旅のお供
こんばんは 今日の投稿でございます。
馬車の旅は始まったばかり。
僕らの他に乗っているお客は7名、他には御者のソーンと彼の相棒である猟犬。
見た目はいかつい犬なのだけれども、飼い主に忠実でとても良い子です。
ちなみに名前はライ君、3歳の男の子だそうな。
なんとなくジャーマンシェパードっぽい。
とても勇敢で、過去には野盗を追い払ったこともあるらしい。
まぁ馬車での長旅でもあるし、最初に自己紹介とかもしたよ。
修行を終えて里帰りする鍛冶職人のゴドックさん(ドワーフ)と修行中に出会い結婚した奥さんのカレーニャさん(ハーフドワーフ)。
旦那さんの実家で家業を継ぐらしいよ。
小物や布地の行商人マンドさん(人族♂)とパートナーのレスカさん(猫族)。
レスカさんは奴隷だったらしいけれど、マンドさんが買い取って解放したらしいよ。
あとは品の良さそうな老夫婦(人族)とそのお孫さん、何でもお孫さんは体が丈夫ではないので暖かいところで静養に行くらしい。
病弱なのか色白でとても線の細い男の子。
この世界の主要な街道は魔法で均されているうえに、長距離を行く馬車は魔法で強化した車軸を採用しているので故障も少ないらしい。
まぁそれでも乗り心地が悪いことを予想して、ポルちゃんに頼んで魔法が掛かったクッションを僕らの人数分購入済。
少しはお尻も痛くなりにくいかなと思っている。
この馬車の終着点であり僕らのとりあえずの目的地であるフェーンまでは、通常ならば6日程なのだけれど。今回はがけ崩れにより迂回しなければならないために8日程かかりそうだということ。
途中で3か所の村に立ち寄り、そこで降りる人もいるらしい。もちろん村には宿屋もあるので泊ることもできる。ただし村以外は途中にある水場等で野営になるそうだ、その辺りは御者であるソーンの判断次第。
まぁ馬車の旅では当然のことなので、乗客全員が準備済のはず。もちろん僕たちも準備は怠りなくしてきた。
しかし行程のほとんどは座って過ごすので退屈だよねぇ。
僕は見張りも兼ねているので、周囲に気を配ったり時々電子魔法の<MAP>で周辺状況を確認してる。
まぁ主要な街道には定期的に巡視隊が任務についていてくれる上に、魔法師による監視もあるらしいからそこまで警戒をしなくていいらしいけれど、用心には越したことはないしね。
でも単なる乗客に過ぎないうちの奥様達は退屈だよね、まぁセオは亜神としてずっと一人だったらしいけれど、みんなと一緒の旅だし楽しませてあげたいので。
僕はある準備をしておいた。
ちなみに馬車は平均時速15km/h程度は出るらしいので一日に凡そ120~150kmくらい進める計算、地球の馬よりサイズ的に大きいだけでなく脚力や体力自体強い上に魔法で強化されているんだって。
魔法ってほんとすごいね。
そんな雑談をしたりしながら過ごしてきたけれど、退屈しのぎの道具を背嚢のポケットから取り出す。
「 マーサ これ 」
「 あぁ!! リックぅ これって 」
思わずマーサが大きな声を出してしまったので他の方にすみませんと謝っておく。
馬車の中は狭いからね、余程の事でない限り大声は禁止です。
僕がマーサに渡したのは、トランプでした。
もちろん暴言の人じゃないよ、遊び道具の大定番トランプです。
マーサにはトランプでの遊び方を教えてあるんだ、まだ2人だけで過ごしていたころに退屈しのぎに遊んでいた。
でもなんでそもそもトランプがあるかというと、日本からこっちに来るときにこの世界にはそういった遊び道具が無いことは聞いていたので、荷物の中にトランプを2組仕舞っておいたのだ。
しかもここでも母の愛がさく裂していて、ルーちゃんもトランプと某世界的なカードゲームを一緒に荷物の底に入れてくれていた。さらに普段は気が利かない父ちゃんまでトランプと花札、さらにサイコロまで・・・
どんだけ好きなんだようちの家族。
「 遊んでいいよ 前に教えたババ抜きをみんなに教えてあげなよ 」
「 うん 」
マーサはニコニコしながらセオとフェオにカードの説明から始めている、2名とも興味津々だ。
マークと数さえ覚えて、あとは絵札の柄さえ覚えれば遊べるしね。まずはやってみればいいのだ。
流石にセオはあっという間に理解したようで問題なさそう、フェオも基本的に頭の回転は速い子なので試しに遊んでいたら理解できたようだ。
「 じゃあ あたいが配ってあげる 」
マーサはトランプを切ったり配るのがとても楽しいらしくて、2人の時も率先して楽しそうにやっていた。
しかも手先がとても器用なので、何回か僕が手の中でシャッフルして見せたら大興奮して覚えたがった、あっという間に僕より上手に出来るようになってしまった。
そして早速その技を2人の前で披露し始めた。
「 ふわぁっぁぁぁぁぁ マーサ姉様 すっごーい 魔法見たいです 」
「 あい、さすがは姉様!! でも魔力は感じられないので 技ですよね 驚きです 」
フェオはマーサのテクニックに大興奮だし、セオまで驚きのあまり拍手している。
「 さぁ 配るよぉ 」
慣れた手つきで簡易テーブルの上にカードを配るマーサ、すっかり仕切っている。
「 あの技には驚かされましたが、勝負は負けませんよ 竜種は負けず嫌いなのです 」
えーと、セオさんや。竜種とか簡単に口に出さないでくださいね・・・
「 むむむ・・・ これかなぁ 」
マーサがやたらに悩んでいる、セオの手持ちからどれを引くか相当に迷っているようだ。
「 姉様 どうされますか ふふ 」 セオはすっかり余裕で 3枚の手持ちの一枚を飛び出させている。
「 きっと あれは罠に違いない、さっきもあれで騙された・・・ だからぁ こっちだよ 」
今度こそ騙されないとの気合で引いた飛び出ていない右のカードは・・・
まぁすっかり落ち込んでいるマーサの表情を見れば分かるか。
シャッフルの技はとても華麗だったのだけれど、マーサの致命的な弱点が露呈してしまったのだ。
それは、ポーカーフェイスが全くできないこと。
ババを引けば落ち込み、相手にババを引かせるときは、相手ががマーサの手の内のババに触るとニコニコ笑い、違う札だと微妙な顔になる。
もうね、傍から見てても面白いくらい表情が分かり易い。
なのでババ抜きは圧倒的にマーサが負け続け。
ならば別のゲームにすればいいのに、マーサが勝つまで止めたくないと宣言してるのでまだ続いている。
「 さぁ 姉様私が引く番ですよ 」
現在ババは、マーサの手元にある。うまくこれをフェオにひかせればマーサの勝ちも見えてくるはず。
ここでマーサが天才的な閃きを見せて、3枚のカードを机に伏せた。
「 さぁ 好きなのを持っていきな 」
「 姉様 考えましたね 流石です!! 」
そう、自分が目で見ているのを相手に引かせるから表情に出てしまうのだ、ならば自分も見えない状況で相手に引かせれば良い。
よくぞそこに気が付いたマーサよ!!
「 ふふふふ これで勝てる 」
そしてフェオが伏せたカードの片方をゆっくりと引き寄せる。
「 揃いましたぁ あがりです 」
嬉しそうに揃った2枚のエースを場に差し出すフェオの姿
「 そ・・・そんなぁ 」 崩れ落ちるマーサ
そしてそのままズルズルと負けてしまうマーサだったのです。
「 少々よろしいでしょうか 」
その日の夜、野営するための水場で夕飯を終えて焚火の前にいた僕に話しかけてくる男性が居た。
「 どうぞ 」僕はさっきまでフェオが居た場所を示して男性に返事をした。
テントはすでに張ってあり、お嫁さん達は寝る前の支度に行っている、
男性は僕が一人になるタイミングを見計らっていてくれたのだろう。
「 今日は冷えますね、どうですか一杯 」
良く見ると男性は皮袋を持っていた、中身は酒だろう。秋も深まり夜は冷えるから寝る前に体を温めるのも良いかもしれない。
「 よろしいのですか 」
一応聞いておく、まぁタイミングを見計らっていたことといい、酒を持ってきたこといい、何かしら用事があるのだろう。
長旅なので親睦を図ろうとしているだけかもしれないが、利に聡そうな商人が接近してくるということは何らかの思惑がありそうだ。
その後は社交辞令から始まって、勧められるままに皮袋の中身を戴いたけれど、僕でもわかるいい香りのお高そうな酒でした。
「 ところで話は変わりますが 」
どうやら本題に入るようだ、この人は確かマンドさんだよな、行商人でレスカさんって言う猫族の彼女と一緒に旅してる人。
猫族のレスカさんは姿が見えないからうちの奥さんたちと同じようにテントに居るのかな。
猫族っていいよね、猫耳可愛いよなぁ。そういえばポルちゃんで買い物した時に来てくれるのも猫族さんだよなぁあの子黒猫でとっても可愛いんだよねぇ。
『 みなさんに告げ口しますよ 』
『 どうかそれは勘弁してください 』
頭の中でミーネに土下座する勢いで謝った。やはり僕にプライバシーは無い。
「 それで、あの遊びがとても気になりまして はい 」
ちょっと聞き逃した部分もあるけれど、要するにトランプがマンドさんは気になったらしい。
まぁあれだけ派手に楽しそうにやっていれば気になるよね。
「 お騒がせしてすみませんでした、退屈しのぎにやらせていたのですが申し訳ないです 」
「 いえいえ、楽しそうで何よりでしたよ。あのような遊びは見たことがない物でして、もしやリックさんの故郷の遊びでしょうか 」
両親から聞いてはいたけど、この世界にはトランプみたいなものは本当に無いらしい。
異世界のポピュラーなゲームですなどと説明しても理解不能だと思うので、僕の曽祖父が考案した遊びで東方で発展した遊びだと説明。
実際にカードを見せて遊び方を説明したのだけど。
「 こ・・・これは、素晴らしいです。絶対に受けますよ、いや 驚いたな 」
「 他にも複雑なゲームもありますし、賭け事も出来ます。他には占いに使う人もいますよ 」
「 これで賭け事・・・ 」
「 そうですね、じゃあ具体的にお見せしましょう 」
僕はそう言うと電子魔法を使う事にした。
「 〈投影〉 」
電子魔法でスクリーンを展開して、僕の知識内のポーカーやブラックジャックをイメージ投影して動画で見せてあげた。
「 これは・・・どういった魔法ですか 」
最初は僕の魔法に驚いていたマンドさんだったが、やがてスクリーンに釘付けに。
「 この場合、ディーラーの勝ちです。分かりやすい手役ですから 」
「 単純そうに見えて、これは奥が深そうだ・・・ 賭場を仕切る側にも・・・ ほほぉ兎の獣人が給仕をするわけですなぁ うむぅ 」
えーと彼女はバニーガールですけどね人族・・・ まぁ無粋なことはいいか
映像を見た後のマンドさんの食いつきすごかった。
そして最終的に僕が持っていた予備のトランプと遊び方を売り渡すことに、遊び方に関してはこの旅の間にマンドさんがメモに取ることで話がついた。
対価は何と金貨30枚、旅の途中なのでマンドさんの持ち合わせがそこまで無いのでフェーンに着いたらトランプと交換に受け取ることになった。
そのための契約書を作成して、お互いに魔力を流して簡易契約が完了。
「 これは絶対に流行しますよ、ありがとうございますリックさん 」
「 こちらこそ、こんなに貰って良いのかと心配になりますよ 」
契約書には間違いなく金貨30枚を対価として支払うと書いてある。
この世界の契約書には個人識別のための魔力印が押してあるために、契約違反をすれば商売が出来ないほどの信用問題に発展するのだ。
「 とんでもない、こんな安価で申し訳ないくらいです。きっとこれは大化けします、どうか私が財を成したとの話を聞いたら訪ねて来てください。必ず恩返しをしますので 」
「 その時はお祝いに駆けつけますよ 金持ちのマンドさんのところへね 」
この時は単なる社交辞令だったのだけど、マンドさんの予想通りトランプは大流行する、特に貴族や商人の間では飛ぶように売れることに。
あまりの売れ行きに外国からも注文も殺到しマンドさんは一躍大商人の仲間入りをするのだが、トランプの名前が有名になりすぎて彼自身がトランプ氏と呼ばれることになる。
そして多角経営にも成功し彼の経営する巨大なホテル兼カジノは、トランプのタワーと呼ばれ国内外から多くのお客を集めることとなるのだけれど
それはまた別のお話し・・・
念のため申し添えておきますが、当作品はフィクションであり登場する人物や団体等はすべて架空のものであり、実在する人物団体とは一切関係ございません。