出発します
こんばんは、本日分の投稿になります。
「 じゃあ ゆっくり目を開けて 」
薄暗い部屋の中で、フェオに声を掛ける。
「 はい、でもなんだか怖いです 」
目を覚ましたフェオにもう自由の身であること、僕について来て欲しいことを伝えると。
大泣きしながらもしっかり頷いて、僕と一緒に居たいと言ってくれた。
そして僕に3人目のお嫁さんが出来たので、まずはフェオの目を魔法で治すことにした。
〈ナノマシン〉の効果で治っていると思うのだが、治療箇所が目だけに時間を置いてからゆっくり目を開けさせることにした。
「 大丈夫だよ、さぁゆっくりでいいから目を開けようか 」
「 はい リック様 」
フェオには何度も僕を呼ぶのならリックで良いと言ったのだけど、リック様が今の限度らしい。
ゆっくりと 恐る恐るフェオの目が開かれてゆく。
「 あぁぁぁぁ 」 フェオの声が響く
「 どうしたの 大丈夫かい 」
「 見えます・・・ リック様のお顔が・・・ 見えます・・・ 」
フェオが大きく目を開けてこちらを見つめている、その瞳の色に濁りは無い。
「 フェオ 良かった 」
「 うわぁぁぁぁっぁ ・・・ リック様ぁ リック様ぁ 」
フェオは感極まったのだろう、見えるようになった目から大粒の涙を流しながら僕にしがみついてきた。
僕はそんなフェオをしっかりと抱きしめた。
「 良かったよぉ あたいも嬉しいよぉぉ ふぇぇぇ 」
もらい泣きを始めるマーサ。
そしてみんなを見つめながら、そっと自らの涙を拭うセオ。
2人とも新しく仲間入りした妹の回復を心から喜んでくれているようだ。
その後落ち着いたところで、エイシアさんによる加護付与が行われフェオは正式に僕のお嫁さんに決まった。
「 夢のようです、お嫁さんにしていただいただけでも信じられないのに。目も治してもらって、再び加護をいただけるなんて 」
「 夢じゃないし、何も心配することもないからね。 フェオは僕が守ってあげるから 」
また泣きそうになるフェオを、今度はそっとマーサが抱きしめる。
「 あたいの事は姉と思って良いから、嫁同士仲良くしようね。 ほらセオもおいでよ 」
3人の僕の大事なお嫁さんたちが仲良く身を寄せ合っている、それぞれが生い立ちも種族も全然違うけれど僕も含めて家族になれた気がした。
みんな仲良しで本当に良いことだ。
「 次はぁ 落ち着いて子供を作るのですぅ 」
我慢できなくなったのかエイシアさんが突然叫びながら飛んできた、どうも色々テンションが上がっているようだ。
「 あたいがまず産むよぉ!! 」
マーサが負けずにテンションを上げて宣言する。
「 最初から双子でも三つ子でも、それ以上でもいいのですぅ 」
「 あたいに任せておくれ なぁリックぅ 早く赤ちゃんが欲しいよぉ 」
頬を染めて僕を見つめながら囁きかけるマーサはとても可愛いのだけれど・・・
「 まずはこの町を出ようね 」
僕は現実に引き戻す言葉で答えるのだった。
出発は明日、乗合馬車に乗り遅れないようにしないと。
「 主様の言うとおりです、さぁ荷造りを終わらせてしまいましょう 」
流石にセオはしっかりしている、フェオの荷物も手伝ってあげるようだし本当に良い子だ。
マーサもそれを見て我に返ったのか準備を始めてくれた。
あ、エイシアさんですか? ご想像通り姿を消して逃亡しました。
これもいつもの事・・・
夕飯を挟んで準備や片付けは続いて、明日の出発に備えて部屋も掃除した。
少しの間だったけれど、お世話になった部屋だしね。
それに立つ鳥後を濁さずは、うちの両親から教えこまれたことの一つ。
何とか夜が更ける前に諸々終了して、あとは寝るだけとなった時にちょっとした問題が発生。
「 筆頭嫁のあたいが今日は我慢するよ 」
「 マーサ姉様にそのような無礼は出来ません。私がここは我慢です 」
「 新参者が恐れ多いです、どうかお姉さま方でお願いいたします 」
何を揉めているかというと、どうも寝る場所の問題らしい。
今までは2名だったので、僕の左側か右側かという違いはあったのだけど素直に一緒に眠れた。
ところが3人になったので、誰かが僕の隣で眠れないことに気が付いたのだ。
で、今は譲りあいの真っ最中。
「 フェオは今日が最初なんだし、リックの右横が良いよ。リックは右側の子を抱き枕代わりにしてくれることが多いし 」
「 でも左側ですと主様は、寝ぼけてキスをしてくれたり甘噛みしてくれたりもしますわ 」
「 ふぇぇ 抱き枕ぁぁ キス・・・ 甘噛みぃぃぃ 」
こらこらフェオにはハードルが高そうだよ。
「 とにかくフェオは好きな方を選んで良いからね あたいが許すから 」
「 はわぁぁっぁ えっとえっと ぉぉぉ 」
フェオが真っ赤になってあわあわしている。なんか可愛いなぁ。
しかし僕に決定権はないようだ。まぁ三者三様の可愛らしさがあるから実際のところ選べないけどね。
最終的にはフェオは僕の右側で寝ることで落ち着いて、左はセオ。マーサは・・・枕の位置を下げて開いたスペースで寝るという技を開発しました。
この宿のベットは広いからいいけれど今後の野営や狭いベッドの時がまたひと騒動だろうなぁ
「 抱き枕にされたら・・・ 」
「 その時は主様に身を任せるのです 」
何か小声でフェオがセオに相談してますけど・・・ 聞こえないふりをしておこうね
でも、僕そんなに寝ぼけたりしてるのかなぁ
その後はちゃんとおやすみなさいをして、みんなで仲良く眠りました。
ちなみに次の日の朝の話。
起きたらフェオが真っ赤な顔をしておはようの挨拶をしてくれたのだけれども、恥ずかしそうにもじもじしながら嬉しかったですと言われてしまった。
寝ぼけて何かしたのだろうか・・・
『 ただ単に、抱きしめて 柔らかいねフェオ とか 良い子だねとか 寝言で言ってただけです 』
なんか不機嫌そうにミーネが教えてくれました。
冷静に聞かされると、結構恥ずかしいかも・・・
「 よう兄ちゃん来たな 」
駅家の前にはすでに乗合馬車が止まっていた。
2頭引きの箱馬車で10人位は乗れるような大きさだ、繋がれている馬は僕の知るそれよりずっと大きく力もありそうだ。
とてもではないけれど乗馬が出来そうなサイズではない。
きっと騎乗用の馬とは種類が違うのだろう。
「 よろしくお願いします。こちらは予定通り僕も含めて4名です 」
僕は残りの金額と予約の木札を渡した。
「 はいよ、確かに。 おーいソーン 」
「 何でしょう 親方 」
ソーンと呼ばれた若い男性がこちらにやってきた。
「 この人が護衛をしてくれるお客さんだ えーと兄ちゃん名前は何だっけか 」
「 リックと言います。傭兵の経験もあるし、刀も使えます。あと、嫁の一人は魔法師ですからお役に立てるでしょう 」
セオは魔法師ってことにしておく、これは既に打ち合わせ済み。
「 ほぉ これなら道中も心配いらないなぁ ソーンこれで安心できるだろう 」
「 はい親方。 傭兵と魔法師さんがいてくれるなら盗賊も怖くないですよ 」
ソーンという若者は普段、御者の助手として乗ることが多いので色々心配していたらしい。
特に今回は街道を離れてう回路を通らざるを得ないからね。
まぁ崖崩れじゃあどうにもならないもの。
「 リックさん、どうかよろしくお願いします 」
「 こちらこそ、僕には御者は出来ないのでお互いに出来ることで最善を尽くしましょう 」
「 はい 」
僕が御者のソーンと親交を深めていると、マーサ達が近づいてきた。
「 リックぅ もう乗ってもいいのかなぁ 」
「 あぁ構いませんよ、準備は出来てますし好きなところへどうぞ あ、リックさんは申し訳ないですけど後ろの荷箱の上にお願いします。見張りもお願いしたいので 」
「 分かりました。さぁみんな席を確保しておいで 」
僕は3人に声を掛ける、かなり早く出てきたのでまだ他の乗客は来ていなかった。長旅だしどうせならみんな近くに座りたいしね。
「 主様は一番奥に座られるとのことですから、みんなその近くにしましょう 」
「 はい、セオ姉様 」
3人は馬車に早速乗り込んでゆく、みんなとても楽しそうだ。
「 あのお連れの方々とはどういった関係ですか 」
少し不思議そうな顔でソーンが聞いてきた。
「 こら、ソーン お客さんに余計な事聞くんじゃねぇよ 」
親方がソーンを叱りつける。
まぁ気になるよね、でも商売人としては聞いちゃいけないことかもね。中にはいろいろ事情のあるお客もいるだろうし。
「 良いですよ親方、半分は護衛ですからそんなに客扱いしなくても大丈夫 」
ソーンには3人とも僕の嫁さんで、僕の故郷へ連れて帰る途中だよと説明しておいた。
全く嘘ではないよねこの説明、何でも馬鹿正直に話す必要もないし。
ちなみにソーンはとても羨ましがっていた。彼にも幼馴染の彼女がいて、お金が溜まり次第結婚するらしい。
そのためにも早く一人前になりたいそうだ。
やがて他の乗客も集まってきて、ほぼ予定通りに乗合馬車は出発した。
晩秋の風は冷たさを増していたけれど、天気は上々で日差しは穏やかだった。
さぁ旅立ちだ、僕たちと他のお客さんで満員の乗合馬車は町の大手門から橋を渡って街道へ、目指すは次の町。
活動報告でも書かせていただきましたが、おかげさまを持ちまして10000pvを突破いたしました。本当にありがとうございます。