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母親の想い

こんばんは 今日はある母娘のお話です

娘の名前は エミィ。 尊敬する祖母から名前を頂いた、私の可愛い娘

1人目の主人である、ダニエルとの間に生まれた長女だ


生まれつき体が弱く、育つか心配な子だったけれど

高価な薬や、高名な魔法師の治療によって病弱ではあったが育ってくれた


幸い曾祖父が立ち上げたレヒート商会は、私の代になっても成長を続けており

高価な薬や、治療代も捻出できた


しかしながら、私の娘・・・ エミィは加護を受けることが出来なかった


しかも、父親であるダニエルの複雑な血筋の影響なのか

成長もひどく遅い子だった


「 かぁさま エミィ姉様はどうしていつもお部屋にいるのですか 」


エミィから見れば妹や弟にあたるきょうだい達からは、素朴な疑問が問いかけられる


「 ごめんね エミィは病気だから あまりお外に出れないのよ 」


「 そっかぁ 早くお姉様が元気になるといいなぁ 」


きょうだいが幼いころはそれで良かった・・・


「 会頭 エミィを部屋から出ない様に言ってくださいまし 仕事に影響が出ます 」


成人したエミィのすぐ下の妹が、レヒート商会を手伝うようになって進言してきたのは

当然と言えば当然の事であった


それまでもエミィが部屋から出ることにより、従業員に迷惑を掛けることがあった

本人としては良かれと思い、手伝おうとして荷物を持った瞬間に壊れるはずのない箱がバラバラになる

店頭を掃除すれば、突風が吹いてゴミが店内にまき散らされる

迷惑を掛けない様に隅で帳簿を付けようとすれば、急にインク壺が砕けて帳簿が使い物にならなくなる


こんなことが日常茶飯事なのだ




だから


「 エミィ様 此処は結構ですので 会頭のお手伝いを・・・ 」


「 はい もう片付きました お嬢様のお手を煩わせるまでもありません 」


従業員たちは何とかエミィを仕事に近寄らせまいとして苦労してきた

彼、彼女らからしてみれば主の娘であり

邪険にも出来ないが、迷惑以外の何物でもない存在



そして、次女が成人しレヒート商会の手伝いを始めた時に言ったのが

先ほどの台詞だ・・・


そして エミィは部屋からほとんど出ることが無くなった





「 加護無しのお荷物長女 」


「 疫病神 」


「 歩く災厄 」


従業員だけでなく、きょうだいからも厄介者扱いされてしまった。




「 いやー リティ様のおかげで仕事がやりやすくなりました 」


「 ごめんなさいね 今まで我慢させてしまって 」


次女であるリティは、私の2人目の主人との間の子供だ

一妻多夫の我が家では、3人の主人との間に5人の子供がいる


リティも可愛い娘であることは間違いないのだが

手がかからない子であり、ついエミィの世話に手を掛けてしまったこともあって

成長と共に姉に対し厳しく当たる様になってしまった。



他の子供達も多少の温度差は有れど、エミィに対する気持ちは

成長と共に冷淡になっていった


悲しいけれど、仕方のない現実






やがて 子供たちは更に成長し


次女であるリティは、騎士団次席である貴族家へ嫁ぎ

もう一人の娘も、隣国の文官に嫁いでいった


長男は、貴族院の高等文官試験に合格し 将来を嘱望された高等文官の道を歩み始め

同じく高等文官の貴族家の娘と結ばれた


次男はレヒート商会の跡取りとして各国の支店で修行中に、傘下に収めた中規模商会の姉妹を娶った。

一夫多妻において姉妹を一緒に嫁として迎えるのは良くあることだ。


孫も出来て、レヒート商会は増々発展している。

いずれは次男にレヒート商会を任せる気だが・・・


「 会頭は エミィの事が心配だから 引退できないのですよね!! 」


「 ケネス・・・ 仮にも貴方の姉ですから 呼び捨てはいけません 」


多くの権限は既に次男であり、跡継ぎのケネスに渡している。

しかし、最終的な判断と会頭としての地位は・・・  


「 では エミィ お姉様をいったいどうなさるおつもりですか!! すでに30を超え見合いの話もすっかり聞かなくなっておりますし 従業員も気味悪がっています 」


明らかな毒を含んだお姉様と言う敬称を聞かされると、私もついかっとなる


「 エミィの件と、貴方を会頭にしないのは別の話です。 貴族院との信頼関係や各国との調整はまだ無理というのは理解できているはずですよ 」


エミィの事になってしまうと、いつもこうだ・・・


冷静なはずのケネスまで身内の事だけに、熱くなってしまう


「 私の力不足は理解しました 会頭のお力がまだ必要なのは認めます。  しかし、そもそも話が別だと言うのならば エミィお姉様の件だけはご対処をお願いします!! ”商売人にとってタダ飯ぐらいは必要ない” この言葉を会頭が知らないはずがないですよね 」


吐き捨てるように大声で言い切ると、ケネスが部屋を出てゆく


彼が最後に言ったのは、レヒート商会を立ち上げたベリクの口癖だ




「 タダ飯ぐらい必要ない・・・ 」


息子に面と向かって言われるとショックだった・・・





その日の夕方、私は大地教の教会を初めて訪れることになった。


今まで仕事上の必要に応じて、寺院や教会に入ったことはあるが

信心深くも無く、ましてや大地教とは無縁だった


「 会頭様 私の孫がね病気になった時に、大地教の神官様が熱心に祈りを捧げ、お薬をくださってねぇ 孫は命を救われたんですよ 」


古くから商会で働く掃除婦が何気なく言った


「 会頭さんよぉ どうにもならないときは神様におすがりするのも手ってもんだよ すくなくともよぉディー様や大地教の神官さん達は、そこいらのインチキもんや、嘘つきじゃあねぇよ おら達みたいな貧乏農家にもきちんと相手をしてくれるし、神様の力で持って収穫を増やす方法だって教えてもらったんだぁ 」


出入りの農家の爺様が語って行った 




溺れる者は藁をもすがる・・・


大地教の教会の前に佇みながら、ふと考えた・・・


複雑に絡み縺れた糸って 最終的には切るしか手段は無いのでしょうか・・・

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