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嫁と姑

本日分の投稿です。本日から2日間は不在のため、予約投稿になっております。母親登場で早速色々あります。

「あなたが~ リックちゃんのお嫁さんに~ なりたいって娘ねぇ    」


どうみても、透けているうちの母親がマーサをじーっくり足の先から頭のてっぺんまで眺めている、いや凝視している。


ちなみに、うちの母親は死んだわけでも幽霊になったわけでもないことは、先ほど理解できました。

まぁ混沌カオス状態は、小一時間続きましたけどねぇ。


何で母親が透けているかというと。うちの母親は神様から僕が嫁を貰うという話を聞いて、こちらにすっ飛んで来ようとしたのだけれど、女王への戴冠を控えた状態でそう簡単に旅するわけにもいかず。

さらに、転移魔法は転移点の設定をしていない場所のため、使用できなかったので神様に頼んで擬似的な対面(立体映像と遠隔通信みたいな魔法らしいです)を果たしている状態。

立体映像なので透けて見えるようです。びっくりさせないで欲しいです。


「はい、 あ、あた じゃなくて 私がマーサです。 始めましてお母様 」


カチコチに緊張しているマーサが、たどたどしく答えている。

ちなみに僕は何度も口を挟もうとして、その度にルーちゃんに睨まれ、しまいには魔法で口がきけず身動きの取れない状態にされてしまった。

ひどいよね・・・


あと、父ちゃんは別室で映像だけ見える状態で待機(どうも軟禁されている?)とのこと。

男は口出し無用ってことらしい。


「 ま~だ~ あなたに お母さま~なんて よばれる覚えは~ ないの~」


「 え、 あ・・・ すみません  あ、あたい 馬鹿だから」


あぁ だめだマーサが泣き出しそうだ・・・


「 だいたい~ あなたに リックちゃんの~ お嫁さんなんて務まるのかしら~   お料理とか~できるのかしら~ それと~ 赤ちゃんを~きちんと育てられる~?  」


「あ、 あたいは・・・ 馬鹿だけど リックに助けて貰ったこの命を全部捧げます。リックのためなら何でもする、馬鹿だしヤキモチ焼きだけど他のお嫁さんとも仲良くするし、赤ちゃんは沢山産んでちゃんと育てるよ。でも・・・でも・・・一つだけ許してください」


「何を~ 許すのかしら~」


「あたいは、ただの獣人だから・・・リックより、旦那様よりずっと先に死んじまうだろ、だから筆頭嫁はお母さんが探してくれ、  いや、  ください 。お願いするですよ」


それだけ言い切ると、堪えていた涙がマーサの目から溢れてきた。


その涙を見た瞬間、僕の中の何かがぶち切れ、魔法の束縛を引きちぎることができた。


「もういいだろう、母さん。 悪いけど今はルーちゃんなんて呼ばないよ。 マーサを認めないなら僕はもう親子の縁を切るよ。いい加減にしてくれ」


マーサを抱き寄せると、僕は母親に向かって言い放った。


「あら あら~ ひどい~ リックちゃん」 うちの母親は明らかに拗ねたような顔をしているが、今回ばかりは許すことは出来ない。


「違う、違うんだよ・・・ リック 違う」


僕の腕の中でマーサがイヤイヤをするように訴える


「え、 何が違うの 」


「お母さんを責めたらだめ、違うんだよ・・・」


マーサはうちの母親を庇っている? あんなに嫌なことを言われたのに?


「お母さんは・・・ お母さんの目がとっても辛そうだった 本気で言っているんじゃないんだよ   途中で気が付いたんだよ・・・お母さんは あたいの覚悟を確かめたんでしょ 」


「そんなこと~ ないのよ~ まぁ~ 試したのは、事実だけどぉ~ 」


その時になって僕はやっと気が付いた、ルーちゃんが左手の指にその長い髪の毛の先を巻きつけていることに。最初から何度も何度も、そうあれは嘘をついているときの癖、子供の頃から何度も見てきた癖。嘘をつくのが下手な母親のサイン。


「こんど~ きちんと二人で~挨拶に来れば許してあげる~ 約束よ~ 」 


「あぁ 分かったよルーちゃん」 僕はルーちゃんの左手の指が、髪を巻き付けるの止めたこと見届けてから答えた。もう嘘はついていない、不器用な母親・・・。


実は後で父ちゃんとも話せたのだけれど、神様から最初に話を聞いた時に無条件で喜んでいたのはルーちゃんらしい。父ちゃんは僕の仕事とか、加護の事とか色々心配してたらしいのだけれども、ルーちゃんは僕が決めたことだから、大丈夫と言い切ったらしい。

ただ、マーサのことを何も知らないので確かめたかったのだって。あとは僕を取られたのが悔しいのも無いとは言えないみたい、まぁ嫁と姑の確執って男には理解できない世界だよねきっと。










「まぁりっ君、ルーナリエもそんなに悪気があった訳ではないし、君を予告なしに取られたみたいで寂しかったのだと思うから許してあげてよ」


戸鬼塚さんというか、神様が母親の姿が消えてしばらくしてから話しかけてきた。


「むぅ、 阿佐ヶ谷のオジさんにそう言われたら・・・まぁ仕方ないですよね、 って  あぁぁぁ 神様につい馴れ馴れしく、すみません」


つい子供の頃からの癖で、阿佐ヶ谷のオジさんとか言ってしまった、謝っても遅いかな うわぁ・・・


「やめようやぁ、りっ君。 オジさんはオジさんで良いの、神様なのを黙ってたオジさんが悪いんだから メンゴメンゴ 」


いくら子供の頃でも、神様だよ~とか言われてもね、しかし メンゴメンゴって・・・ 今時誰も言わない気が


「トォーニ様が、そう言われるのでしたら」


「だーめだよぉ トォーニ様とかやめてぇ いつも通り呼んでチョーーーだいっ 」


ダメだ、どうしても神様じゃなくて 昭和引きずってる阿佐ヶ谷のオジさんだ。

まぁ当の神様も良いと言ってるし、オフィシャルな場所でなければ問題ないかな。


「うん、わかったよオジさん」


「そーそー、そう来なくっちゃ 食っちゃ寝 食っちゃ寝 なんてねー 」


神様おやじギャグ炸裂だよぉ・・・   あー、 色々残念だ。  

しかもよく見たら精霊の皆さんも冷ややかな目で見てるのですけど。


「全くですな、善哉善哉よきかなよきかな」 でも・・・ 土精霊の長、アレト様だけは滅茶苦茶同意してる~






「ところで、マーサちゃん」


「 ひゃ、  ひゃいっ  」


いきなり自分の名前が神様の口から出てきて、直立不動のマーサ。

加護は持たされるし、精霊の偉い人は現れるし、エルフの女王に嫁いびり?されるし

もう、マーサのHPをこれ以上削らないで欲しいなぁ。


「オジさん、どうかお手柔らかにしてあげて」


神様が何を話すのか分からないけど、先手を打ってあげないとマーサがストレスで倒れちゃうかも。


「りっ君、お嫁さんを守らなければいけない君の気持はわかるけど、ごめんねこう見えても管理神なのでそれなりに忙しいんだよ、今回話しておかないと次は何時になるか分からないからゴメンよ」


さすがに神様にそこまで言われたら、黙っているしかないよね。


「あたひ、ならだいじょうびゅ」


いやいや、マーサさん全然大丈夫そうじゃありませんよ。


せめて少しでも落ち着くように、マーサのそばで震えてる手を握ってあげた。





「少しは落ち着いたみたいだから、話を続けようかな」


神様はマーサの震えが少し治まったのを見てから話し始めてくれた。


「マーサちゃんが今一番気にしてるのは、りっ君より自分の寿命が短いってことで合ってるかな」


「・・・   はぃ・・・」


マーサの消え入りそうな返事がすべてを物語っている。


先天性の病は電子魔法で消え去ったけれど、元々獣人の寿命は人種ひとしゅの中でも短い。

そして僕はハーフエルフ、これはどうしようもない事実

だから、マーサはルーちゃんに対しても筆頭嫁はエルフにして欲しいと願ったのだろう。自分よりはるかに長く生きることが出来るエルフ族ならそれに相応しいと。


「長く生きるってことはさぁ、それだけ大変だよ。周囲は年老いて黄泉よみに旅立つのに、自分はずっと見送るだけ。孤独だよ、死なないって。」


そうだよね、神様はずっと一人でこの世界を管理されているのだ、誰より長く生きることの苦しみも悲しみも知っている。


「それでも・・・あたいは、あたいは馬鹿だからリックと一緒に居たいです リックが居なかったら、あたいはとっくに死んでます。狼に喰われるか、病気で倒れるか。でも、リックが助けてくれた、あたいと一緒に居てくれるって言ったから・・・あたいは、あたいは」


多分理不尽なことを言っているのはマーサも分かっている。でも言わずには居られないのだとも思う。

長く生きることが幸せなのか不幸なのか、多分そんなことはどうでもいいのだ。


「あたいは、リックに命を救ってもらったんです、幸せももらった、だけど結局先に死んじまうんだ。先に歳も取っちまうんだよ、皺だらけになって結局迷惑を掛けちまうんだ。」


僕がただの人族だったら問題は無かったのだと思う、獣人のマーサと似たようなペースで年を取り皺も増えてゆく。

でも現実はそうじゃない。日本に居られなくなったのと同じ理由がここでも立ちはだかる。


「でもぉ マーサさんは~ 始祖筆頭嫁の加護を受け取っていますぅ たくさん子供を産んでもらうためにも~ しっかりして欲しいのですぅ」


「エイシアさん、今その話されても マーサは混乱するだけです」


エイシアさんの言う通り、マーサは加護を筆頭嫁として受けてしまっているけれど、今の状態でそれを言い出さなくても。


「きちんと話しておかないとぉ 困るのですぅ。マーサさんにはぁ元気な赤ちゃんをぉ いっぱーい産んでもらうのですぅ。予定では~ 最低でも300人」


「「  えええええ~~~   さ  さんびゃ 300ぅ」」


驚きのあまり、マーサと僕の声がハモった


「息がぁ、ピッタリですぅ。これならもっと産めそうですぅ」


「そうだねぇ、これなら安心だ」


うんうんとか、何で神様まで納得してるのですか


確かにマーサは獣人だし、一度に三つ子とか普通らしいけど。300って、殺す気か!!


「何年かかると思っているんですかぁ ふざけるのもいい加減に・・・ 」


思いっきり叫んでから、気が、  ついた?


まさかと思うけど・・・




「マーサちゃんの生い立ちや苦労は、神として把握しています。申し訳ないのだけれど、神として一人一人の不幸に手を差し伸べることは出来ないから見ていただけ。この世界に不幸な人は星の数ほどいて、若くして死んでしまう子もいれば、生きながら地獄を見ている子もいる」


神様はため息をつきながら悲痛な顔で話し続ける。


「マーサちゃんは必死に生き延びて、決して諦めなかった。そしてりっ君と逢い、彼のためなら自分が犠牲になってもいいと思い行動もした。中々出来る事じゃないことを実際にやってのけた。」


神様はとても真剣な顔でマーサを見つめている。

マーサも、そんな神様の言葉を聞き逃すまいと一生懸命に前を向く。


沈黙を破ったのはエイシアさんの声


「トォーニ様 どうか私の加護を受けし、この者に祝福をお与えください。その名はマーサ 獣人にして兎族。電子魔法をその身に宿し、健やかなりし者。我が電子精霊族始祖リックの筆頭嫁です」


「電子精霊が長、エイシアの願いは届いた。 マーサよ我が祝福を与えよう、受け入れるがよい」


神様がそう言い終わると、マーサの体を優しい光が包む。温かみのある淡い光。


「聞け、ランドヴェール管理神トォーニである。たった今、電子精霊の長であるエイシアの願いにより、電子精霊族始祖リックの筆頭嫁マーサに祝福を与えた。これは私の意思である」


神様の言葉が終ると、マーサの体を包むように輝いていた淡く温かい光は消えてゆき、気が付くと神様の姿も無かった。


「 りっ君 またなぁ~  チャオ~ 」


どこからか声が聞こえた、帰り際に阿佐ヶ谷のオジさんがいつも言っていく言葉と同じだった。








「では、我らも引き上げるとしよう。その娘には、お主が神の御言葉を伝えて安心させればよい」


神様の祝福を受け、穏やかな顔で眠りについているマーサを前に土精霊の長アレト様が仰った。


「人の子、リックよ  まぁ期待しているよ 適当にがんばれ~」


最後までとても気だるそうに話すのは、風の精霊エスティ様   「あぁぁ 働き過ぎた 寝る」  そこは 色々残念です・・・


「楽しかったわぁ そこの若いだけが取り柄の精霊に飽きたら声を掛けなさい。火の加護の熱さを教えてあげるから」


エイシアさんの鋭い視線を軽く受け流して、火精霊次席レイヤ様が手をひらひらと振ってくれた。


「・・・ 必要なら   念じて欲しい   駆けつける  から。  あなた達の  子供も  早くみたい」


『  でぃ ディネア 様が こんなに長くお話しされるなんて・・・ 』 ミーネがまた驚いている。


ちなみに水精霊の最古参であるディネア様が、単語では無くて話をしたのが奇跡に近いらしい。

この事が後々噂になって、水精霊や水精霊加護持ちの間で僕らの名前が妙に有名になったらしいのだけど、それはまた別のお話。





「エイシアさん」 来賓がお帰りになり、静まり返った部屋の中で僕はエイシアさんに話しかけた。


「リックさんの想像通りですぅ マーサさんは御父上と同じ立場になったのですぅ」


父ちゃんと同じ立場、それはエルフであるルーちゃんの命が続く限り共に生きるということで

マーサも神様の祝福を授かり、ハーフエルフである僕と同じ時間を共に生きることになった。


「彼女がそれを望み、神が与えたのです」真剣な口調でエイシアさんが答えた。


「母や父は魔王を押し返した勇者であると聞いています、だから神が加護を与えたとも、でも僕は・・・何も     もちろんマーサと共に生きていけるのは嬉しいです、でも結局僕のために・・・」


何故、僕なのか。理解できないことが多すぎる、それにマーサの自由を僕は奪ってしまったのではないのか。


「マーサさんとのことわぁ お二人で話して下さいなぁ。ともかくぅ ですねぇ 早くぅたくさん子供を作って欲しいのですぅ。あとぉ神様のお考えを~ 我々が悩んでも仕方ないのですぅ。 強いていえば、リックさんへの先行投資だとぉ思うのですぅ」


「先行投資?」 エイシアさんから出たその言葉は僕の理解を超えていた。


「いずれきっと理解できる日が来るのですぅ。時間はたっぷりありますからぁ~ 今は目の前のことを片付けるのですぅ」


そうだった、僕だけでなくマーサの前にも時間はたっぷりあるのだ。

悩んでいても何も始まらない、いま僕の腕の中にいる奥さんとして共に生きていく女の子を守っていくことが僕の使命だ。

考えるのは動きながら、走りながらでも出来る。それに・・・


「まずは、仕事と住処だなぁ」


僕は現実的なことを思い出したのだった。




本日もお読みいただき、ありがとうございます。ブックマークが少しずつ増えてきまして本当に嬉しいかぎりでございます。明日も予約投稿の予定でございます。

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