価値観の違い
本日も投稿です。お目に留めていただき感謝です。
泣き崩れ嗚咽を上げ続ける兎族の女の子、名前はマーサって言っていた子。
きっと色々辛い目にあって来たのだと思う。
簡単に慰めたり出来るような状況にない。
この世界に比べたら、平和すぎるくらい平和な日本で育って
そんなに不自由もした覚えもないし
両親も健在、そりゃあいきなりこの世界に連れては来られたけれど
まだ、大した苦労もしていない。
でも、目の前のこの子は一体どんな・・・
『・・・大丈夫』 『安心していいよ』
言葉が出てこない、自分に何ができる
ラノベなら、お話なら・・・
残念ながらそんなに軽いことじゃない
「エイシアさん、またお願いしてもいい?」
目の前で嗚咽を上げ続けていたマーサさんは、泣き疲れたのだろうか
そのまま眠ってしまったようだ。
薄い毛布を掛けながら、エイシアさんにしばらく見ていてくれるように頼んだ。
「目を覚ましたら、必ず呼んでね。狼を処理してすぐに戻ってくるから」
エイシアさんはこの子に若干冷たい気がするので念を押しておく。
「大丈夫ですぅ、次に目を覚ましたらすぐに呼びまーす」
「お願いしますね」
精霊は人を傷つけることは出来ない、それはミーネから聞いている。
また、加護を持つ人が不利益になることもしないらしい。これは精霊の基本的な性質とのこと。
「まずは食糧問題だよな」
当てにしていた村は無く、次の街までも3日ほどの距離はある。1人なら何とでもなるのだけれど、マーサさんを放置して行くことは論外。となれば2名分の食糧を確保しなければならない。まずは狼を捌いて燻製を作り、出来ればもう少しマシな肉を手に入れる。
「兎の獣人って肉食大丈夫なのかな・・・?」
素朴な疑問を思わず呟いてしまったが
『問題ないです。基本人間と同じ食事で大丈夫です。ご本人のお好き嫌いはあると思いますが』
あっさりと、ミーネが答えてくれた。
「おおー さすが。頼りになるね」
感心のあまり、つい口に出してしまった。また危ない人状態だ、気を付けないと。
『まぁウサギ肉を食べさせることには、心理的な抵抗がご主人様サイドにありそうですが』
『だよねぇ・・・』
一番手に入りやすいウサギの肉を食べさせるのはこちら側に心理的抵抗がある。
ちなみに獣人サイドはあまり気にしないとの情報も受け取ったのだけれど。
でもねぇ・・・やっぱりなぁ
今は考えても仕方ないので、狼の毛皮を剥いで肉を捌くことに専念しよう。
肉は燻製に、骨は処分。内臓は寄生虫とかが怖いので穴を掘って埋めてしまおう。
などと色々考え事をしながら作業をしていると、ミーネがアドバイスをしてくれた。
『ご主人様、〈MAP〉の展開をお願いします』
どうやら、〈MAP〉を展開しておくことにより、周辺警戒が可能らしい。
ただ、あくまでも僕の魔法なので支援システムであるミーネは勝手に展開が出来ないらしい。
『了解だよ。 MAP 』
少しは慣れてきたので素早く展開できた。あとの監視はミーネがしてくれるらしいので、お任せすることに。
『ねぇミーネ?』
『ハイ、なんでしょうか』
僕はこのまま〈MAP〉を24時間常に展開しておけば警戒も楽だし、ミーネも面倒が無くて良いかなと思って聞いてみたのだけれど
『残念ですがご主人様の魔力量的には全く問題ないのですが、まだご主人様の魔法に対する熟練度が足りませんので長時間の連続展開や睡眠中の展開は、ご主人様の精神面への負担が大きくお勧めしません』
申し訳なさそうに説明してくれるミーネ。
ようするにミーネ自身も僕の魔力を使用して支援システムとして働いている。その上さらに常時〈MAP〉を起動しておくと僕への負担や影響ががまだ大きすぎるらしい。
いずれ熟練度が上がって、息をするようにごく当たり前に魔法が使えるようになれば問題も無いのだろうけどねぇ。
ようするに僕自身がもっと魔法に慣れないと、いつまでたっても膨大な魔力が宝の持ち腐れらしい。
『修行あるのみってことですか』こっちにきても結局修行か(苦笑
『大変申し訳ありません』
『いやいや、ミーネが謝ることじゃないから』
まぁ別に修業は嫌いじゃないし、日々の鍛練は裏切らないって思う。
いきなり強くなれるとか、何でも魔法やスキルでで出来てしまうなんてさぁ
『それこそラノベだよね』
『なんともお返事の仕様がありません・・・』
ミーネに振ってみたけど、お茶を濁されてしまった。
まぁいいか。
手を動かしながら、ミーネと脳内会話を楽しんでいたのだけれど
『ご主人様、〈MAP〉の表示の異常があります。申し訳ありません、妨害されていた可能性があります』
『え、どういうこと』
『輝点の表示が偽装されていました』
ミーネも気が付かない妨害、偽装?
『妨害をキャンセル、これが正常な表示です』
ミーネによって適正化された表示が展開されたけれど、どこが異常だったのだろうか
『え・・・ マーサさんの表示がない?』
気が付いたのは、マーサさんが居るはずの建物に輝点が無いこと。
「目が覚めた? トイレとか?」
いや、それならばエイシアさんが念話で伝えてくるはず。
確かに、エイシアさんがマーサさんに対する態度は所々冷たい物を感じでいたけれど・・・
少なくとも精霊は加護を与えた人間に嘘はつけないはず。
それにマーサさんの表示が偽装されていたということ・・・
しかも電子魔法の制御に介入するなんて、エイシアさんにしか出来るはずが・・・ない
『ミーネ、これってまさかエイシアさんの』
僕の考え共有しているミーネが即座に答えてくれる
『はい、すでにお話ししているように精霊は自ら加護を与えた人間に嘘をつくことは出来ませんし、不利益になることももいたしません。でも、それを判断するのは精霊の側で精霊の価値観は人のそれとは違うのも事実です。最優先すべきは加護持ちの存在、その安全を脅かす可能性が高いと精霊が判断した場合に要因を排除しようとする可能性は否定出来ません』
『でも少なくとも嘘はつかないよね』
『はい、嘘はつけません』
その言葉を聞いたとき僕は気が付いた。
あの時エイシアさんは
『大丈夫ですぅ、次に目を覚ましたらすぐに呼びまーす』
そう言ったはず
エイシアさんは嘘をつけない
マーサさんは、泣き疲れて眠っていると思っていた
でも、それは僕の思い込みで・・・
眠っていなかったのならば、次に目を覚ましたら呼ぶ・・・
元々起きているマーサさんは次に目を覚ましたのではないから
僕を呼ぶ必要は無く嘘も成立しない
しかも、マーサさんを自発的に出ていくように仕向けたとしたのなら
『エイシアさん!!!』
『呼びましたかぁ~』
彼女を責めても仕方ない、精霊にとって重要なのは自ら加護を与えた人間のみ・・・
ミーネから聞いていたはずなのに、理解できていなかった自分が悪い
『エイシアさん、マーサさんはいつ出て行きましたか』
『えーとぉ 20分くらい前に出て行ってしまいましたよぉ』
エイシアさんの言葉に嘘は無い。
『どっちの方角ですか?』
『さぁ~興味がないのでぇ分かりかねますぅ』
言いたいことはたくさんあるが押し殺して必要なことだけを聞き出さないと。
『出ていく時に何か言っていましたか』
『とくにぃ聞いていませんですよぉ、こちらからは言っておきましたけどぉ』
『何を言ったのですか』
『リックさんにふさわしくないしぃ貴女は足手まといなのでぇ、速やかに立ち去るように伝えたのですぅ。あの子がいるとぉリックさんが危険に巻き込まれるのですぅ。あと、〈MAP〉で見られているでしょうから干渉させていただきましたぁ 特にあの子を追いかける必要もないですしぃ』
『・・・ なんてことを・・・』
精霊である彼女にしてみれば、自らの行動原理に忠実な行動なのだろう。
彼女が求めるのは自らが加護を与える人間、それ以外は場合により排除することも厭わない。
人間の基準で、彼女に理解や反省を求めても無理だ。
だから怒りをエイシアさんにぶつけても何も始まらない
いずれにしても、まずマーサさんを探さないと・・・
『ミーネ 探知範囲内にマーサさんらしき気配は』
一縷の望みを託して聞いてみる
『申し訳ございません、ご主人様。現在の探知能力内に、マーサさんらしき反応は存在しません』
『・・・ くっ』
落ち着け自分、彼女はマーサは、そもそもどこから来てどこへ行こうとしていたんだ・・・
彼女はおそらくスラムや貧民街にいたはず、それはある程度の大きさの街にしか存在しないモノだ。しかもこんな旧街道を彷徨っていた、それは人目を避けるため。
『ミーネさん!!』
『はい、ご主人様』
僕はある情報をミーネさんに確認する
『この1週間以内にこの王国内で、スラム街や貧民窟に対しての大規模な浄化作戦や立ち退きが行われたところで現時点から一番近い街はどこですか』
『おそらくご主人様の求める情報に該当する街は、トオッカです。3日前にスラム街撤去が実施され今も継続中です』
『マーサはトオッカから逃げてきた、だったら』
僕は、両親と別れてからひたすら歩いてきた旧街道を、元来た方に向かって走り出した。
それはトオッカの街から遠ざかる道。
おそらくマーサが向かっている方向と思われる道。
『ご主人様』
走る僕の脳内でミーネが話しかけてくる
『そのままお聞きください』
『マーサを連れ戻してどうするのかってことなら、彼女に追いついてからにして欲しいな』
全力で走りながら脳内で話しかける
『ご主人様の行動を私は否定するようなことはいたしません。ご主人様のお心のままにしてください。私はその決定を尊重いたします』
ミーネは反対意見を述べたいわけではないらしい。
『これからご提案申し上げることは、支援システムである私の領分を超える可能性がありますので、決してお勧めはしません。ただ、マーサさんを救うことが出来る数少ない可能性の一つとして申し上げます』
その後にミーネが教えてくれたことはとてもショックな事実と
わずかな可能性がある救いの方法。
聞いた以上、僕に諦めるという選択肢は無くなった。
マーサさん、何処にいるんだ。
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