獣人の魔法使い爆誕
こんばんは 本日分の投稿です。 少しずつ少しずつですがお話も進んでおります。
「じゃあ 見ててねぇ」
マーサが魔法の練習成果を見せに来た。
エイシアさんは、すぐ近くでニコニコしている、とても嬉しそうだ。
「 〈点火〉 」
基礎魔法だ
小さな魔法の火を指先に灯す、薪や木炭が主な燃料のこの世界では便利な魔法。
「おー マーサ出来てるね」
マーサの右の人差し指の先には、小さな魔法の炎が灯っている。
仮想空間とはいえ、この世界において前例のない獣人の魔法使いが生まれたのである。
「ほかにも覚えたよ 〈灯火〉 」
マーサの目の前に頭上に光る球が出現した。
「こうすれば分かりやすいのですぅ」
エイシアさんがそう言うと、仮想空間内が薄暗くなりマーサの頭上の光が辺りを照らしている。
「おお 明るいね」
「こんなことも出来るよ。 それ 」
マーサが指示を出すと、光の玉はマーサの前方に移動して光の強さも増した。
「ん、 そういうことか」
光の強さは増したのだが、マーサの側は暗い。要するに懐中電灯のように特定の方向を照らすように調整したらしい。これならば明るさは増しても自分が眩しくはない。
「すごいでしょ」
マーサが得意げに胸を張っている。
そのあとも、飲める水を作り出す魔法や、風を操って小さなゴミや埃を一か所に集める掃除の魔法を披露してくれた。
立派に使いこなしてる、初めての魔法とはとても思えないレベルだ。
「それでわぁ いよいよ電子魔法をお見せするのですぅ マーサさん」
「うまくできるかなぁ・・・ 心配だよぉ」
マーサはまだ自信がないようで、不安げだ。
対照的にエイシアさんは、大丈夫だから出来る出来るとマーサに言い聞かせている。
「僕もマーサの電子魔法が見たいなぁ」
僕も背中を押してみよう、そう思って声を掛けてみる。
「うん じゃあ 〈MAP〉 」
マーサの目の前には、スクリーンが形成され輝点が表示されていた。
エイシアさんが創り出し前回より大きな仮想空間内も、きちんと表示されているようだ。
「すごいじゃないかマーサ、電子魔法まで使えるなんて」
基礎魔法でもその精度に驚いたが、さらに電子魔法まで使いこなすとは、正直ビックリしたスゴイね僕の奥様。
しかし仮想空間とはいえ、これだけ見事に魔法を使いこなすということは、マーサには魔法の才能があるということか。
『マーサ様には間違いなく才能があるようですね』
ミーネが話しかけてきた
『ミーネもそう思うかい』
『はい、マーサ様が特別なのか、それとも獣人も魔力を自由に使えるならば、魔法を使える存在なのかは不明ですが』
『後者だとしても、いきなりこれだけの魔法を使いこなせるマーサはすごいよね』
人種やエルフ種、ドワーフ種のように種族的に魔法を使いこなせる種族でも、個体差により魔法能力は雲泥の差がある。
魔法師以外の多くの者は基礎魔法はともかくとして、加護を受けている精霊魔法は多くて数種類の魔法を低レベルで使いこなせる程度である。
ゆえに、マーサの場合今後の成長も見極める必要はあるが、成長次第で魔法師レベルに達する可能性は高い。
『そうですね、マーサ様はご主人様の魔力供給を受けているということもありますが、イメージする能力にも長けているのだと思われます』
「なぁ りっくー 」
気が付くとマーサがすぐそばで、僕のシャツの袖を引っ張っていた。
どうやらミーネとの話に夢中で気が付かなかったようだ
「あ、 ごめんごめん マーサ」
少しだけ拗ねた顔も可愛いのだけれど、それはそれ
気が逸れてしまったのは事実だしね。
「あたいの魔法ちゃんと見てたのかかい」
「途中からミーネとの話で見てなかった、ごめんよ」
適当にごまかしてしまうと突っ込まれるので、ここは正直に話した方が吉。
「 ちゃんと見ておいておくれよ。あたいの初めては全部リックのモノなんだからね」
無意識だと思うけれど、すごいこと言ってますよ奥様・・・
まぁ天然物だから深く考えての発言ではないでしょう。
「 うん、マーサの魔法にミーネも驚いて、相談に乗っていてもらったんだ。本当にごめんよ」
「 なんとなく分かるから良いけどさぁ、リックは優しいからいつもあたいの事考えてくれてるし・・・ 」
言い終わってから恥ずかしくなったようで、真っ赤になって俯いてしまうマーサ。
あぁぁぁぁ 可愛いなぁ ホント
『 ・・・ リア充 』
『 ミーネ さん・・・ 小声で 何か 言った?』
『何も申し上げておりませんよ ご 主人 さま』
ちょっとミーネが怖い・・・
その後もしばらく練習してから、現実空間に戻ってきたよ。
さぁリアルでの成果確認です。
「素晴らしいのですぅ マーベラスなのですぅ」
現実での練習が開始されて、最初の何回かは魔法が不成立もあったのだけれど
「〈投影〉」
「もぅ 調整も完璧なのですぅ 」
エイシアさんのテンションが例によって高くなって来ています。
『ねぇ ミーネ エイシアさんのあれって本心かな』
〈ナノマシン〉によってマーサが健康を取り戻した前と比べて、エイシアさんの態度は180度どころか900度位変化している気がする。
『精霊とは概ねあんな感じです、自ら認めた存在には最大限の敬意を払い、出来るだけの助力も惜しみません』
要するに、マーサはエイシアさんに認められたわけだ。
それに、精霊は嘘をつけないっていう話だし、お世辞とかも言えないか。
まぁ、マーサを褒めているのだし、褒められているマーサも嬉しそうだからいいか。
「ここまで来たら、あれもやるのですぅ」
「 えええ、流石に無理じゃないかな 」
おや、急にマーサが消極的になってきたな
「きっと大丈夫なのですぅ。 今なら〈音撃〉も使いこなせるのですぅ」
あぁ、そうねぇマーサならきっと使いこなせる・・・ っておい!! イカンだろ
「 エイシアさん 何を無茶言い出してるの !!! 」
思わず大きな声を出してしまったので、二人ともこっちを驚いた顔で見ている。
『止めて当然です。絶対に使わせないでください、将来的にはともかくまだ無理です』
ミーネが心配するのももっともだよ。
「エイシアさん調子に乗り過ぎないでください。マーサに何かあったらいくら何でも許しませんよ」
僕が本気で怒っているのに気が付いて、冷静になり謝ってくるエイシアさん
「すみませんですぅ 嬉しくなりすぎましたぁ」
エイシアさんの悪い癖だ、気を付けていないとね。正直なところ、音撃は負担が大きすぎるしイメージの暴走が心配だ。
音波は一歩間違えば、振動兵器とかにもなりかねないしね。
「ごめんよぉ あたいも悪いんだよ」
すっかり萎れてしまった2人。
「嬉しいのはわかるけど、徐々にね」
実はミーネに確認してもらったり、エイシアさんの情報から分かってきたこと。それは、マーサは獣人としては異常なほど魔力を持っているという事実。
通常の獣人は魔力を身体強化とその維持に使用しているため、魔法が使えないのは良く知られたこの世界の常識。ゆえに通常であれば、マーサの魔力は身体強化に使われ魔法の行使など不可能なのである。
では何故なのか。
仮説ではあるが、マーサは自身の体を先天的な病から保護するために魔力を行使していた。
心臓や血液の異常を魔力を使い抑え込み、肉体の負担を抑えるため自身の成長をもコントロールしていた可能性がある。
これには常時多量の魔力が必要となる。
これは今後の調査によって明らかになる可能性もあるが、魔力を身体維持に使う事がマーサの個体としての能力からきたことなのか、獣人なら誰でも持っている身体反応のなのか今のところは不明。
多くの先天性の病を持つ子供の場合、マーサほど総魔力が大きくないために病の進行に勝てずに命が尽きてしまっているとすれば後者の可能性が高い。
いずれにしても、現状では仮説に過ぎないのだが。
さてここで問題になるのがマーサの総魔力量だが、生まれつきある程度は総魔力量は多かった可能性が高い。さらにその後の成長過程で総量が増加したと考えるのが妥当であろう。
一般に総魔力量は生まれつきによる個体差と魔法等による魔力行使で徐々に増えてゆく。
ただし、魔法の難易度や使用魔力量に比例して総魔力量や回復速度も増加するので、基礎魔法や低位の精霊魔法行使では総魔力量は一生掛かっても微増程度しか見込めない。
一般的にも知られた魔法師の訓練方法として、自らが行使可能な魔法の中で最高位の魔法を連続で限界まで行使することで(成功失敗問わず)、総魔力量は徐々にであるが増加することが知られている。
マーサの場合、自身に治癒魔法を常に行使し続けていた結果、16年間の生命維持が可能だったと推察される。
そのため・・・
「 えええ 〈治癒〉 ・・・ これで 」
試しにナイフで僕の指先を傷つけて、マーサに治癒魔法を使ってもらった。
意外と切れ味が良すぎたのと、マーサの目の前でやったら刺激が強すぎると思い、後ろ手で切ったので結構深く切れてしまい少し焦ったけど、マーサの魔法で全く傷すらなかったように綺麗になった。
床に落ちた血の跡が無ければ、手品でも見ているようだ。
まぁ廃屋だから良いけれど、結構血が垂れてしまったのは内緒だ。
「驚かさないでよぉ 本当に治ったのかい もう痛くない」
「ごめんごめん、試しようがないからね。でもこれで1つ分かった」
「・・・ なんだよぉ あたいはこんなに心配してるのにぃ」
また、少し泣かせちゃった。
「本当にごめんよ、でもこれでマーサが治癒魔法を使えることも証明できたので旅が楽になるよ」
マーサを抱き寄せ宥めながら落ち着かせる。
「ずるいよぉ そんなことされたらぁ・・・」
マーサは治癒魔法が使える可能性が高い
その仮説は立証されたようだ。
この世界ランドヴェールにおいて治癒魔法の使い手はとても貴重なのだ。
精霊魔法には直接的に治癒につながる魔法はない
間接的に体力を上昇させたり、熱を下げることにより病状を和らげる魔法はあるのだが治癒魔法には及ばない。
そのために、ケガや病気から身体を保護する魔法が発達しているのは良い副作用であるとも言えるのだが・・・
さらに言えば回復薬と言われる治療薬はあるのだが、外傷をその場で完全治癒出来る物ではない。
傷を塞ぎ、自然治癒を促進できる程度の魔法薬。
ちなみに快癒薬と呼ばれる内服型の魔法薬は体調不良を一時的に抑える効果であり、医師にかかるまでの繋ぎとして使われる物である。
聖職者が使える治癒魔法はそもそも担い手が貴重であり、多くが宗教関係者や教会に所属しているため、マーサは実に貴重な魔法師になる可能性を秘めているのである。
しかも獣人である。
「 すごぉぉぉぉぉいのですぅ 」
マーサも落ち着いたと思っていたら、別の人が大混乱です。
「 え、 えぇぇ エイシアさん どうしたのかな 」
「マーサさんわぁ もうぅ すごいのですぅ 獣人が魔法を使えるだけでもぉすごいのにぃ 治癒まほまほ魔法ううう までぇぇぇっぇぇぇ 」
あかん、また変なモードに入ってしまったようだ
『こうなったら、しばらくは無理です 放置放置です 』
まぁ仕方ないね。
「 マーサ 頑張ったしお腹も空いたでしょ 」
僕の問いかけに可愛い奥さんは小さく頷いたので、テンションMAXな精霊さんは放置でとりあえず腹ごしらえをすることにしよう。
「 獣人の 魔法使いぃぃ 爆誕なのですぅぅぅ 」
今日もお読みいただきまして誠にありがとうございます。 ブックマークしていただけること本当に嬉しいです。これからも毎日投稿で頑張りますのでよろしくお願いいたします。




