一緒 ずっと一緒
本日分の投稿です。いつもより長めです、よろしくお願いします。
「・・・ ぅん 聞く・・・」
しばらくの間泣き続けた後、やっとマーサは話を聞ける状態になった。
「 じゃあなるべく分かりやすく説明するけど、とても大事な話だから分からないことはすぐに聞いていいからね」
「あたい、馬鹿だけど・・・大丈夫かな」
マーサは自分が字も読めないことに、引け目を感じているようだ。
「マーサは馬鹿なんかじゃないし、読み書きや計算は僕が教えてあげる。これから色々覚えていけば良いよ」
教育の機会を奪われて、幼いころから労働を余儀なくされたマーサは知識が足りないだけで決して馬鹿ではない。
薬草に関する知識や、街とその周辺しか移動したことが無いにも関わらず大人たちから聞いたり耳にした情報から周辺の村や街道の状況も的確に把握していた。
このこと一つとっても決して頭の悪い子ではない。
「リックが教えてくれるなら、あたい頑張って覚えるよ」
嬉しそうに答えてくれるマーサ。
また一つこの子の役に立てると思うととても嬉しい気持ちになる、だけどその前に話すべきことを話さないといけない。
「よく、聞いてほしい。まずはマーサの病気の事」
「うん 」 病気と聞いてマーサの顔が強張ってしまう。
「大丈夫、これは気休めでも嘘でもなくて、マーサの病気はもう心配しなくていい。病気がマーサの体に有ったのは事実だけど、もうその病気で死んだりすることはないよ」
「 ・・・ 本当・・・なの、 あたい・・・生きてて いいの・・・」
「あぁ、生きていてくれないと困るよ、もう病気は治ってるし それに耳も治ってるでしょ」
「 ・・・ え 耳って・・・ あ あぁぁぁぁ・・・・ 」
病気が治って、生きていられると思い泣きそうになっていたマーサは、自分の失われた耳がそこにあることに僕の言葉で初めて気が付いたようだ。
二度と戻ることがないはずの右の耳、失ったはずの耳が間違いなくそこにある手触り。動く、音もきちんと聞こえる、忘れかけていた感覚が戻ってきた。
あまりの出来事に戸惑ってしまってさえいるようだ。
「・・・ なんで、 えぇぇ どうして これ どうして? やっぱり夢なのかな」
「 〈投影〉 」 僕は電子魔法で空間にスクリーンを投影し反射率を調整、鏡面化してマーサの目の前に移動した。
「 マーサ 目の前を見てごらん 」
マーサは鏡に映った自分の姿を、その長く自慢だった耳、再びマーサの元に帰ってきた右の耳をじっと見つめた。
「 こんなことって、 これ 本当に あたいの、 耳 」
鏡に映る耳にそっと手を伸ばし、確かめるように触れ、根元を確認するように鏡に映してみたり横から眺めたりしている。
ひとしきり確認にしたあと、鏡越しに眺めている僕の視線にやっと気が付いたようで、くるりと振り返ったかと思うと。
「 うあぁぁぁぁん ありがと」
僕に泣きながら抱き着いてくると、また泣きはじめてしまうマーサだった。
病気が治ったことは正直なところ、まだ実感も無いだろうけれど耳に関しては余りに衝撃的だったのだと思う。
また、しばらく泣き止むこともないかもしれないし、落ち着くまでこのまま抱きしめていよう。
正直なところ、僕も耳まで再生されるとは思ってもいなかった。
あの時、電子魔法の〈ナノマシン〉を行使して、大量の魔力が一気に持っていかれたこと、ミーネに間違っても強制中断とかしないように指示をした辺りまでははっきり覚えているのだけど。
『ご指示がありましたので、ギリギリ迄は我慢しなければと思いましたが、本当にギリギリでした。お願いですから二度とあのような無茶や指示は止めてください』
ミーネが急に話しかけてきた。
『ごめんよ、でも必要なら今後も無茶はするよ。マーサは僕のために死のうとすらした、彼女を守るためなら僕は無茶でも無理でも我を通すよ』
兎の獣人にとって、猛獣の前に自らの身を投げ出すことがどれほどの恐怖なのか、だがマーサはその小さな体で本能的な恐怖をも超越して見せたのだ。
『・・・ 分かりました。では私は支援システムとして自身の強化を提言いたします』
『ん? ミーネ自身の強化ということ?』
突然のミーネの提案に戸惑っていると
『はい、私自身今回の件で力量不足を痛感いたしました。ご主人様の支援システムとしても電子魔法の補助としてもです。まずはご主人様の熟練度を上げていただくのが先決ですが、それとともに私の能力と魔力も必要領域も含めて拡大する許可をいただきたいのです」
『ミーネが無理のない範囲で強化してもらう分には僕はむしろ歓迎だよ』
許可ね、相変わらずのミーネの律義さには感心するけれど、まぁ僕の魔力を使っている遠慮もあるのかもしれないな。
『ありがとうございます、ではしばらく調整等でシステムを停止いたします、ご容赦ください』
どうやらミーネが休止状態に入ったらしい。
さて、マーサは・・・ もう少し落ち着くまで待つとして
エイシアさんと話をしておこうかな。もう酔いが覚めていると良いのだけれど・・・
『 はーい お呼びですかぁ~ 』
『 まだ呼んでませんけど、ちょうど良かった。このまま念話で話したいことがあるので聞いてください』
明らかに心を読まれているけれど、そこは放置。まだ酔いが残っているようでハイテンションだけど多分酔いも覚めるだろう、話を聞けば・・・
『聞きますよぉ リックさんの話ならいくらでも聞きますぅ。唯一の電子精霊加護持ちなのですからぁ』
『 エイシアさんの夢は加護持ちを増やすことですよねぇ』
以前に聞いたエイシアさんの夢を持ち出してみた。
『もちろんですぅ。そのためにもぉ リックさんにきちんとしたお嫁さんを沢山貰っていただき、生まれてくる子供達に電子精霊の祝福を贈るとこから始めるのですぅ。間違っても病持ちの獣人はダメなのですぅ』
言いたいことは山ほどあるが、ここは一旦我慢。精霊と人間の価値観の違いで喧嘩しても何も始まらない。
それに今から話すことを聞けば、間違いなくエイシアさんの態度は180度変わるはず。
『エイシアさん、その件ですけど。僕がこの世界の常識に従い、自らの財力や能力に応じて複数のお嫁さんを貰うことは否定しません』
『うん うんなのですぅ』エイシアさんは嬉しそうに頷いている。
『でも、お嫁さんになる人は当然他の精霊加護の持ち主ですよね』
『もちろんそうですぅ、でもぉ精霊の格は私のほうがその辺りの一般精霊よりはるかに上ですから、子供の加護選びについては問題ないですぅ』
異なる加護持ち同士による婚姻の場合、生まれた子供に対する加護は両親の守護精霊の格がモノをいうことが多いという。
その点でエイシアさんは始まりの精霊であり、一般精霊より格上なのは間違いがない。
『じゃあもし、加護を持ってない人をお嫁さんに出来るとしたらどうですか』
『ダメですぅ、いくらリックさんのお願いでも、あの加護無しウサギは無理なのです それにあのウサギは長く生きれないのです』
エイシアさんは当然拒否するよね
『ちゃんと話を最後まで聞いてください。せっかちエイシアさん』
『 うぐぅ・・・ なのです』
小さな仕返しに成功した僕は話を続けてゆく
『マーサの病気は先ほどの電子魔法で完治しています。〈ナノマシン〉とはそういう電子魔法です、何よりの証拠に彼女の耳も再生されています』
まぁ耳は完全に予想外の産物なのと、あの魔法にはミーネに指摘されている点があるのだけど割愛してしまおう。
『・・・ 耳だけでなく・・・ 確かにぃ・・・』
エイシアさんの呟きが断片的に聞こえてくる、どうやら精霊の持つ能力で色々確認しているようだ。
さて、ここからがミーネから教わった最大のポイントだ
『エイシアさんもご存じのとおり、マーサは加護を持っていません。でも、加護無しの最大の理由であった先天性の病は僕の電子魔法で完治しました(若干誇張有り)。今マーサは健康体であるにも関わらず加護を持たない稀有な存在です』
『 ・・・ そ、それは確かですぅ・・・』
『しかも マーサは獣人でありながら魔力を身体強化ではなく、病気に対抗して体を維持するために使用していました。にもかかわらず、一般的な獣人と比較しても若干能力的には劣るだけの身体能力を持っていた、これは彼女が魔力に頼らずその能力を獲得していたという事実であり、病変が完治した今となっては彼女の魔力は身体強化に移行しはじめています(ほぼ事実)。これは彼女の能力が高くなることにつながります。彼女はとても稀有な加護無しなんですよ』
『・・・ 』エイシアさんが完全に無言になっている。
そろそろ止めにするか
『しかも、彼女の体内には僕の電子魔法によるナノマシンがまだ活動していて僕の魔力供給によりケガや病気から今後も守られます(推測あり)』
僕はここで一息入れて、ミーネから聞いた最も効果的な一言を放とうとしたのだが
「だめですぅぅぅ あのウサ・・・ いえ 私の目の前にいる兎族の獣人である、マーサさんは私の保護下にあることを宣言しますぅ」
突然実体化したエイシアさんは、マーサさんを指さし声高らかに宣言した。
「 ちっ ・・・」 「 ほらぁ 」 「遅かった」
決して気のせいではなく、何もいないはずの空間のあちらこちらから、舌打ちの音や無念の叫びが聞こえてきた。
「 なに??? 何が起きたの」
急な大声と、不思議な違和感にマーサが驚いて身を起こした。
「マーサさん、今までの態度は謝りますぅ。ごめんなさい」
マーサの眼前で、明らかに態度が正反対になったエイシアさんが深々と頭を下げている。
「え、えぇぇ うん 別にいいよ」
良く分からないながらも、エイシアが電子精霊と呼ばれる精霊であり、精霊の気まぐれさや加護無しに対する態度は常識としてマーサも聞き及んでいたため、突如変化した正反対の態度に驚きはしたが、そういうものだとして謝罪を受け入れた。
「謝罪を受け入れていただきとても嬉しいですぅ。先ほどの宣言は聞こえたと思いますけどぉマーサさん貴方はぁ現在私電子精霊であるエイシアの保護下にありますぅ。」
「あ、 ・・・ はい」
『現在、周辺に4大精霊が集結しつつあります。しかも相当な高位の精霊です』
急にミーネが話しかけてきた、バージョンアップも終わったようだ。
『それが、さっきの』
『はい、近辺に存在した下位の4大精霊がそれぞれの高位精霊を呼び集めました』
何もいないはずの空間には、高位精霊が存在しているようだ。
ミーネが僕に教えてくれたエイシアさんに最も効果的な一言。切り札として告げるはずだった言葉。
「 他の精霊が、マーサさんを放置しておくと思いますか 」
僕とミーネは牽制で告げるつもりだったのだが、どうやら本気で他の精霊が狙っていたようだ。
しかしミーネに聞いていた通り、通常は精霊自らが望まない限りその姿を実体化しないらしい。精霊が集まりつつあるらしいのだが、その姿は一向に見えない。
まぁエイシアさんは相当自己顕示欲が強いタイプなのかな。
その間もエイシアさんはマーサとの話を続けていた。
「 私はマーサさんに対して精霊加護を与えます、貴方は受け入れますか 」
「え、 えっぇぇぇ あたいにかぃ 」
「そうですぅ 私の無礼な態度は何度でも気が済むまで謝りますぅ。 今の貴方はリックさんと並んで私にとって重要な人なのですぅ」
「リックのためになるの?」
マーサにとって僕のためになることが重要なのだという、なんか嬉しいやら恥ずかしいやらだよね。
「もちろんですぅ、マーサさんには電子精霊加護を持っていただいてぇ たくさん子供を産んでほしいのですぅ」
エイシアさんは僕らの子供たちに、電子精霊加護を与える夢を見ているようで目をキラキラさせているし、マーサはマーサでいきなり出てきた子供を産むという言葉に目を白黒させている
「 こ、 こ 子供ぉ え、えぇぇぇ 誰が・・ リックの子 あ、あたいがぁ 産むぅ 」
「そうですぅ、出来ればぁ毎年ぃ産んでくださーい 双子とか三つ子も歓迎ですぅ 獣人はぁ沢山産めるから あぁぁぁぁぁ きゃーーー 素敵ぃぃぃ」
あかん、二人して何か訳が分からなくなってきているし。
おーい戻ってきてぇ
しばらくして、やっと二人が現実に帰ってきてくれたので話を再開 やれやれ
「ご、ごごごめんねリック。 もうもうだいじゅううぶ(大丈夫)」
いや、マーサはまだ大丈夫ではないかもしれない
「取り乱してしまったのえすぅ もうらいりょうぶなのえすぅ」
こっちもか・・・
「 とにかくぅ マーサさんにはぁ大事な使命が出来たのでぇ加護を受けて欲しいのです。いえ、受けるべきなのですぅ」
「 あ、あたひが 加護持ちにぃなっ なってもいいのございますですか」
口調が変ですマーサさん
しばらくグダグダのやり取りが続いた後、マーサがこっちを向いて真剣な顔で聞いてきた。
「リックはあたいが、電子精霊の加護持ちになったら嬉しいかなぁぁ・・・」
語尾が消え入りそうな声になってしまっている。まだ自信がないのかもしれない。
「なって欲しい、というか僕が望んだことでもあるよ」
「リック・・・嬉しいよぉ あたい嬉しい」
また泣き出しそうなマーサに、どうしても伝えなければいけないことがある。
「マーサ。聞いてほしい」
「うん 」
真剣な僕の表情に気が付いたマーサもしっかりとこちらを見てくれる。
「マーサの病気は僕の電子魔法で完治している。だけど一つだけ問題がある。これは僕がまだ未熟だったせいで申し訳ないことなのだけれど、マーサの体を治した魔法がまだ君の体の中に存在していて僕からの魔力供給が必要な状態が継続しているんだ。」
僕はマーサが理解しやすいように、なるべく分かりやすくゆっくり伝えてゆく。
「もちろん普段は全く問題ないし、僕の魔力供給が継続である限り新たな病気もに苦しむこともないし、ケガも直してくれる。一見いいことづくめな気がするかもしれないけれど、マーサはずっと僕と一緒に居なければならない。もちろん四六時中一緒の必要はないらしいけれど、手を繋ぐとかの物理的接触がない状態が10日程度で体に悪影響が出始める可能性がある」
これって、事実上マーサの未来を僕が決めてしまったに等しいのだよね。
僕の魔法が未熟なせいで・・・
だけどマーサから返ってきた答えは
「え、? あたい そのつもりだよ、リックとずっと一緒にいたいよ。子供も欲しいし、さっきは急に言われたからびっくりしただけで、何人でも産むよ。ちゃんと育てるよ。もちろん、他の奥さんとも仲良くできるし面倒も見るよ」
マーサは何を当然のことと言った感じで聞いてきたあと、急に不安そうに言葉を重ねてくる。
「 それとも、やっぱりあたいじゃ無理なのかい 最初の嫁はやっぱりエルフとかの方がいい? それならあたい2番目でも3番目でもいいからさぁ 嫁にしておくれよぉ ・・・」
僕の目の前で不安に駆られて、また泣きそうになるマーサを思わず抱き寄せてしまう。
「 ふぇ・・・ 」
一瞬固まった後、その身を委ねてくるマーサ
「ごめんね、マーサの未来を勝手に僕が決めた気がしてて、でも余計に不安にさせてごめん。 マーサが良い、僕のお嫁さんになって欲しい」
「 あたいもそうなりたい、あたいもリックがいいよぉ リックと一緒にいるぅ 」
泣き虫マーサはまた泣き出してしまった。
僕は泣き虫な婚約者を抱きしめる腕に想いを込めて、この手を離さないと心に誓った。
「どうやら話は決まったようですからぁ、まずはマーサさんに加護を与えるのですぅ」
静かに見守っていてくれていたエイシアさんは、頃合いを見て声をかけてきた。
「 うん あたい加護を受けるよ 」
「よろしいのですぅ」
「ちっ・・・」 「止む無しである」また、あちらこちらから声が聞こえてくる。
エイシアさんが大きく深呼吸すると、声高らかに歌い始める。
「 ~ ♪ ~ 」
相変わらず言葉は理解できないけど、澄んだ歌声と力を感じる歌が辺り一帯に響く。
そして僕の時と同じようにマーサの周りをゆっくりと、浮かんだまま回り始めた。
「 ~ ♪♪ ・・・ 」
やがて歌が途切れ、一呼吸おいてから。エイシアさんが宣言する。
「この世界の管理神であるトォーニ様の名の下、電子精霊たる私エイシアは
兎族の獣人にして、トオッカのマーサ。類稀なる美しい耳を持ち、加護を持たない身でありながら己が力のみで成人を迎えた理を超えた者。
我が電子精霊の魔法始祖にしてリックの名を持つ男が愛したこの者に、
我が加護を与えます。同時にこの加護は、始祖筆頭嫁に与える加護であることをここに宣言します」
彼女がそういい終わると同時に、あの時と同じ銀色の光がマーサの体を覆いつくした。
眩しい光だが、優しい光であり温かみがある光だった。
光に包まれたまま、穏やかな顔で眠るマーサ
「リックさん、マーサさんがぁ目を覚ますまで暫くお待ちくださいなのですぅ」
エイシアさんがほっと一安心した様子で話しかけてきた。加護付与の儀式は終わったようだ。
と思ったら・・・
「さてぇ その間にぃ もう一つやることがあるのですぅ」
何だろう、エイシアさんのスイッチが入ったようです。
いきなり、空中でストレッチを始めたのですが・・・意味あるのか?
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