーサ 周辺はどうかな 」


「 大丈夫だよぉ <MAP>で確認済 ミーネも問題無いって 」


すかさず返ってくるマーサの答え、しっかり魔法で確認してくれていたようだ。


『 ミーネもありがとう 』


『 お役にたてれば幸いです そろそろセオさんも戻ってきます 』


興奮している馬を宥めながらソーンはゆっくり馬車を止める。無理をさせたようでさすがの大型馬も口の端に泡を吹いている状態だ。


「 少し馬を休ませていいですか、それから水場に戻ります 」


ソーンの提案には誰も反対する者もおらず、頑張った馬には水が与えられ落ち着かせるためにソーンが首筋を撫でている。


「 リックぅ 皆さんが心配してるけど 」


馬車の中からマーサが声を掛けてきたので、僕は乗客の皆さんにとりあえず危険は排除したこと魔法で見張りを行っていて周辺には不審な動きも見られないことを説明しておいた。

怯えていた乗客たちはマーサとフェオがゆっくり落ち着かせてくれるだろう。




「 主様~ 確保してまいりましたわ 」


セオの声が聞こえた方を向くと、セオの後ろには馬を引き虚ろな目で歩いてくる元襲撃者が2人いた。


「 お疲れ様 その2人はどうなっているの? 」


左側から襲ってきたであろう2人は、どうやらセオのコントロール下にあるようだ。


「 無力化して、意識を乗っ取りました。危険は全くありませんわ 」


「 じゃあ、その2人を使って怪我して転がっている襲撃者を回収できるかな 」


「 お安いご用ですわ 」


セオが虚ろな目の2名に向かって手を振ると、元襲撃者は騎乗したまま走り去っていった。


「 流石はセオだね ありがとう助かったよ 」


「 私の全ては主様の物です、なんなりとお命じください。主様のお役にたつことが喜びなのですから 」


うーん、僕には過ぎたお嫁さんかも、まぁ神様に近い存在だしねぇ


『 ご主人様、過小評価はいけません。 ご主人様だからこそ、亜神を娶ることが出来たのですよ 』


『 そうだね 自信を持つよ 』


またミーネに言われてしまった。でも僕自身もっともっと強くならないとね。







やがてセオの支配下に置かれた元襲撃者が、怪我をした仲間と馬を確保して戻って来たので。

そのまま通り過ぎてしまった水場に戻り、野営の準備をすることにした。


「 今日は申し訳ないですが、テントは張らずに馬車で寝てください 」


ソーンが乗客に説明する声が聞こえる、この捕まえた4人が襲撃者の全員とは限らないからだ。




「 セオ どんな感じだい 」


僕の矢を受けて落馬した2名の襲撃者はセオの魔法で頭から下の自由を奪ってあるのだ。

もっとも落馬の際に2名とも頭を打ったらしく、まだ気絶したままだ。


「 あい、そろそろ目を覚ますと思います。 意識が戻りつつありますので 」


意識をセオニ支配されている2名の元襲撃者の足元に転がされている奴らから、襲撃の目的やほかにも仲間が居るのかを聞き出さないとなぁ。

何しろセオの魔法が強力過ぎて、支配下の2人からは魔法を解除しない限り何の情報も引き出せないらしい。

セオも初めて人種相手に使った魔法なので、効果の見当が付かず結果的に相当強力になってしまったのだ。


「 ・・・ う うぅ   どうなった 何が・・・」


どうやら片方が意識を取り戻したようだが、状況が理解できていないのだろう戸惑っている。


「 残念ながら襲撃は失敗だよ、全員捕まえてやった 」


「 ・・・ あぁっ 、 なんだとぉ!    ってどうなってやがる 体が動かん おい、ゲイナー ホルドン パリフェ 一体何なんだよ 」


「 声だけはでかいな、お仲間もみんな捕まったよ。 ほれあんたの隣にも居る 」


体の自由がきかないので隣にいる仲間を見ることも出来ないのだ。


「 セオ そこの2人を使って煩い奴に皆が見えるようにしてやれ 」


「 あい、主様 」


セオが支配下にある2名に手を振ると、彼らは素直に元仲間である動けない2人を側にある石に寄りかからせるように座らせた。


「 どうなってやがる しっかりしろパリフェ!! なんでこんな奴らの言う通りにしてやがる ゲイナーもか 一体こいつらに何をした 」


「 しかし煩いな 」


せっかく座らせてやったにもかかわらず、一向に静かにしようとしないので困っていると。


「 主様が煩いと仰せです、静かになさい 」


セオが魔力を言葉に乗せたのが感じられたと同時に急に大人しくなる煩かった男。

どうやら置かれている立場と圧倒的な力の差に気付いたらしく、静かにしていることを選択したようだ。



暫くしてもう一人の男も気絶から回復したが、しばらく騒いだあげくセオに魔力を当てられて大人しくなった。


さて、色々と教えてもらおうか。








 




今日もお読みいただきありがとうございます。

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