仮想空間再び
本日分の投稿です。出発前に色々相談してます。慎重ですね。
「じゃあ、本当にマーサは魔法が使えるのかぁ」
『魔力的には可能と思われますし、加護と祝福を受けましたので基礎魔法は問題ないでしょう 電子魔法は未知数ですが・・・』
うちの父親の例もあるし、神様の祝福の影響は大きそうだ。
「マーサ、試してみようか」
僕はおろおろしているマーサを取り合えず落ち着かせて、魔法のチャレンジをしてみようと持ち掛けた。
「うん・・・、あたい頑張るよ」
「ミーネ、具体的にどうしたらいいのかな」
まだ、マーサが脳内会話になれてないのと、3人で話すときは口に出した方が分かりやすい気がするので、そばにいる時は僕とマーサは喋ってミーネは脳内に話しかけるパターンが今のところ違和感が無い。
もし他人が聞いていたら微妙に会話が成り立ってない事に気が付くだろうけどね。
『そうですね、ここはエイシアの力を借りるのが得策かと』
ミーネがエイシアさんの力を借りることを提案したところ
「呼びましたかぁ~ 」
例によってフライングで現れるお方。
「ミーネの念話も分かるのですか?」
ミーネとエイシアさんって繋がっているのかな
「いいえ、繋がってはいないのですぅ」 『繋いだ覚えもありません』
ほぼ同時に答えが返ってきた。
微妙に仲が良いのか悪いのか、気になるけど突っ込むのは止めておこう。
「リックさんの脳内にプライバシーは無いのですぅ」
「うわぁ 言い切られたよ。心読まないって言ってたのに」
どうやら黙秘権も無いらしい、酷い話だ。
「まぁまぁ些細な事は置いておくとして、私の力が必要なのですねぇ お任せくださいなのですぅ」
些細な事で片づけられてしまった、僕のプライバシー・・・ 返してください・
『ご主人様、私はあんないい加減な精霊ではありませんのでご安心を』
『ありがとう、ミーネ。 守秘義務は守ってね』
などと馬鹿な話をしていたら、エイシアさんがマーサに声をかけている。
「でわぁ、お二人はそこで出来るだけ密着してください」
「み、み 密着ぅーーー」 マーサの声が裏返った。
「昨日の晩だって、抱き合っていたのですぅ 今更なのです」
しっかり見られていたようで、もはやプライバシーは皆無と考えよう。
「そのままですぅ 」立ったまましっかりと抱き合った僕らのすぐそばに、エイシアさんが浮かんでいる。
「仮想空間ですか?」僕がエイシアさんから魔法を教わった場所を思い出した。
「その通りですぅ。マーサさんはリックさんからの魔力供給を受けてますのでぇ、あそこで練習するのが効果的ですぅ」
そう僕たちに向かって言ったあと、エイシアさんは僕たちの顔のそばにやってくると。
「顔をもっと近づけて欲しいのですぅ」
「今でも結構近いですよ」実際に抱き合っているのでマーサの上気した顔が間近にあって、息遣いまで聞こえる。
「でもぉ届かないのですぅ」
そういえば前に仮想空間に行った時は、エイシアさんと密着した気が・・・
「良いことを思いついたぁ キスすれば密着出来てちょうど良いのですぅ」
「キ・・・キスぅ ぅぅ」マーサの顔がさらに真っ赤になった。
「頬や額は他の精霊に取られてるのですよぉ 唇は筆頭嫁として死守するのですぅ」
エイシアさん・・・また焚きつけるようなことを言う。
「あ、あたいは筆頭嫁。 うん ・・・リックぅ 」
マーサが目をしっかり閉じて顔を向けている。
女の子に恥をかかせてはいけないよね、でも最初くらい二人だけが良かったなぁ。
でも大好きな女の子と唇を重ねること、それは幸せなことで・・・
「いつまでぇ キスしてるのですかねぇ そろそろ練習したいのですぅ」
「「 え、ええっ 」」
気が付いたら目の前には等身大のエイシアさんがいて、ジト目でこちらを見つめている。
「 はぅぅぅぅ・・・」マーサは真っ赤になって座り込んでしまった。
「そんな目で見なくても、キスしろって言ったのエイシアさんじゃないですか」
プライバシー皆無だし仕方ないけどねぇ
「確かにぃいいましたけど、いつまで経っても止めないから仕方なく声を掛けたのですぅ」
エイシアさん曰く、5分以上キスしてたらしい・・・ いや、夢中になったのは否定しませんが
「さぁさぁ 時間がもったいないので始めるのですぅ」
等身大エイシアさんに驚く暇もなく、立たされるマーサ。ちゃんと説明してあげるからね
エイシアさんにジト目で再び見られたけど、気にしない~。
とりあえずはマーサにはここが魔力で創り出された仮想空間であり、魔法の練習に最適な場所であることを簡単に説明。
ちなみにここでは、エイシアさんも等身大で居られることも教えたよ。
魔法の練習自体はエイシアさんが指導してくれるので任せることに。
「じゃあ、エイシアさんよろしくね」
「お任せくださいなのですぅ」
さて、僕はミーネと相談でもしようかな。
『そういたしましょう』
相変わらず反応が早いね。
『ミーネ、相談なのだけど』
『今後の事ですね』
『うん』
僕はこの時間を利用して、今後の行動方針をある程度決めようと思ったのだ。
『じゃあ、ミーネ的には傭兵は勧めないってことか』
ミーネと色々話す中で、仕事の話になった。
『そうですね、ご主人様1人であれば傭兵はお勧めできる職業だったのですが。マーサ様という奥様が出来た今となっては別の仕事をお選びください』
ミーネの説明によれば、傭兵になってしまうと契約に縛られるため、戦争にでもなれば間違いなくマーサと離れなければ行けなくなってしまう、〈ナノマシン〉の事もあるし、マーサと長期間離れるのは無理だ。
まぁそれ以前に、可愛い奥さんと一緒に居たいしね。そうなると仕事を選ばないとなぁ。
『狩人とか農民にでもなろうかな』
『どちらもご主人様であれば問題ないと思いますが、エイシアが文句をつけてくると思います』
『え、どういうこと?』
なんで僕の仕事にエイシアさんが?思わず聞き返す
『ご主人様には、いずれエイシアから複数の嫁取りが要求されます。そのためには当然のことながら経済力が必要となりますので、先を見据えた職業展開を考えた方がよろしいかと』
『それがあったかぁ』
そうなのだ、僕には電子魔法始祖としての役割も求められているのだ。
だが電子魔法は当然ながら無名な存在、まだ魔法自体の種類も少なすぎる。
『まぁ エイシアもいきなり無茶は言い出さないと思われますが、電子魔法の知名度向上と新魔法の開発は必要ですね』
『新魔法かぁ 役に立つ魔法が良いよね。出来れば人々の生活を豊かにしてくれるような魔法がいいな』
『素晴らしい理想だと思いますが、まずはご主人様が電子魔法を使いこなしてからですね』
う、耳が痛いね。理想より、まず現実か。
『頑張って修行するよ』
『そうですね、4大精霊魔法の理を避けながら新たな魔法を紡ぎださないと、魔法自体成立しませんから当面は試行錯誤が続くと思われます』
そうなのだ、この世界の長い歴史の中で洗練されてきた4大精霊による精霊魔法。その4大精霊魔法の理とは全く別の魔法を一から組み上げる必要があり、そのイメージを持てるのは異世界の知識と電子精霊加護を持つ僕だけなのだ。
いずれはマーサも電子魔法を使えるようになるだろうが、僕が確立した魔法を使うことは出来ても、新魔法を創り出すのは僕にしかできないのだ。
『電子魔法を商売に出来ればいいのかなぁ』
『可能性はありますね』
『商売になりそうなサービスを考えて、それを電子魔法に置き換えて新魔法を考えるのもありだよね』
なんとなく思い付きだけど、面白そうだな。
『いずれにしても、生活の拠点を置く町や国を選ばないといけません』
『そうだね、商売をするにも生活の基盤を築かないといけないよなぁ』
結局はそこに戻ってくる、マーサの事もあるし獣人が暮らしやすい国に移動しないと、それが急務だな。
ナール王国が獣人に寛容という話だし、マーサのためには良さそうだよなぁ。
まぁ周辺国に拘らずに、この世界を旅してもみたい気もする。
考え出すとキリがないけど
『ミーネ、国によっても違うだろうけど定住する場合はどの程度お金とかかかるのかな、あと戸籍とかってあるの』
よく考えたらそもそもそんなに簡単に移住とかって出来るのか心配になってきた。
『そうですね、こればかりは国によって制度も違いますし、場所によって家や土地の値段もまちまちですから一概に言えませんが』
そう前置きしてミーネは話してくれた
一般的にその国の中心都市は当然地価も高く、王家や貴族の邸宅、富豪や大商人の屋敷などがあるため、一般庶民では買うことが困難
郊外もしくは中心部では貸家が一般的とのこと。
また、一部の法王国や帝国では一定以上の税納付があり尚且つ信用が無ければ土地や家屋の所有が認められない国も存在する。
さらに、農村部等では領主や地主が中心となり土地を所有し、農民はそこに帰属する小作農制度が根付いるところがほとんどである。
開拓団による新規開拓も存在するものの、新興貴族や引退した騎士、傭兵などが資金を提供しているため働き手は小作農もしくは奴隷である。
実際に奴隷制度はこの世界の多くの国で採用されている。
労働力や下級兵士としての奴隷は必要なものとして、各国の制度に取り込まれている。
奴隷の多くは農村部や低所得者の子供が、借金の担保としてされ返却不可能となった場合に奴隷落ちするするケースや。
犯罪者や戦争捕虜が奴隷落ちするケースがある。これらはある程度制度に乗った奴隷の供給であるが、一部には人さらいや人身売買による非合法な奴隷供給も存在する、これも事実である。
基本的に奴隷は隷属魔法と呼ばれる誓約魔法の一種で、所有者に逆らえないようになっているため労働力や兵士としては効率が良いとされている。
危険な状況や最前線でも命令に素直に従う奴隷は重宝されている。
ただし隷属魔法を使える魔法師が少ないため、奴隷は意外と高価な存在でもある。
『話が途中でそれてしまい申し訳ありません』
ミーネが途中から奴隷の話になってしまったことを詫びてくる。
『いや、聞きたかったことの一つだし構わないよ。ところで誓約魔法っていうのは精霊魔法とは違うものなの?』
『はい、精霊魔法は4大元素の力を精霊を通して使役する魔法です。対して誓約魔法は精霊に頼らない魔法であり、人間の中でも人種しか使えない魔法です』
『ようするに無系統魔法ってこと』
僕はラノベの知識で聞いてみた
『4大精霊の系統外という意味であれば、無系統という言葉は的確な表現ですね。ランドヴェールではそのような表現はしておりませんが、考え方としては近いと思います』
ようするに、人種が必要に応じて作りあげた魔法らしい。契約を守らせるために強制力を持った制御魔法ってとこらしい。実際に隷属魔法により奴隷化された場合、主人の命令は絶対であり自分の意志は優先度が低下する、人権なんてそこには欠片もないけれどこの世界では非難されることは無い。
そして僕は気が付いた、何故ミーネが途中から奴隷の話に切り替えたのか。
それは恐らく僕のことを考えてだ。僕はまだこの世界のことを知らなさすぎる、この世界では日本と違い弱肉強食の原理が人間社会にも強く働いてる。僕が世間知らずのため騙される、調子に乗って失敗する、知らないうちに犯罪に手を染める巻き込まれる、そして失敗の結果は自分だけでなくマーサを奴隷に落とすことにも繋がりかねない。
この世界は甘くない、力を持たない者、運が悪い奴、そして世間知らず。
剣と魔法の世界に招かれた、両親は健在、可愛い嫁も貰った、魔法も使えるようになった。正直浮かれていたのだろう、でも現実はそんなに甘くない。
もう一人じゃないからこそ、護らなければいけない存在があるからこそ、慎重にならなければ。
『ミーネ ありがとう』
『いいえ、ご主人様ならいずれ気が付くこと。差し出がましい真似をしました。申し訳ありません』
ミーネはそう言ってくれるけれど、気が付く前に失敗していた可能性だってある。
この世界で奴隷に落ちた場合、その境遇から抜け出すのは相当に困難だろう。
少なくともマーサをそんな目に合わせるわけにはいかない。
『どうかこれからもよろしくお願いする。正直まだこの世界について知らないことも多い、選択を間違える可能性もある。そんな時は叱り飛ばしてでも諫めてくれ』
『ご主人様を叱り飛ばすことは出来ませんが、全身全霊にて制止申し上げることはいたします』
『ありがとう、ミーネ。僕は一人っ子だけど、もしお姉さんが居てくれたとしたらミーネみたいな人がいいな。優しくて見守ってくれるしっかり者だし』
僕は素直な気持ちでミーネに感謝を伝えたつもりだったのだけど。
『・・・ アネ 姉 義姉 おねえちゃん・・・ 』
『ミーネ おーい ミーネぇ ・・・』
変なこと言ってしまったかなぁ。ミーネの返事が全然ないよ。
『 ・・・ イイ ・・・ はっ!! すすすすす スミマセヌ』
『 ミーネ、良かったぁ 返事がないから心配したよ。変な事言ってしまってごめんね 』
『そそそんな こぉと 全然ありませぬよぉ な ななななんでしたら、 こん 今後ぉですねぇ お、おねぇ・・・ 』
『 ん? 』 ミーネの反応がおかしいなぁ しかも語尾が消えてしまって聞き取れなかったよ
『ミーネ もう一回聞かせて、なんか最後のほうが聞こえなかったよ』
『 あ、あぅぅ ( やっぱり 無理無理無理です ごご主人様にお姉ちゃんって呼んで良いですよなんてぇ 言えなーい) 』
なんかミーネがおかしいなぁ?
『大丈夫かいミーネ』
『す・・・少し、少しシステム不調かもしれません。しばらくお待ちください 』
『わかったよ 無理しすぎないでね』
ミーネは小さな声で返事を返してきた後メンテナンスに入ったみたい。
無理させすぎたかなぁ。気を付けないとね。
「りっくぅ~ 見てみてぇ あたい魔法使えるよーーーーー 」
マーサの声が聞こえ、手を振りながら近づいてくる。
今回の仮想空間は前回よりかなり大きめ、僕はマーサの練習の邪魔にならないように端っこで椅子に腰かけてミーネと話していたのだ。
嬉しそうに僕の目の前で魔法を見せるマーサ。
大事な僕の奥さんを守る決意を胸に深く刻んだ。
こんばんは、本日もお読みいただきありがとうございます。




