誕生
こんばんは 本日のお話です
世間の奥様方の中から見た目も気持ちも若返る方々が出始め、旦那さんの帰宅が早くなりベビーブームの兆しが見え始めた頃
我が家では初めての出来事が近づきつつありました。
「 あなた 落ち着いてください 」
今日何度目かの、ノエルからのお言葉
僕は落ち着いているはずですが・・・
「 うん 大丈夫 落ち着いているってば 」
「 ・・・ はぁ・・・ では、その手に持っているものは何ですの? 」
いったい何を言っているのかな、ノエルは 見れば分かるとおりこれは
「 ガラガラにオムツだよ すぐに必要になるだろう 」
僕の自信満々の答えに対して
「 あ・な・た ・・・ まだ産まれません!! それに何度も説明しましたけれど どちらも産まれてすぐに必要なものではありません 」
「 え ・・・ あぁ そっか じゃあ ミルクを用意して 」
「 母乳は問題ありません それより昨日から一睡もしていないので 眠ってください 」
「 ええええええ だめだよ 寝ている間に産まれて・・・ 」
僕は文句を言おうとしたのだけれど・・・ 背後に気配を感じた瞬間・・・
「 ありがとう エリン 」
「 いえ 主を止めるのもメイドの役目です 」
僕の意識が失われてゆく中、ノエルとエリンの会話が聞こえた。
~ さかのぼる事 一日前 ~
「 姉様のお腹もすっかり大きくなられましたね 」
楽な姿勢で椅子に腰掛けているマーサとセオが話をしている声が聞こえる
「 よく動くからさぁ 大変だよぉ 多分だけど3人くらい入っているよ 」
ニコニコと笑いながら答えているマーサ
兎族は多産であり、安産でもあることから本人は至って気楽に構えている。
「 そろそろ産まれてもおかしくないはずですニャよね~ 」
「 うん ケネス先生の見立てだと そろそろ陣痛ってやつが来る頃だってさぁ 」
ユーンの問いかけにマーサは、昨日往診に来てくれた医師の見立てを伝える
ケネス医師は首都でも数少ない女医で、獣人のお産には何度も立ち会ったことのあるベテランだ。
マーサの妊娠が判明してから、僕が首都中の医者を訪ね歩いて見つけた先生。
だってさぁ 奥さんの診察を男性の医者に頼みたくなくてねぇ・・・
「 主様は心配性ですからねぇ 昨晩も遅くまで書物で一生懸命調べモノをされていましたわ 」
「 あぁ "育児本" とか言うやつニャン あれは何冊目かニャ 通販で何冊も買ってるニャ あとオムツとかミルクとか、おもちゃとか ニャー 」
いやそんなには 買っていませんよ
っていうか 僕が居るのに普通に色々言われていますけど
「 だって 赤ちゃんだよ もう産まれるんだよ 」
思わず立ち上がる僕
「 大丈夫ですわ 主様。 女手はたくさん居りますし 助産婦さんは3日前から待機中 ケネス医師も毎日往診に来てくれておりますでしょ 」
「 そ そうだったね・・・ でもさぁ 何か足りないものないかな ・・・ あぁ マーサ 寒くない? 冷えてない? お腹痛くない? 」
「 大丈夫だよぉ リックは本当に心配性だなぁ 」
マーサはすっかり落ち着いたもので・・・ お腹を撫でながら あ 蹴ってる蹴ってる などと 嬉しそうだ
でも 僕はというと・・・ とにかくジッとしていられないというか 心配だし 落ち着かないし でもでも 父親になるわけでぇ
そして そんな僕をここ何日間か眺めている奥さん達は
「 ふふ 主様は 可愛いですね いずれ私も・・・ 」 と セオ
「 レウィの妹もお願いしましょうねぇ うふふ 」 これは フェオ
「 赤ちゃん 欲しいニャ~ 早く生みたいニャ 」 嬉しそうなユーン
「 順番ですが 早くあのように 幸せな顔になりたいですこと 」 ノエルも欲しがっており
「 あのぉ 生命神様にも確認したのですけど キチンと産めるようですわぁ 超高齢出産ですけどね ふふふ 」 神子を産む気満々のデニエ
他にも早く妊娠できる身体を手に入れたい婚約者や、花嫁修業中の3人娘とか控えてますけど
まずは もう生まれてくる最初の命です
「 名前を考えておいてね リック!! 少なくとも3人分よぉ 」
そう マーサのお腹には3人以上入っているようなのです。
兎族では普通の事らしく、マーサも特に当然のような感じですが
僕としてはテンパリ度も3倍なわけで・・・
「 あなた ・・・ あなた 起きてくださいな 」
僕を呼ぶ声が聞こえて・・・
「 あ !! なんで 寝てるの !! マーサは 」
一気に目が覚めまして、なんでベッドに居るのか? マーサはどこ? 今何時? 一気に色々なことが駆け巡ります
「 大丈夫ですから 落ち着いてください 」
目の前の冷静なノエルの声を聞いて少し落ち着きが戻ってくる
「 あぁ ごめんごめん 寝ちゃったのかぁ 」
「 ええ 眠っていただきましたわ でもそろそろなので起きていただきました 」
眠ってもらった? そろそろ?
「 ん どういうこと? 」
若干寝ぼけた頭で反射的に答えたのだけれど
「 そろそろ産まれますわ 」
「 ・・・ ええええええええええええええ 」
一気に跳ね起きた僕は おもむろにベットから飛び出して 走っていこうとしたのだけれど
「 ご主人様 こちらですわ 」
どうやら反対方向だったようで、狼族メイドのエリンに軽くいなされて気がつけば方向転換していた
しかも、腕を軽く組まれているだけなのだけれど走り出すことが出来ない
あぁ もちろん柔らかい胸の感触ってのもあるんだけれど・・・ そうじゃなくて身体がコントロールされている感じ
ごくゆっくりしか歩けない
いつものことながらメイドさんって凄いよね
やがて 産室代わりに使われている部屋の前で強制的に椅子に座らされた。
もちろん隣にはエリンの姿がある
産まれるまでは 夫といえども立ち入るべからずとのことらしい
「 ご安心ください ご主人様 」
「 う う うん 」
エリンの話では、2時間ほど前に陣痛が始まり、助産婦さんの指示でケネス医師もすでに駆けつけてくれており
まもなく産まれるだろうとの事
部屋の中からは 時折 助産婦さんの声と苦しそうなマーサの声が聞こえる
そのたびに僕は立ち上がりそうになるんだけれど・・・
「 ご主人様は どうかそのままで 男性に出来ることは祈るだけですわ 」
その度に、エリンがそう言って僕を留める
「 そ そ そうだね 」
まぁ実際の話 僕が入ったとしても邪魔なだけだね・・・
そして どのくらい時間が経ったのだろうか
ずいぶん経った気もした頃・・・
「 おぎゃーーーーーーーーー 」
元気な声が部屋の中から聞こえた
続いて また
「 おんぎゃやぁぁぁぁぁぁ 」
「 ふぎゃぁぁぁっぁぁぁぁ!! 」
立て続けに声が響き 3重奏になった思ったら
「 お お おぎゃーーーーーーーーーーーーー 」
一際大きな泣き声が響き渡る
やがて 待望のドアが開き
「 どうぞ 旦那さん 入って奥様を労ってあげてください 」
ニコニコしたエルフの女性が出てきた
そう彼女がケネス医師その人
部屋の中には
マーサと産着にくるまれた 赤ちゃんが4人
「 さぁさぁ お父さんが来たよ 」
助産婦の熊獣人さんが優しくマーサと赤ちゃん達に声を掛けてくれる
「 ・・・ リックぅ ・・・ あたい 頑張ったよぉ 」
こちらを向いて 僕に微笑みながら話してくれる マーサ
僕は・・・ 涙が・・・ 止まらなかった
「 ・・・ あ あぁぁ あり ありがとう マーサぁぁぁ 」
そして ベットのそばで膝立ちをして、マーサの手を握り 可愛い僕の4人の娘達を見つめることしか出来なかった・・・
このお話は 本来の進行表では昨日に掲載するつもりでした。 昨日はイースターでしたし、マーサはウサギ族ですからね。 まぁ3人娘の話が予定をオーバーしまして、一日ずれてしまいましたが・・・