母
本日も投稿でございます。読んでいただけることに毎日感謝しております。
結局あの光の壁が何なのか分からないまま、光の壁は消え去った。
僕らはお互いを支えあう様にして、拠点としている建物に転げこむように入ると、扉を閉めて奥の部屋で倒れ込むように座り込んだ。
「・・・ と、とりあえず助かった」
その場に座り込んで最初に出た言葉はそれだった。
「 ありがとう、リック 」
傍らで座り込んでいるマーサがお礼を言ってくれたけれど
「いや最後の光の壁は僕じゃないから」
そう、あの光の防壁は一体誰が作り出してくれたのか、ものすごく疑問。
どう考えても魔法だよね。
まさか・・・
「私ではないですよぉ~」
目の前にエイシアさんが現れて告げてくる。
やっぱり違いますか。
「いきなり現れたね」
何もなかったはずの空間に唐突にエイシアさんの姿。
精霊とは神出鬼没なのだろうか。
「私たちは現世であれば~、遍く在るのですぅ。もちろん、私たち精霊を求める者が有ってこそなのですけどねぇ。」
『精霊とは生物では無く、思念の集合体のようなモノです。加護を与えた(与えるべき)対象には好意と善良さを向けますが。それ以外の人間には無関心と時には悪意さえ剥き出しにしますのでくれぐれもご注意を』
これは少し前に、ミーネから忠告を受けた言葉。
要するにエイシアさんは僕のそばに居るマーサに対して良くて無関心、場合によっては敵意さえ向けてくるってことだ。さっきのことがそれを如実に表してる。
「エイシアさんが助けてくれたのかとも思ったのだけど、なーんだ違うのか 残念 」
「そうできたらぁ良かったのですけどぉ、私たち精霊には生き物を攻撃することは出来ないのですぅ。またぁ、彼らの営みの邪魔することも基本しないのですぅ」
「要するに食事の邪魔はしないってこと?」
「はい~、余程の緊急事態でない限りぃ手は出さないのですぅ」
なんかすごいこと言われた気がするのですが
「さっきのは余程の緊急事態じゃないってこと?」
剣歯虎に襲われたことが緊急事態じゃ無いってどういうことなのでしょうか?
あれ以上の緊急事態って、想像したくもないのですが。
「もちろんですぅ~ あそこで護りの魔法が働くのは当然ですからぁ」
「護りの魔法??? なにそれ」
僕は思わずマーサの方を向いたけど、マーサも訳が分からないといった顔で首を横に振りながらこちらを見つめ返した。
「あらぁ ご存じなかったのですかぁ?」
なんだろう、気のせいかエイシアさんが今明らかに悪い表情を浮かべた気がしたのだけれど。
「知っていたら、あそこまで慌ててないでしょう」
そもそも護りの魔法自体知りませんでしたから。
「そうでしたかぁ~ あの魔法わぁですねぇ、リックさんをとても愛する女性が、去り際に強く抱きしめて掛けた護りの魔法なのですぅ」
「・・・ あ! 」僕は心当たりを思い出して思わず声を上げていた。
そう、マーサが明らかに拗ね始めているのにも気が付かずに、さらに危険な言葉を重ねてしまう。
「ルーちゃんか!!」
「はいー、正解ですよぉ 大切な人を護るために贈った魔法なのですぅ。それは愛なのですぅ LOVEなのですぅ 」
何だろう、エイシアさんの言い方がおかしい気がする。
「・・・ねぇ リック・・・って 女たらしなの・・・ あたいのこと可愛いって言ってくれたみたいに、その娘にも言ったのぉ」
やられた、エイシアさんの嫌がらせだこれ
やヴぁい気がしまーす。マーサさんが誤解してますよ~
「いや、違うから・・・聞いてよ」
「聞きたくない!!! あたいなんかよりその人の方が役に立つもの 」
すごい剣幕で怒ったかと思うと半泣きになるマーサの誤解が解けるまで、軽く30分以上かかった。
被害は引っ掻き傷と、噛み傷が数か所。あと大量の涙の跡。
良い方に考えれば、嫉妬してくれたってことかな。
「ごめんよぉ」萎れきって謝り続けるマーサ
僕の頬や、腕についた傷に一生懸命消毒薬を塗ってくれている。
最初は舐めて治そうとしてくれたのだけど、頬の傷を舐めようとしてハードルが高すぎることに気が付いたようで、背嚢内にしまってあった消毒薬に変更しました。
母は偉大です。
「気にしなくていいよ、誤解を生むような言い方になっていたのは事実だし」
元凶のエイシアさんを睨もうかと思ったのだが、相変わらずの逃げ足ですでに姿はない。
実に素早い、まぁ精霊だから任意に姿を消したりできるみたいだし仕方ないか。
特にエイシアさんは始まりの精霊なので、さらに特別らしいしね。
普通の精霊は加護持ちで、且つ一定以上の魔力が無いとはっきりした姿は見えない。だから普通の人は一生のうちに精霊を見る機会は加護を受ける時に限られることがほとんどなのだ。高位の魔法師であれば精霊との対話は出来るらしいけれど、あくまで念話のような感じで話をするだけらしい。
さらに始まりの精霊のように人格まで持った精霊はほんの一握りしか存在しない。
その中でもエイシアさんは一番若い精霊で、異世界の影響により誕生した新精霊なので色々と規格外とのこと。だから加護の無いマーサにもその姿を見ることが出来るらしい。
まぁ精霊自身が姿を見せたいと思わない限り見えないらしいのだけれどね。
「優しいお母さんなんだね、羨ましい・・・」
ルーちゃんというのが、うちの母親の呼び名で
その母親が、別れ際に僕を抱きしめて護りの魔法を掛けてくれたのだと言うことを
何とかマーサに説明して、誤解を解いたのだけれど母親の話は彼女の琴線に触れてしまったらしい。
マーサは両親の顔も知らないし、物心ついたときから孤児院そしてスラムで苦労してきた、それは想像を絶する辛い思いをしてきたのだと思う。
だからと言って下手な同情は彼女を傷つけるだけだ。
普通に話を続けよう。
「エルフだから、凄く若く見えるけれど驚かないでね」
また勘違いされても困るので、ちゃんと言っておかないと。
「うん 分かったよ・・・ ってエルフ? お母さんがエルフなの? お父さんは」
まぁ僕の見た目は普通の人間族だから当然疑問が湧くよね。
「父親は人間だよ、だから僕はハーフエルフってこと」
「・・・そ・・・そぉ なんだぁ」
急に大人しくなって俯いてしまうマーサ
細い肩が震え始め、床に涙が跡をつけてゆく。
「 え、 え どうしたの なんか余計なこと言った」
マーサは俯きながら、違う違うとでも言う様に首を振り続けていた。
「泣いてばっかりだね、あたい ごめんね、本当に」
しばらく泣き続けたマーサは絞り出すように、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ
「 リックのそばに あたいはいられないね やっぱり 」
「 なんで・・」
僕の言葉を封じるようにマーサが僕の目の前に近づいてきて、その細い指を僕の唇に押し当てる。 このまま話を聞いて欲しいということなのだろう。
「 リックはハーフエルフだし長生きなんでしょ・・・ そして あたいは」
残酷な事実、加護無しは長生きできない。
おそらくは先天性の病・・・
『 彼女の病気はおそらく 先天性の心臓異常と思われます。 自らの魔力で心臓を強化維持していますが、いずれ限界点がくるかと考えます。そう遠くない将来に』
ミーネが伝えてきた話が脳内で再生される
ただ、この話には続きがあった。
『 マーサさんを救う方法はあります』
ミーネが説明してくれたのは、高位な回復魔法もしくは貴重な魔法薬を使う方法。
ただし、前者は伝説級の魔法師による行使であり、そのレベルの魔法師を探す必要がある。
もちろん報酬も必要であり、それも庶民に払えるような金額ではない。
後者も伝説級の薬品だが、王家であれば所持している可能性がある。
『王家が持っているなら、もしかしたらルーちゃんが』
『エルフの国であれば、所持している可能性はありますが』
もしかしたら、助けてあげられるかもそう思った僕の希望はミーネの言葉に現実を知る。
『王家にとっての秘宝とも言うべき魔法薬をどうやって譲り受けるのですか』
『 それは・・・』 そうなのだ、いくら親子だといっても超貴重な魔法薬を渡してくれるはずがないのだ。
重病や大けがをしている人は、悲しいけれど毎日どこかで苦しみ傷ついている。
この件で親を頼ることは出来ないのだ。
『もう一つだけ、方法・・・いえ可能性があります』
『 可能性があるのなら、教えてほしい』
僕にできる事で、彼女を救える可能性があるのなら。
出来るだけのことをしよう、そう決心した。
お読みいただきまして本当にありがとうございます。遅々として進まない話ですが、毎日更新でカバーいたしますので今後ともよろしくお願いいたします。