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独立記念日

本日も更新させていただきます。お読みいただける方に最大の感謝を込めて御礼申し上げます。

楽しいはずの異世界生活です。なんだかんだ言ってワクワクしていました。

そういう予定でしたよね

では、なんで僕はこんなところで1人途方に暮れているのでしょうか?


ちなみに、荒野って言葉がぴったりくるような場所にある廃墟。

かろうじて、道があります。

遠くに山も見えます、ところどころ木が生えています。

建物もあります、でも人の気配はありません・・・


うちの両親とは3日前に別れました。


~3日前~


「じゃあ~ 気を付けてねぇ」


呆然とする僕の前で、エルフが告げる


僕の足元に置かれているのは、この世界ではポピュラーな背嚢(はいのう=リュックサック)

その中身はというと、当面の食料と水の入った皮袋が数個、食器や簡易調理器具

さらに、その他野営の道具一式。

腰には父親から貰った日本刀と、母親から送られた短剣(なんか魔法剣らしい)。

こっちの世界でありふれた旅人の服に身を包み、皮の鎧一式を装着し、留めにマントも羽織ったら

ごく一般的な旅の傭兵( っぽい )若い男一人完成です。


『パチパチパチ』


いやいやいや・・・ 手ぇ叩かれてもね。


「独り立ちって話は聞いていたけど、こんな街道沿いの何も無いとこで放り出されても困るよ」


僕の極々真っ当な抗議、決して間違っていないと思うのだけれども、返ってくる答えはというと。


「だってぇ~ ここが分かれ道なのよ ぶ・ん・き・てん」


どうみても10代後半の少女にしか見えないエルフにして我が母親が、街道の分岐点を前にして当然のように喋っている。

その後ろには、ここまで3人で乗ってきた馬車が止まっていて、父親が馬に水を与えているのが見える。


で、実の母親でありエルフのルーちゃん(こう呼ばないと返事もしない)の説明によると。

自分たち(両親)はエルフの国へ行く前に、別の街や人間の王国で情報収集(という名の寄り道だな)をしてから行く必要があるらしい・・・。


一緒に僕を連れて行きたいのは山々だが(ホントかよ)、自分たちは有名すぎるので僕が次期エルフ女王と、先の大戦における最大功労者である勇者との子供であることが分かると今後の人生に色々と影響が大きすぎる。

あわよくばと下心を持って接触してくる輩が大量に湧くのは目に見えており、今後の人生によろしくないと判断したらしい。


まぁ言っていることには大筋で間違いは無いのだろうし、反論出来ない。

僕にしたところで、親の七光りに塗れた生活は嫌だし、有名人の二世って大変なこと多そう。


異世界に来てから約2か月、小さなエルフの集落で世話になって色々旅の準備や心構えや

この世界への順応も出来たでしょうし、そろそろ大丈夫ということで、この街道の分岐点でお別れだそうです。


「こちらの世界での注意点や、獲物の見分け方、食べられる木の実や魚も覚えたはず。さらに基本的なことは(野営とか狩猟とかね)日本でも教えてあるし問題なかろう」


なんか父ちゃんも当然のように言っているよぉ。


この状態じゃ何を言っても無理そうだね・・・。

まぁ当面の生活費としてお金も渡されたし、装備も一式ある

簡単な地図や出身地や名前を書いてある身分証みたいな物も渡されたので、後はなんとかなるかぁ。

(ちなみに、身分証によると東方のエルファーっていう王国に属する、小さな村の出身ってことになっている、覚えておかないとね。職業はフリーの傭兵で仕事探し中ということにしておけとのお達し)


「じゃあ、この道を進めばいいの?」


僕は両親の乗る馬車とは逆の方へ向かう道を指さしながら尋ねた。


「そうよぉ~ その道をずっと進めば3日ぐらいで、マーレィっていう小さな村に着いてぇ、そこから~ また3日くらい歩けばトオッカっていう都市に着くはずよぉ。それなりに大きな都市だから、お仕事もあると思うのぉ」


「街道沿いの荒れ地や、草原地帯に小動物もいるし、狩の獲物には困らないはずだ。狩には、ルーの魔法と特別に精霊の祝福を受けたクロスボウをもらっただろう、あれを使えば食い物には困らん。」


道を説明する母親に続いて、父親が食糧について補足の説明をしてくれた。


しかもそのクロスボウって、エルフの魔法が掛けられ精霊の祝福も付与。しかも材質がエルフの森の特別な木と魔法金属という、この世界では垂涎物の武器らしい。

いざとなったら売っても良いと言われていたから、後に大きな街で試しに武器商店で見てもらったら大騒ぎになることは想像もしていなかった。 


「日本に居た時から、狩はしっかり仕込まれたし大丈夫だよ。獲物を捌くのも問題ないし。ところで、この世界ってモンスターとかは居ないの?」


この世界の生き物についての両親の説明には、野兎とか狼、熊、鹿、それに野生の馬とか牛の話は出てきたけど、ファンタジーでおなじみのモンスターとかの話は一切出てこないのが疑問だったので聞いてみたのだけれど。


「そんなものは滅多にいない!!」と父親がばっさり


うわーあっさり切り捨てられた。


「えー、ゴブリンとかオークとかいないの? 女性の騎士さんとかがオークに捕まってそれを助けるとかないの?」


異世界と言えば、定番中の定番、お約束のシーンでしょねぇ『くっ 殺せ』とかちょっと憧れるよね。


「あのねぇリックちゃん」


あ、これは僕の新しい名前 日本では山之上やまのうえ 理久りくっていう名前だったけれど、こっちでは苗字は偉い人しか持ってないそうです。こういうとこは定番だねぇ。


だから今の僕はただのリック、傭兵志望のリックだそうな。


母親の話は続いている


「だからぁ~ そういうわけで リックちゃんが好きなお話とかに出てくるような、モンスターはほとんどいません。」


考え事していたから、途中聞いてなかったけど、ようするにモンスターはいないらしい

なんか残念・・・

まぁ意味もなく殺戮とかしたくないし、そう考えれば居なくていいか。


「狩は糧の分だけ」これは父親によく言われた台詞。


少なくとも食べる分の狩は、何とか出来そうだしね。


まてよ、ってことは「冒険者ギルドは?」


モンスターがいないってことは・・・討伐とかしないってこと?


「冒険者という定義はこの世界にはないな、あれは小説やファンタジーの話だ、さっきも言ったが、魔物も今は見ることも少ないだろうし、想像しているようなモンスターもほぼいない。

だから、それを退治するような職業も存在しない。供給が無ければ需要も無いわけだ。

あと職業ギルドはあるが、国を超えた組織じゃないぞ、念のため言っておく。

あれはあくまでも職人や商人が自分たちの権益や商売を守るための自治組織みたいなものだ。ラノベに出てくるような世界中に支部がある冒険者ギルドのような組織は残念ながらこの世界の文明レベルと魔法では維持不可能だ。


もちろん魔法は便利なものだが、残念ながらこの世界の魔法はそこまで万能ではない。

転移魔法なんて、ごく一部の王族(エルフ王国)しか使えないし。情報伝達は、早馬や伝書鳩が最速で、それも貴重品だしな。

もちろん行商人や、交易商人はいるし、そういった連中向けに往来の護衛を請け負う傭兵もいるし傭兵ギルドもあるが、その影響力は国内レベルの組織だ。

さらに言えば傭兵ギルドやギルドの構成員が交易商人を護衛するのは、狼、剣歯虎とかの猛獣から商人を守るためと、何より一番怖い盗賊どもから積み荷を守るためだ。」


「モンスターはいないけど、盗人はいるってことだね」


「うむ、いつの世も悪は絶えないのだよ」


盗賊の中には組織化された連中もいるらしくて、商人に危険はつきものらしい。


「さらに言えば、ラノベで定番のレベルとかスキルなんて便利な物差しもないぞ。ステータスオープンなんていくら叫んでも何にも出ない。」


「やけに詳しいけど、父ちゃん経験あるの?」


僕の素朴な質問に答えはなく、父ちゃんの話は続く。


(これは多分だけど、父ちゃんやったことあるのかも・・・)


「だけどな、お前には子供の頃から修行で磨いてきた技と力がある、この世界で傭兵稼業をするもよし、さらに経験を積んでから、領主や貴族仕えて騎士になるくらいは可能だろう。


もちろん農民になるのもいいし、職人や行商人になるのもいいだろう。そうすればギルドにも入れるぞ。石工のギルドなんかお勧めだ。」


父ちゃんはニヤリと笑った後に、真剣な顔に戻って一言追加した。


「好きに生きろ」


ようするに、ここからは完全に一人で生きて行かなければならないってことかぁ・・・ 


「あのねぇ、彼女やぁ奥さんが出来たら報告するのよ~ 小さな町にも手紙屋さんがあるから、ちゃんと手紙出すのよ~」


たいていの街や村には、郵便みたいなシステムがあるようで、多少時間はかかるけど手紙のやり取りは出来るらしい。


母親の言葉に、僕は無言で頷いた。


「あとぉ いざっていう時のためのお守りも背嚢の底にいくつか入っているしぃ~ エルフの魔法を閉じ込めた魔石も使い方判るよね」


「大丈夫だよルーちゃん、教えてもらった通りに使うし。これもあるしね。」


僕は、両親から譲り受けた刀と魔法剣を軽くたたいて見せた。


「ルー、行くぞ」


いつの間にか馬車に乗り込んでいた、父ちゃんが声をかける


「あーん。シローちゃん 待ってぇ」置いてかれまいと、母親が馬車に行こうとしたのだけれど、何かを思い出したように僕のそばに戻ってくると


「幸運がリックちゃんと共にありますように」


久しぶりに見た真剣な顔と声で、僕をぎゅっと抱きしめると


「3@:;+*%&~σλЁ」


僕にはわからない言葉で、何か呪文のようなモノを唱えて馬車に飛び乗った。


「達者でな」短く父ちゃんが告げると、馬車が走りだす。


母親は遠ざかる馬車から身を乗り出して手を振っていた。


僕も大きく手を振りながら、馬車が見えなくなっても手を振り続けた。


お互い長生きみたいだし、また会えるでしょ



昨日は、ブックマークもいただけました。とても嬉しくてテンション上がり放題です。

ここまでお読みいただきありがとうございます。明日も更新いたします。

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