徹底的にツキのない・・・
こんばんは 今日のお話です
「 はい 何でしょう 」
真剣なネリィさんの声に、僕も身構えて返事をする
「 商売人としてはあるまじきことですが、殿下に商売を抜きにしてお願いがあります 」
レヒート商会と言えば、クレイファ共和国だけでなく近隣諸国でも知られた一流の商会だ。
貿易も手掛けており、貴族院を構成する有力格家とも取引も含めて相当な影響力を持つ組織のトップが
商売を抜きにした頼みとは・・・
怖いような気もするが とりあえず聞いてみよう
「 どうぞ お座りください。 まずは内容を聞いてからでなければ お答えのしようもありませんよ 」
ソファから立ち上がって、跪いて頭を垂れているネリィさん
そして隣で呆気にとられて固まっているエミィさん どうやら何も聞いていなかったようで
果たして、レヒート商会トップとしての独断なのか それとも深い考えがあってのことなのか
「 私としたことが・・・ 恥ずかしい真似をいたしました 申し訳ございません 」
深々と頭を下げたネリィさん
「 お伺いしましょうか 」
僕の言葉に反応するように、一つ大きく息を吸い込んで ネリィさんが語ったことは
「 はい、 身内の事で恐縮ですが・・・ このエミィを殿下の元でお使いいただけないでしょうか 」
「 ・・・ 」
「 おか おかぁさん きゅきゅうに何を 」
ネリィさんの突然の言葉に、慌てるエミィさん・・・
それはそうだよね・・・ 僕だってびっくりだよ いったい何を言い出したんだろうか
「 いきなり こんな話をして驚かれるとは思いますが・・・ 」
エミィさんの方は一度も向かずに、僕を真っ直ぐ見つめてネリィさんは話を続けた
「 おかぁさん・・・ 」
エミィさんの声には耳を傾ける気はないようだ・・・ 今のところ
「 私にはこの子も含めて 5人の子供がおります。 この子以外の4人は、跡取りの次男を除いて独立して他国で商売を展開しておりまして、おかげさまでそれぞれ軌道に乗っております 」
「 は はぁ ・・・ 」
ネリィさんの意図がよく分からないけれど、とにかく話を聞こう
「 ところで殿下はこの子の歳を幾つぐらいとお思いですか? 」
いきなりネリィさんから質問が飛んできたけれど どう見たってエミィさんは10代後半くらいだろう
上にきょうだいが4人もいて、話の感じだと全員一人前だろうから、末っ子であるエミィさんの年齢としては
辻褄が合ってそうだしなぁ
「 見た目で言えば 10代後半と言ったところでしょうか 」
「 ・・・ そうですよねぇ そのように見えますよね 」
気が付けば、僕の答えと母親の言葉を聞いたエミィさんの表情が沈んでいる?
というか泣きそうな顔になっている??
「 お恥ずかしい話ですが・・・ この子は長女でして 今年で30になります・・・ 」
「 は? ? 30・・・ 」
突然の情報に思わず聞き返してしまった
勝手な思い込みでエミィさんが末っ子だと思い込んでいたのだけれど
長女でまさかの30才???
「 はい、 この子の父親が複雑な血筋の持ち主でして エミィは成長が遅い子なのです 」
ネリィさんの話によると
一妻多夫の家族形態を取っている彼女が、最初に産んだのがエミィさんだそうな
で父親と言うのが、ハーフエルフとハーフドワーフの混血
そしてどうやらエミィさんはエルフの血が濃く出たようで、成長が遅いようだ
その上複雑な血脈の影響なのか、魔法も一切使えない・・・
幼いころのから病気がちで加護も持っておらず、手先も不器用
さらに驚くほど運が悪いと言うのだ
実際に今日も3回転倒し、2回野良犬に襲われ、歩いていれば突然道路が陥没し
鳥の糞が直撃する。
家の中でも、突然虫が飛び込んできて顔にとまり、朝食のパンが何故か入り込んできた野良猫に奪われる
そしてメイドが用意した代わりのパンが何故かカビているといった始末
もちろん 母親であるネリィさんは可愛い長女の為に魔道士に調査を依頼し、占い師にも頼り
外国から著名な学者も招いて診断もさせたりしたのだけれど
呪いの類でもなく、病気でもない もちろん魔法的な要素も何処にもなかったのだ
唯一わかったことは、致命的な運の悪さではないということ
大怪我になることは無く、子供の頃の病気も今は完治している
最終的に学者や魔道士が出した結論は
加護無しだから仕方がないというものだった
あまりに 突拍子もないと言うか、にわかに信じがたい話だが
ネリィさんの顔は真剣そのものだし 途中から悲しくなったらしいエミィさんの涙にも
嘘があるようには思えない。
さらに
『 その方のおっしゃることに嘘は有りませんわ 』
デニエのお墨付きまでもらいました・・・ どうやら真実のようです
となると 僕にはどうしても解せないことがある
「 ネリィさん こうやってお話しさせていただいてそれなりの時間が経過していますが・・・ エミィさんに不幸はおきていませんよね 」
そうなのだ、少なくとも僕は見ていないし
ケーキを美味しそうに食べて、嬉しそうにしているエミィさんが不幸には見えなかったのだけれど・・・
それともすでにお腹が痛いとか???
「 はい!! そうなのです!! 信じられないことが起きているのです 」
物凄く真剣な顔でネリィさんが僕に訴えてきたのですけれど ねぇ
運の良し悪し、人それぞれ まぁでも運の悪い人っていますよね・・・