娘の願い
こんばんは 本日のお話です
「 ぁ あの ・・・ と とぉさまぁ 」
「 ん どうした レム? 」
僕が中庭を眺めていると、先ほどからそばに居たレムがおずおずと声を掛けてきた。
最近はとぉさまと呼んでくれるようになって、嬉しい限り。
「 ぁ ぁのね お店・・・ お店がね 」
レムは中々自分の要求や我がままをいわない子だ、スラムで暮らしてきた影響で自分を押し殺すことを身に付けてしまっている
その日暮らしていくのがやっとの状況で、我がままなど言えるはずもない
ここで暮らすようになった今でも、それは変わらない
本当は子供らしく我がままになってもいいと思うのだけれど、それを強制するのもおかしな話だ
「 お店がどうかした? うちのお店? 」
敷地内で通りに面した場所を利用して、ロイルさんの工房とメイドのテルルさんと3人娘が働く≪ご婦人の店 テルル≫
この二つがうちのお店といった場合の対象だけれど
「 ぅぅん ちがぅ おばぁちゃんの店 ・・・ 」
「 おばぁちゃん? 」
「 ぅん 」
中々要領を得なかったが、根気よく聞いてみると
レムたちがまだスラムに居た頃
スラムからは少し離れた場所に小さな食堂があり、それなりに繁盛していた
職人街のはずれに位置しており、職人や日雇い労働者が常連として通う店だったらしい
その店は老夫婦が営んでおり、亭主が調理して、女房が注文を取り配膳するごくありふれた店
その店では、ごみの処理や簡単な仕事をスラムの子供達に出してくれる貴重な店でもあった
レム達、幼い子供がスラムで何とか生きてこれたのは、こういった店や工房が何件か存在するからが大きい
その店がピンチになっているというのだ・・・
「 じゃあ おばぁちゃんは今1人で働いているの? 」
「 ぅん おばぁちゃん ・・・ ぉねがい とぉさま おばぁちゃんとおじぃちゃん ・・・ 」
「 うん わかった 」
レムだけの話では詳しいことは分からなかったために
最年長である狐族のレックから話を聞いて
さらにメイドさんに調べてもらったところ・・・
スラムから抜け出せたこともあり、レム達は世話になった店にお礼をしに回ったようで
老夫婦も我が事のように喜んでくれた
ところが5日ほど前から老夫婦の店が閉まっており、心配になったレム達が訪ねてみると
調理を担当する亭主が怪我で動けなくなっている
しかもその怪我の理由というのが、蹴られたことによるもの
どうやら、性質の悪い連中に借りた金の取立てが原因らしい
長年にわたって働き続けてきた老夫婦も病気には勝てず
薬を買っていたのだが、どうやらその薬屋が性質のよくない連中とつながっており
気がつけば借金が増えていたのだ
どうやら連中の狙いは老夫婦の店と土地のようだ・・・
「 以上が報告になります。 連中はちんけな悪党ですが 借金の証文は正式なもので違法性はありません。問題があるといえば取り立てのさいに怪我をさせたことですが、下っ端を官憲に捕らえさせても そこまでです 」
「 ありがとう エリン 」
狼族メイドのエリンの報告を受ける
「 さて どうするかな 」
とりあえず、老夫婦は大地教にお願いして救護院で保護してもらっており
店には大地教の神職が交代で複数人詰めている。
借金取りも大地教とトラブルを起こすつもりはないようで、いったん引き下がったようだ。
しかし連中もこのまま引き下がるはずもないし、そもそも借金は事実だ・・・
「 うーーーーん 」
書斎で考え込んでいると
「 あなた 入植地の報告が上がってきたのだけれどいいかしら 」
ノエルが僕の部屋に入ってきた。
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