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トオッカの町にて

今晩は本日の投稿でございます。31話目にしてやっと町の人というか一般庶民登場です。

「 見えたぁ リックぅ トオッカだよ 」


小高い丘の上から見えたトオッカの町の外壁、見た目は中世ヨーロッパの城郭都市って感じだろうか。

もちろん実物見たことなんてないけどね。イメージイメージ。

そんなにいい思い出も無いのかもしれないけれど、マーサが育った町であることには変わりわないわけで。


「マーサ、急ぐと危ないよ。町は逃げないし大丈夫」


丘の上から見る町におかしな点はない。

ちょうどこの丘を下りきった辺りが、新街道との分岐点なのだろう。

新街道には、トオッカから別の町に向かう隊商が見える。

そこそこ大きな隊商らしく、もう一日二日到着が早ければ交渉次第で便乗させてもらえたかも知れないが。

まぁ他にも隊商は出入りしているだろうし、乗合馬車も有るはず。


街道は城郭の外塀に設けられた大手門とでも言うべき門に繋がっている。

門の前には入ってくる人々を確認する検問所への列も見える。


日が暮れるまでは、まだ2時間以上ある太陽の位置かな。


「 早く行こうよ 今日の宿も取るんだろ 」


「 そうだね、いい宿知ってるかい? 」


元住人であるマーサに聞いてみたが


「 あのなぁ あたいが知ってるのはスラムとその周辺だけだよ。知ってるわけないよぉ」


「 じゃあ、町に入ったらどこかで聞いてみないとね。きちんたしたところに泊まるのは久しぶりだしね」


エルフの村で泊めていただいた以降は、野営か廃屋泊まりだったからなぁ。

出来れば風呂にも入りたいのだけれど、この世界ってあんまり風呂ってないらしいよね。

王侯貴族やお金持ちの家とか高級な宿屋にはあるらしいけれど、庶民は水浴びかたらいでの湯あみが普通らしい。

元日本人としては、浴槽に入りたいなぁ。

マーサと混浴とか良いよなぁ。


『  私も居ますよ 』


「 うひゃあ 」


「なんだい 変な声出して 」


丘をゆっくり下りながら、妄想をしていたらミーネに声を掛けられて。驚いてしまい、声をあげましたなんてマーサに説明できないし。


「 ちょっと 考え事しながら歩いてたら、なんか踏んだみたいで驚いたんだよ ごめんねびっくりさせて 」


「 気を付けておくれよぉ もうすぐ町だしさぁ 」


マーサに言い訳をしながら、前を見て歩いていく。

妄想はいかんね、心を読まれていると思わないと。


『 ご主人様、私はどこぞの精霊と違って勝手にお考えを覗いたりしません 』


『 ごめんごめん、ミーネはそんなことしないよね 』




『 はい、私はご主人様だけの忠実な支援女神です。私の能力と成長はすべてご主人様の物、あぁ早く成長して・・・』


『 リックさーん 早く新たな電子魔法を紡ぎだすのですぅ こんどわぁどんな魔法かとも思うとぉ 考えるだけでぇ あぁぁぁぁぁ・・・』


『 主殿ぉぉぉ 今晩こそ俺に入れてくれよぉ もう早く入れて欲しくてたまらねぇよぉ 主殿が入れてくれて俺が・・・ ぁぁぁっぁ 燃えるぜぇ』




『 お願いだからみんな一遍に喋らないで、もう最期の方なんか全然聞き取れなくなってますよ。とくにポルちゃん、省略しすぎ!!入れるのは金貨だからね 貴女は金貨以外ダメでしょ』


流石に町も近いので、エイシアさんもポルちゃんも実体化はせずに念話だけで話しかけてくるのだけれど、一度に話しかけるのはやめて混乱するだけだから。聖徳太子でも無いし、僕はただのハーフエルフですから。


『 リックぅ あたいも構っておくれよぉ 』


どうやら、念話は選択制に出来るらしくマーサに伝わらないようにして話してくるケースがあるのですよ。

ただ、マーサさんも女の感で気が付くらしくて、腕にしがみ付いてきたリ抱き着いてくるという物理攻撃と共に念話を送り込んでくる高等手段を確保したようです。

まぁスマホ由来ですから電子魔法はねぇ、遠隔会話なんて出来て当たり前のようです。


今回は歩いている最中なので、腕に体を密着させてくれてます。

あぁ 柔らかいなぁ、僕の奥さん。


『 可愛いねぇ マーサは 本当に可愛い 』


『 えへへへへ    うん 』


さらに体を預けてくるマーサ。



『  ちっ  』 『  む ・・・ 』 『 むかぁ 』


なんか実体の無い人達がご機嫌斜めのようですが、奥さん優先、柔らかくて可愛いウサギちゃんが最優先です。

萌えるよね、やっぱり獣耳女子は良いよね。








「 ずいぶん並んでるなぁ 」


「 トオッカの町は、人の出入りが多いんだよ 」


町に入るための審査の列と思われる行列の最後尾に到着した。


最後尾いた行商人らしき中年男性に聞いてみると、一般人の並ぶ列はここで間違いが無いらしい。

列には数は少ないが獣人も並んでいるのでそこまでは差別されていないようだ。

ただし、明らかに奴隷のような扱いを受けている者も多い。

マーサも若干不安になって来たようで、僕の腕にしがみつく力が強くなってきた。


「 なぁ あたい捕まったりしないかな 」


小声で話しかけてくるマーサ


『 大丈夫だよ、身分証も有るし。マーサは僕が守ってあげるから』


念話で伝えながら、しっかりと肩を抱き寄せる。


『 うん  そうだよね    それに念話で話せば良かったんだな やっぱり馬鹿だなぁ あたい』


『 まだ慣れてないから仕方ないよ 大丈夫大丈夫 』


無言で見つめあうバカップルに見えてるだろうなぁと思いながらも。

周囲の視線はなんて気にしない気にしない



中々列は進まずに、並んでから門前の審査を行う建物まで1時間以上かかった。

まぁどの世界でもお役所仕事はこんなものかな。



「 身分証を用意しておくように 」


建物の中に入っても列は続いているけれど、入り口で衛兵が声を掛けている。




「 はい 次だ 」


田舎の駅の改札口みたいなところに立つ中年の男が声を掛けてきた。


僕が前に立ってその男のそばで身分証を呈示する。


「 うむ 」


僕の身分証が白い光を発したのを確認して頷いた。


「僕はリック この者は連れのマーサ 」


マーサも身分証に魔力を通して光らせる。


「 ふん 獣人連れか  2人で 銀貨2枚だ 」


「 ではこれを 」


僕は銀貨3枚を目の前の男に渡す。


「 ほぉ 若いのに気が利くな。 おいそのまま通してやれ 」


「  はっ    おい こっちだ 」


そばにいたベテランのような兵士が荷物検査のような机の前を通ってこちらに来た。


「 よろしくお願いします 」 僕はそう言って目の前の兵士に大銅貨を5枚まとめた物を渡す。


「 よし よし 」 


兵士は奥の扉を開けると僕らを外へ出してくれた。


「 ありがとうございます 」


「 おう、気を付けてゆくがよい 」


それだけ告げると兵士は建物の中へ入っていった。




さて、無事に町には入れた。

あそこで袖の下を渡さなければ、まだ余計な時間が掛かっていたかもしれない。

町によっても対応は違うのだろうけれど、この町はお世辞にも治安が良く大人しい所ではないらしいのでそれなりの対応を取って正解だ。

ミーネの情報は色々と役に立つ。





「 リックぅ 」


緊張していたのだろうマーサが身を寄せてくる。


「さぁ ここにいても仕方ないし 行こう」


建物の前は小さな広場で、奥の方には大きな通りが見える。

長居をするような場所でもないので、まずは通りを目指して僕たちは歩き始めた。




「 日が暮れる前に今日の宿は決めないとなぁ 」


「 あたいは泊まれればどこでもいいよ リックと一緒だし 」


マーサはこう言ってくれるものの、あまりいい加減な所には泊まりたくはない。

街中に入り人通りが多くなると余計に感じるのだが、マーサに視線を向けてくる奴が多い。

希少な毛並みとオッドアイ、審査待ちの順番で並んでいるときも何人か前の方にいた男が執拗に見つめていた。

当の本人は全く意識が無いのだけれど、気を付けさせないと。


「 リック ? 何か難しい顔してるよぉ 」


マーサが覗き込んでくる。


「 あぁ ごめんごめん   お、そこの屋台で食べ物を買って宿の事も聞いてみようか 」


大通りを中心と思わしき方へ歩いている最中に考え事はいけないな。

気を付けよう、とりあえず目立つ場所にある数軒の屋台を発見したので近づいてみる。


噴水がある広場のようなところに、屋台が数軒。

中途半端な時間のため客足は少ないが・・・


串焼き屋に あれはパンに選んだ具を挟むやつかな・・・

それと何か分からん焼き物かな 鉄板が置いてある。


「 マーサ あれは何の屋台かな? 」


辺りを見回していたマーサに、気になった屋台の事を聞いてみる。


「 あれは、クレープだよ 薄く焼いた生地に好みの具を選んで乗せて巻いてくれる食いもんだよ。 あたいは食べたこと無いけれど美味そうだよねぇ 」


マーサは、かつても指を咥え羨ましく眺めていた屋台を見つめている。


「 じゃあ 買いに行こう 」


マーサの手を引いてクレープの屋台の前へ。


「 いらっしゃい !!  ちょっと火が落ちてるから待てるかい 」


屋台の前で椅子に腰かけている女性が声を掛けてきた。


「 大丈夫ですよ、 待たせてもらいます 」


「 じゃあ 座って待ってておくれ 」


女性は自らが座っていた長椅子を僕たちに勧めて 屋台の裏に回り込んで準備を始めた。




「 あんた達、旅の人だろ。 着いたばかりかね 」


屋台での商売人だ、こちらに色々と声を掛けてくる。


「 ええ、先ほど着いたばかりです。まず腹ごしらえをしてから宿とかも探そうかと 」


「 おや、まだ宿も決まってないのかい、なら教えてあげようか 」


話しながらも手際よく準備を進める女性は、あっという間に準備を済ませたようだ。

こちらの返事を待つまでもなく肝心なことを聞いてきた。


「 何枚食べるんだい 」


とりあえず一枚づつ頼んで、生地が鉄板の上に広がってゆく。

さらに勧められるままに具を選んで、特製クレープが出来上がる。


「 じゃあこれを 」


品物と引き換えに大銅貨を2枚渡し、お釣りを渡そうとする女性に釣りはいらないから良い宿を紹介してくれと告げる。


「 へぇ 若いのに気が利いてるね あんた」 



出来立てのクレープに齧り付いているので、相槌だけ打つ。


勧められた鶏肉と野菜を少し辛いソースで食べるクレープは素朴な味で中々美味い。

理想を言えばマヨネーズが欲しいなぁ。


マーサの方に目を移せば、もうほとんど食べ終わって手についたソースを舐めている。

どうやら相当気に入ったようだ。


ニコニコ笑いながらこちらを眺めている女性にもう一つずつ別の種類を注文すると。


「 気に入ってくれて嬉しいよ 」


そう答えながら、生地を焼いてゆく。









「 ここかな 」


あの後、マーサはさらにもう一つ追加して2人で5個も食べたことで、すっかりサクラ状態になったようで屋台には他の客も集まってきた。

他の屋台はガラガラなのにも拘らずだ。


そしてすっかり喜んだ女性が教えてくれたのが、今目の前にある宿屋。

大通りから一本路地に入ってはいるが人通りも多いところで、建物も多少古い感じはするがしっかりした感じだ。

名前は < 白鹿亭 > 1階は酒場になっているらしい。


「 いらっしゃーい 好きなとこに座っておくれ 」


大柄な中年の女性が店に入った僕たちを見て声を掛けてくれる。


店内にはまだ明るいにもかかわらず、何組かの客がおり楽しそうに酒を酌み交わしている。

全体的に良い雰囲気の店だ。


「 いや、泊りたいのだけど部屋はあるかな 」


「 おや、お泊りかい。 2人かね 」


「あぁ、部屋は一つで良い 夫婦だし」


「 きゃ 」 僕の後ろに隠れるようにしていたマーサが小さく声を上げて腕をつかんでいる手に少し力が入る。

後ろは見えないのだけれど、夫婦という言葉に反応して照れているのだと思う。


『   リア充   し・・・ 』


なんか脳内で物騒なことが聞こえた気もするけれど、キコエナイキコエナイ



「 おーい  レイファ お泊りのお客さんだよ~ 」


カウンターの奥に向かって声を張る女性、この店の女主人なのだろうか。


「 はーい おかみさん 」


店の奥から小柄な若い女性が出てきた。


「 お泊りですね お2人で銀貨2枚です夕飯と朝ごはんは付いてますよ 」


茶色いショートヘアーの人種と思われる女の子だ、年の頃は14、5歳といったところだろうか。


「 クレープ屋台のトアさんがこの宿を勧めてくれたんだ 」


「 おや トアの紹介かね じゃあレイファ、お湯はタダにしておいてあげな 」


会話を聞き付けた女主人が声を掛けてきた。


「 はーい おかみさん 」


「 ありがとうございます 」


僕は女主人に頭を下げる。


「 奥さんの旅の垢を落としてあげるといいよ  レイファ 部屋は奥の部屋にしてあげな 若い夫婦だからねぇ」


気の良さそうな女主人は、僕たちを見ながらウインクしてくれた。


お気遣い感謝します。


前金で銀貨を4枚渡してとりあえず2泊する旨を伝える。

延泊の場合前日までに申し出れば問題ないとのこと。




「 こっちですよぉ 」


店の奥へ誘ってくれるレイファと呼ばれた女の子。


通された部屋は2階の一番奥、大きめのベッドとテーブルがあるシンプルだけれども清潔な部屋。

部屋の片隅には大きめのたらいがあり、後でお湯を持って来てくれるらしい。

女主人のサービスで、たらい2杯分のお湯はタダだ。追加は1杯銅貨5枚らしい。


これから世話になるので、レイファにも大銅貨を3枚ほど渡してあげるとビックリされた。


「 えええ こんなに良いのですか 」


「 僕らはこの町が初めてなんだ、教えて欲しいこともあるしよろしくね 」


「 ハイ !! 」


元気よく返事をしてくれたレイファに、夕飯や朝食の取り方を教わり。

さらに、乗合馬車の事も聞いてみた。


「 次の乗合馬車は、確か明日着くはずで明後日の朝には出発します。到着と出発の場所はお客さんたちがクレープを買った広場ですよ 」


これ以上の詳しい話は、到着する馬車の御者に聞くしかないようだ。

とりあえずは明日だな。到着は早くても午後になるらしい。


忙しくなる時間だろうし、あまり引き留める訳にもいかないので、後はお湯を一杯頼むだけにした。


「 少し待ってください 」


そう告げてレイファは部屋を出て行った。

お湯が来るまで暫くあるだろうし、楽にしていよう。




お湯が届いてからですか?

ええ、もちろんちゃんとマーサを綺麗にしてあげましたよ。







お湯で身を清めて思ったのは、やっぱり風呂に入りたいなぁということ。

お湯を持ってきたレイファにも聞いてみたけれど、この町で風呂のある宿は最高級のところだけとのこと。

当然のことながら公衆浴場なんて気の利いた物は無いらしい。

王都に行けばあるらしいけど、利用料金も高いらしい。

まぁ当分は無理だな。マーサも何で僕がそんなに風呂にこだわるのか不思議らしいけれど、日本育ちとしてはそこは譲れないよね。


そんなことを考えたり、マーサといちゃいちゃしながら部屋でのんびりしていたらノックの音が響いて


「 お客さーん 夕飯はどうされますかぁ 」 レイファが声を掛けてきた。


「 すぐに下に降ります 」


「 はーい では準備しておきますねぇ 」


夕飯と聞いたマーサはすでに動き出していた。


「 夕飯はなにかなぁ リックぅ早くいこうよ 」


「 楽しみだね 」


クレープ屋台のトアさんはこの宿を勧める時にこうも言っていた。


「< 白鹿亭 > はねぇ食事が美味いよ、厨房は旦那と息子が腕を振るっているけれど間違いなくこの町で2番目と3番目の腕前だよ。

食事目当てであそこを定宿にしている商人も多いことだしねぇ」


「 この町で1番腕の良い料理人が勧めるのだから間違いなさそうだね 」


僕の返しは間違っていなかったようで、帰ろうとする僕たちに林檎を甘く煮た物を包んだクレープを持たせてくれた。

あのクレープは夕飯後のデザートだな。





すっかり暗くなる時間でもあり、階下の酒場は大賑わいだ。


「 お客さん 席はこっちに座っておくれ 」


壁際のテーブルを空けておいてくれたようで案内される。

飲み物は別料金らしいので、皆が飲んでいるエールを注文して料理を待っていた。


『 見られていますねご主人様 』


ミーネが話しかけてきたのはマーサが見られているということ。

この町に入ってからも何人もマーサを視線で追う人がいたけれど、ここでもやはり見られている。

当のマーサは、全然気にもしていないし気が付いてもいない。

まぁ今までは無視されるのがあたりまえの生活だったから、他人が自分に注目してるなんて考えてもいないのかもしれない。


『 うーん やっぱり目立つよね 』


洋服や装備で多少隠れているが、美しい毛並や隠しようのないオッドアイは目立つなという方が無理である。


「 はいよぉ おまたせ 」


テーブルの上には煮込み料理に、パイとシチュー、さらにお代わり自由のパン。

マーサの顔には満面の笑み。


「 これ全部食べていいのかい 」


旅の間は保存食や簡単な食事が中心だったので、手の込んだ料理に目を奪われている。


「 もちろんだよ、追加で頼んでもいいし 」


「 あたい こんな豪華な料理はじめてだよぉ 」


食前の祈りもそこそこに、マーサは食べ始める。

この小さい体のどこに入るのかと思うくらいの勢いだ。


「 あんた 可愛いのに良く食べるねぇ 」


いつの間にか近くにいたここの女主人が目を丸くして見ていた。


「 らっれ ろれも・・・ 」


「 マーサ落ち着いて   そのまま食べてていいよ 」


僕の言葉にうなずくマーサ


「 評判通り、どれもおいしいですね。僕は特にこのパイに感動しました 」


「 ありがとう パイはうちの店の名物でねぇ 」


女主人との会話にマーサも思いっきり頷いている。パイが口に合うのは間違いないようだ。


「 キドニーパイかぁ 羊ですよね 」


「 おや 良く知ってるね。中には苦手な人もいてね、牛の方が良いのかもしれないのだけれどうちの主人は頑固だから 」


「 これは美味いですよ、ここの食事目当てで定宿にする人がいるのも分かる気がします 」


「 嬉しいねぇ   ちょいと あんたぁ 聞こえたかい  この旅人さんは羊が良いってよ 」


女主人は後ろを向いてカウンター越しに声を掛けている、厨房にいる旦那に向かってだろう。


「 愛想が欠片も無い料理馬鹿でねぇ、でも腕はいいんだよ 」


「 あたいもこんな美味いパイ初めてだよ 」


口の中が空いたようで、マーサも素直な感想を話している。




「 おい 」


厨房から低い声が響いて、カウンターの上に皿が付き出された。


「 あんたぁ またかい? 」


「 ん 」


無口な厨房の主がどうやら何かを出してきたようだ


「 嫌なら残しておくれねぇ 」


苦笑いしながら女主人が皿をテーブルの上に乗せる


「 何だい これ? 」


マーサが見つめる先には不可思議な茶色の塊のようなモノ


「 これって 」 僕は思い出した、政治家だった父親の叔父さんの好物、たしか外交官だった時に覚えた味だって言ってた。いつもアレを飲みながら・・・


「 無理だろこんなの? うちの頑固者が毎日作るのだけど頼む人もいないんだよ 」


「 もしかして、強い酒と合いますよねこれ 」


僕のその言葉に厨房内が反応した。


「 おい 後を頼む 」


「 親父ぃ 」 息子さんであろう声が聞こえた

まだまだ店は客で溢れている、それでなくとも忙しい厨房から主人が抜けたのではたまったものではないのだろうが

当の頑固者は一顧だにしていない。それが頑固者の頑固者たる所以か。




「 飲めるか 」


厨房から出てきたのは赤い髪の中年男性、彫が深く意志の強そうな人。

そしてその手には陶器の入れ物とカップが2つ


この料理は異世界で言うところのハギス、そして持ってきたのはウイスキーおそらくはスコッチウイスキー。

親父さんの顔が心なしか緩んでいる。

何故この世界にスコッチウイスキーがあるのかは秘密だけれど・・・









「 リックぅ なんかあたいぐるぐるするよぉ 」


頑固者の親父さんは僕らのことを気に入ってくれたようで、あの後も色々と出してくれて。

マーサにも飲みやすいワインとかまで御馳走してくれた。


この世界では、子供でもワインは飲むらしいけれどマーサはスラム暮らしだったため酒なんて口にしたことなかったらしい。

すっかり出来上がってしまい、やっと部屋に連れ帰ったところ。

まぁ階段を上がれば宿屋って言うのはこういう時は便利だね。


「 ほら、着いたよ 」


部屋に入って、ベッドにマーサを座らせて靴を脱がせたり、服を緩めたりしてあげる。


「 リックぅ あたいのことすきぃ? 」


マーサの顔が近い。


「 もちろんだよ 可愛い奥さん 」


「 あたいもぉ 大すきぃ 」


嬉しそうに抱き着いてくるマーサを受け止めると、ベッドにそのまま倒れ込んだ。







後は・・・まぁ ほら


夫婦だし、ねぇ・・・


それ以上は野暮ってもんですよ









『 赤ちゃんが楽しみなのですぅ 』 


『  リア充め  爆ぜろ 』 


『 俺も入れて欲しいよぉ 』





なお、雑音は聞こえませんでした。



お読みいただきまして誠にありがとうございます。

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