来客
こんばんは 本日もお付き合いください
「 旦那様 お客様です 」
朝食を済ませてから マーサと娘達の顔を見に行こうとしていたのだけれども
そうは問屋がおろしてくれなかった
毎日のように来客の対応や、書状に目を通したり書類の確認をしたりで
ここ数日間娘達の顔をあまり見つめていられないのだ・・・
「 待たせているのは 第一かな 」
「 左様です 第一応接にてお待ちになっております 」
まぁそれでもセオやノエルが基本的に対応してくれているので
全てが僕のところまで来るわけではないのだ
有能なお嫁さんたちに感謝感激です
「 さて 今日の予定だと 待っているのは 」
「 はい 20日ほど前から面会の申し込みがありました レヒート商会のトップです 」
僕の独り言のような呟きにも、すぐに的確な対応をしてくれるのは、メイドのエリンだ
正直なところ、エリンが居るから何とか仕事を回せている気がする
常にそばに居てくれるし、適切な助言もくれる
いつの間にかトォーニ様の祝福も受けていて、念話まで使いこなしてくれるので
完璧なメイドであり、秘書も兼ねてくれている存在だ
まぁ おかげでミーネが拗ねて大変だけどね・・・
「 お待たせいたしました 」
僕は一番大きい応接室に入って、待たせたことを謝罪する
「 いえ、 貴重なお時間を割いていただきまして心から感謝いたします 」
そう答えてくれたのは、事前に聞いていた通り人族の女性 穏やかそうな方だ
そして、もう1人若い女性居る お供の方だろうか?
「 どうぞおかけください お茶でよろしいかな 」
儀礼的なやり取りの間に、メイドさんたちが直ぐにお茶を用意して現れる
エリンは僕の直ぐ後ろで微動だにせず 控えてくれている。
デニエ付きのメイドさんを中心にして、鍛え上げられた我が家のメイド部隊は
その立ち居振る舞いや、礼儀作法が完璧だと評判になっているらしい
最近ではうちで修行させて欲しいなんて訪ねてくるメイド志望の子もいるんだって
うーん メイド道も色々深そうだ
「 さて、本日はどのようなご用件でしょうか 」
僕も一応貴族なので 面会する相手の情報は事前に調べてあるし そもそも用件も当然のことながら頭には入っている。 仮にも公爵なので 僕に合うまでには相当ステップを踏まなければならないのも事実だしね。
「 はい 私どもレヒート商会では 貴族院副議長 ソイジレーア=ヒレッタ公爵様と姻戚関係にあり、公爵家からもご贔屓をいただいております。 また既にリック=ノルブレド=ジ=エレ公爵殿下夫人ノエル様より、高級洗髪料及び高級化粧品類のお取引につきましてお許しを賜り、まことに感謝しております 」
そうなのだ、このご婦人は首都でも指折りの商会の経営者であり、貴族院にも影響力を持つ実力者。
さらには共和国における商業ギルドの幹部も兼任している女傑
穏やかそうな表情の下には、したたかな女狐の顔を持つと言われている ネリィ=レヒートさんだ。
貴族院副議長の第二夫人はネリィさんの妹。しかもネリィさんの長男は騎士として国軍に所属しており、近々副議長の親戚筋に当たる貴族の娘と結婚を控えている。
そして今回の来訪はというと、今巷で大評判になっているシャンプーやリンス・コンディショナー等々
一般庶民向けは3人娘がバイトという名の社会勉強をしている≪ご婦人の店 テルル≫で売っているのだけれど。
貴族向けには既存の商会に高級品を卸しているのだ。
貴族の社会には独特の慣習もあるし、郷に入れば郷に従えということもあるのでねぇ
その既存の商会にして最大手がレヒート商会
さて 単なるお礼行脚だとは思えないけど・・・
しばらくは、僕のもたらしたシャンプーや化粧品が社交界にどれほどの衝撃と影響をもたらしたかや、他国の商会からの問い合わせがすさまじいことなどを伝えられて
どうやら一つ目の依頼は、他国への輸出についての商談だったようだ。
これについてはうかつな返事は出来かねるので、話を通しておくのでノエルと交渉して欲しいと告げるに留めておいた。
『 助かったよ エリン 』
『 いえ、 余計なことを言いまして 申し訳ございません 』
うっかり僕が言質と取られかねない話を、レヒートさんに乗せられて言い出しそうになった瞬間に エリンからの念話が警告してくれたのだ
本当に助かるよなぁ
『 とんでもない やっぱりエリンが居てくれないと無理だよ これからもよろしくね 』
『 は はい もちろんでしゅ ずっとお側にいさせていただきましゅ 』
なぜか時々エリンって噛むんだよね まぁ完璧なはずなのに、そういうところは可愛くて なんか良いよねぇ
『 ひゃ ひゃ いぃぃ 』
後ろは振り向けないけれど、多分エリンは赤くなっている気がする
素直な感想なんだけれど、心で思うだけでも読み取られてしまうんだよねぇ
可愛くて、なおかつ完璧なメイドって理想的だよなぁ
『 そ そ そんなにぃ ほめすぎでしゅぅうっぅぅぅぅうぅ 』
「 それで 殿下 どうかお教え願いないものでしょうか 」
「 はい ( やば・・・ エリンが可愛すぎて 話を聞いてなかった ) 」
ついついエリンの相手が楽しすぎて、目の前の退屈な儀礼を聞き逃してしまう失態・・・ やりがちなんだよねぇ
『 だ 大丈夫でしゅ 旦那様 要約いたしますと 最初の挨拶のさいにも触れていたマーサ様の出産祝いの品をお届けしたいので受け取って欲しいということと、小耳に挟んだとの事ですが、例の新生児用ミルクの件について教えてもらえないだろうかということです。すでにノエル様にも聞いたけれどはぐらかされてしまったと言っております 』
僕はとりあえず 考えるふりをしながら 目の前のカップを持ち上げてゆっくりと紅茶を口に運ぶ。
念話でエリンに感謝を伝えてから、整理してみる。
粉ミルク自体は密林通販で手に入るし、魔素を添加するのも問題はない
いずれは店頭に並べることも考えていたからそれはいいのだけれど
なんでレヒート商会が知っているかなんだよね。
まぁクレイファ共和国でも有数の規模だろうから、独自の情報網とか持っていそうだし
我が家にしても人の出入りは当然あるわけで・・・
しかし マーサと娘達の世話は限られた人しかタッチしていないはずだしなぁ
それにミルクだけ? 哺乳瓶や消毒の話は一切出ていない?
これにつていは
後日理由が判明する、エリン達メイド隊がその威信に掛けて徹底調査してくれて
ミルクの空き缶が一つ持ち出されていたことが判明したのだ
どうやら初期に雇い入れたメイドにレヒート商会の調査員がいたらしくミルクの空き缶が一つ持ち出されたようだ
驚いたことにレヒート商会ではシャンプーや化粧品類の容器 果ては僕が持ち込んだ食品類の包装紙まで回収して
平仮名やカタカナの解読に成功しつつあるらしい
( ちなみにアルファベットは過去の転移者から伝わっているとの事 )
その解読と空き缶に微かに残った粉ミルクや その他推測により
母乳の代用品であると中りをつけたようだ。
ちなみに 正体がばれたメイドさんは デニエとメイドさんの丁寧な説得(洗脳?)によって完全に寝返り
今はメイド兼カウンタースパイとして活動中
「 母乳の出が悪い方や、乳母に任せたくない奥方様達のお役に立つのであれば ご用意いたしましょう 」
「 ありがとうございます 世の奥様方に代わって 御礼申し上げます 」
まぁ近いうちに≪ご婦人の店 テルル≫にも置くつもりだったから問題はないでしょう
ついでなので哺乳瓶のことや、消毒についても教えてあげて
具体的な取引はノエルと打ち合わせて欲しいと伝えた。
さて これで話は終わりかな?
いつの時代でも商売とは情報戦の要素も持っているのでしょう