亜神を娶るということ
こんばんは 本日の更新でございます。
「 とりあえず 話がしたいのでお立ち願えますか 」
どうにも埒が明かないので、声をかけて立ち上がるように促してみたのだけれど・・・
「 もったいないお言葉でございます、なれど私どものような咎人が御前に居ること自体ご迷惑でありますゆえ 」
なんか小難しいことをくどくどと続けているけど、要するに自分たちは悪いことしたので顔を上げることが出来ませんってことなのかな。
『 ほぼその理解でよろしいかと思われます。おそらくはマーサ様を誘拐しようと企てたことに対する反省でしょうか 』
『 うーん そうだとしてもなんで急に反省して謝ってくるんだろう、そんな殊勝な心がけの人たちなら最初からそんなこと考えないよね 』
何故かということは流石のミーネも分からないようだ、この連中は恐らくマーサ以前にも誘拐や不当な手段で奴隷にした人達を裏のオークションで売っていたはず。
そんな違法な人身売買も当然の行為と考える奴らがなんで僕の前で???悪人でしょう
なんだか理由は分からないけれど、仮にもこの町では大きな店の主人であり実力者であろう人が、恥も外聞も無くこんな通りの真ん中でひれ伏しているのだから、少なくともマーサに対する手出しはしてこないと考えていいのだろう。
「 仕方ないのでこのままお聞きしますが、あなたは僕の大事な奥さんに対して良からぬことを企んでいましたよね 」
オブラートに包んだような言い方にしたけど通じるよね。
「 はい、愚かなる私どもは不敬を企み実行しようといたしました。もちろん今は一切そのようなことは考えてもおりませんが、その件で罰が必要であればいくらでもお与えください 」
うーん あっさり認めた上に罰せられても甘んじて受けるのか。
「 じゃあもう僕の家族に手を出す気はないのですね 」
「 はい、もちろんでございます。リック様のご家族だけでなく、今後は一切違法な取引は行わず、違法な奴隷の皆さんには賠償金をお支払して故郷へ送り届けます 」
「 はぁ・・・ 」
何で急に真人間になってしまったのだろうか、ものすごく疑問です。
「 店は息子に譲ります。元々息子は違法な業務には一切手を染めておりませんし、今回の件も含めて私の犯したことは全て伝え馬鹿なことはしないよう言い聞かせてあります。なれど親族ではありますゆえ跡を継がせることも論外であるとのご意向であれば息子共々如何なる処罰も受け入れます 」
「 息子さんに違法性が無いのであればそれで良いです 」
罪のない人は罰を受けることもないよね。
しかしうかつなことは言えないね、僕の言うこと全部真に受けそうな勢いだし。
「 寛大なご配慮に感謝いたします 」
「 でも、それではあなたはどうされるのですか 」
「 はい。 もちろんリック様にお許しいただけるのであればですが、私財を孤児院の経営に投じさせていただきたく思います。 この町にありました非道な孤児院はリック様の御威光によりすでに経営者夫婦が逮捕されました、その後を私の私財にて健全な孤児院として子供たちの救済に当たらせていただきたく存じます 」
えーと、なんかすごいことになってませんか。
さらっと言われた気がするのだけれど、悪徳孤児院の経営者逮捕って僕がなんかした? そこって多分マーサが居たとこだよね、えーともしかしたら僕と同じ名前の正義の味方かなんかいるの? その人と勘違いされてる?
「 ちょっとお尋ねしますけれど・・・ 誰かと間違えてないですか 僕そんな凄い人ではないですし・・・ 」
「 何をおっしゃいますか、間違うはずもございません。 もちろん私どもごとき者のことをリック様が覚えていらっしゃら無いのは当然でございますが、我々はリック様が遣わした方よりその偉大さも正しき行いも全て教え込まれておりますので間違うはずなどございません 」
えーと、いま遣わした方って言ったよね・・・
エイシアさんの手口とは違う気がするし、もしかして
『 セオ 聞いてるでしょ 』
『 あい、主様。私は何時でも聞いております 』
『 この人たちってセオの仕業? 』
『 あい、間違いなく私がやりましたわ。畏れ多くも主様の筆頭嫁であるマーサ様に手を出そうとしていた愚かなる者たちに、寛大なるお慈悲による悔い改めの機会を与えました。 その者達はお優しい主様の措置に感涙の涙を流すに至りましたので御前にて申し開きの機会を与えました 』
あああそうですかぁ セオの事だから聞いていたのだね、きっと。
『 じゃあ殺さなかったのは 』
『 あい、寛大な主様のお慈悲によるものであり、愚か者どもも深く感謝しております 』
その後も色々聞いたのだけど、ようするに
これはマーサに手を出そうとしたことに対しての報復なのだけれど、僕が殺すのはダメと言っていたので代わりの方法として選んだのが恐怖だそうな。およそ考えつくすべての恐怖を遥かに超える恐怖を与えながら、狂うことも死ぬことも許されない状態を丸一日味あわせたらしい。
時間的には丸一日しか経過していないのだけれど、恐怖を受けた本人的には永遠にも感じる時間らしい。
なので、たった一日で髪は真っ白の上に痩せ衰えた状態になったとのこと。
その後に亜神の力で体力は回復させて、すっかり真人間になった彼らはこれからの人生を罪の償いに当てるのだそうな。
もし、不誠実なことを一つでも行えばまたあの恐怖を味わう呪術が掛かっているし、間違っても邪な心は生まれないとの亜神の保証付き。
『 それと、孤児院の経営者の件は? 』
『 あの咎人どもは恐怖の制裁により、罪状を官憲に自白して証拠とともに法の裁きを受けることとなりました。 一部の加担していた貴族や不正を働いていた役人も同じ目にあっております。 近日中に新しい代官がこの町へ赴任して混乱を収めるようです 』
『 えーと、それも僕の名前なの・・・ 』
恐る恐る聞いたのですが、セオからはとても明るく肯定の返事が返ってきました。
僕にどうしろと言うのですか セオさん・・・
まぁ亜神を嫁にもらった時点で詰んでるのかな
「 とりあえずこれ以上あなた方を責めることはしません、今後は真っ当に生きて罪を償ってください 」
「「「「「 ははぁぁっ 」」」」」
いや、時代劇じゃないんだからさぁ そんなにひれ伏されても本当に困るのですけれど
「 あとあの犬族の女の子も故郷へ帰るのですか 」
気になっていた目の悪い子のことを聞いてみる。
「 いえ、あの者はまだ店におります。もちろん大事な身ですので丁寧にお過ごしいただいております 」
「 大事な身? 」
まぁ買われる身だったのだろうから、酷い扱いはもう受けていないと思っていたけれど大事な身ってどういうことかな。
「 はい、あの者にも自由になれることは説明いたしましたが、すでに身寄りも無く何よりリック様の寛大なるお心に触れてその身を捧げたいと申しております。どうかお側においていただけないでしょうか、本人の強い希望でございます 」
「 そうですか、ではお店に引取りに伺います 」
段々疲れて来たし、あの可愛い犬族の子も僕のとこに来たいと言ってくれるのなら迎えてあげよう、そう思って店に行くと言ったのだけれども。
御足労させるわけにはいきませんと固辞されてしまった。
後程宿まで送り届けてくれると言って聞かないので、仕方ないからそうしてもらうことに。
とにかくずっとひれ伏したまま話し続けるので、本当に困った。
孤児院の話とか、役人が罪や不正を自白したってことは昨日から町でちょっとした騒動になっていたらしいので町の人たちがなんか僕のことを色んな目で見ている。
正義の味方を見ているような人や、何者なんだって感じで見る人。さらには後ろめたいことがあるのか震えながら逃げてゆく人もいたらしい。
目立つの嫌だなぁ・・・
何とかその場を収めて、逃げるように宿に帰って来た。
マーサにはセオが説明してくれていたみたいなので、お疲れさまって迎えてくれた。
ほんとそう、どっと疲れてベッドに横になっていたらマーサとセオがマッサージしてくれました。
一生懸命してくれたのでほぐれました。
出来たお嫁さんたちだよねぇ。
そんな感じでまったりしていたのだけれど、中々のんびりはさせてくれません。
部屋のドアがノックされたかと思うと
「 お客さーん 人が訪ねてきたよぉ 」
宿の看板娘であるレイファが声を掛けてきた。
「 ふぁーい すぐに降ります 」
マッサージされてウトウトしていたのに・・・
そして、階下に降りてゆくと食堂でいきなりひれ伏すさっきの人達
流石に今回は2名だけだったけれど、年配の男性がいきなりひれ伏す光景は全然なれないし
宿の女将さんとか、お酒を飲んでいたいた人達もびっくりだよね。
「 お忙しいところ、わざわざお運びいただき誠にありがとうございます 」
「 いや、ね・・・ お店の迷惑だから ひれ伏すのは・・・」
「 はい、目ざわりであればすぐに引き上げますので、どうかご容赦ください 」
だめだ・・・ 早いところ用事を済ませるしかないな。いくら言ってもどうせ聞かないよなぁ。
ついさっきの光景を思い出して早々に諦めました。
「 では、その子はもらい受けますよ 」
「「 ははぁぁ 」」
さらに地面にめり込まんばかりにひれ伏す2名
そして、目がよく見えないけれど気配や言葉から雰囲気を感じ取っているのか、とても困っている犬族の女の子。
「 僕の声は分かるかな 」
なるべく優しく声をかけると
「 はい!! そのお声と匂いはご主人様!! 」
嬉しそうな声と、気持ちを表すように大きく振ってくれている尻尾がとても可愛い。
前回は電子魔法で見た目を変えていたけれど、目の見えないこの子は声と匂いで憶えていてくれたらしい。
ゆっくり正面から近づいてゆき、驚かさないようにそっと手を取った。
「 ありがとうございます ご主人様 」
完全に見えないわけではないらしいので、手を取った僕にぐっと近づくと顔を寄せてきた。
「 うん これからよろしくね 」
「 優しそうなお顔がぼんやり見えます こんな私を本当に引き取っていただけるのですね 」
少し涙声で話す女の子
「 安心していいよ。奴隷とか気にしなくていいからね 」
「 う、うぇ うえぇぇぇ ・・・ 」
我慢できなくなって泣き崩れそうになる女の子をそっと抱き寄せてあげると
しがみ付いてさらに泣き始めた。
「 なんか知らんが 兄ちゃん ええ奴やな 」
「 ちくしょう 娘に会いたくなってきた ぐすぅ 」
気が付けば酒場のあちこちでもらい泣きしてる人もいるし。
また変に目立ってしまった。
女将さん親父さん商売の邪魔してすいません、そう思って厨房の方を振り向いたら
女将さんが目を真っ赤にしていて、やはり目が赤い親父さんに肩を抱かれていた。
ええ人達や。
そのあと何とか泣き止ませて、部屋に引き上げました。
ひれ伏したお二方は、僕らの姿を見送ってから迷惑料だと言って銀貨を2枚ほどおいて帰ったそうです。
ほんとすんませんでした。
お読みいただいていることに感謝する日々でございます。




