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窮鳥入懐(きゅうちょうにゅうかい)

こんばんは 本日のお話です

「 御主人様 連れてまいりました 」


馬車の中でお腹がいっぱいになった子供たちが睡魔と戦っていると、メイドのロメイとリンが戻ってきた。

リンの腕には毛布に包まれた子供の姿、この子がおそらくレムだろう。


「 熱はどう? 」


僕の問いかけに対して、リンが答える。


「 回復魔法を使いましたので 容態は落ち着いています。ただ 出来れば屋敷に付きしだい、デニエ様にしっかり診ていただければと思います 」


僕がリンを指名したのは、彼女が回復魔法を使える存在だからというのがその理由だ。

リンを含む竜人族は魔法の使い手が多いことで知られている。ただ竜人族は多くが外界との接触を極力避けて暮らしており街中で見かけることはほとんどない。

過去にその強い魔法力を悪用された種族としての苦い歴史があるため、現在ではほとんどが隠れ里のような場所でくらしており、集落は結界で遮断されているらしい。

リンはセオが自らのメイドとするべく竜人族の村を訪れて選んできた女の子。

癒しの手と呼ばれる回復魔法の能力を持つ存在なのだ。

もちろん魔法能力もさることながらメイドとしての素養がとても高い子であり、セオとの相性もとてもいいらしい。


そのリンをしてデニエに診てもらうべきという理由としては、回復魔法が決して万能でないことを端的に示している。


表面的な怪我や単純な病気には回復魔法は劇的な効果を示す

それが重病で有ろうと原因が単純であれば、例えば初期のガンや脳卒中のような病気には状態の回復という点で魔法の効果は大きい


ところが、インフルエンザのようなウイルス性の病気の場合

回復魔法で熱が低下しても、それはその場しのぎに過ぎず完治には至らない。


特にこの世界における医療のレベルは当然のごとく低く、病気の元が分かっていないために経験則に頼る部分が大きいのだ。


そのため薬草や魔法による治療も、いわゆる対処療法となりかえって症状を悪化させたり、治療が長引く原因にもなっている。

リンはミーネから集中的に医療関係の知識を得ている最中であり、今自分が行使した魔法により病気の子供の熱が下がっているが、対処療法になっている可能性を理解している。

病の元を確かめ、病気の根治となる原因療法を行うためには、高位精霊であるデニエの診断が必要なのだ。


デニエの精霊魔法には病の原因を探りだし治療につなげる物があり、それによって原因を突き止めれば回復魔法による効果も劇的に向上することとなる。



「 屋敷に戻ろう 」


お互いの無事を確かめあっている子供たちを乗せて、馬車は走りだした。


「 さぁ これを飲むのニャ 美味しいニャンよぉ 」


ユーンが案内をしてくれたフェンと呼ばれていた犬族の子供にも、温かいミルクの入ったカップを差し出す。


「 え、・・・ 」


突然目の前に差し出された湯気の上がるカップに、思わず固まってしまうフェンに対して


「「 すごーく 美味しい いいから飲んでみ 」」


すでに味を知っている狐族と虎族の子供が声を揃えて勧めている。


「 う うん ・・・ 」


2人に勧められて、恐る恐るカップに口を付けたかと思うと 目を真ん丸にして一気に飲み干すフェン。


「 甘いだろ 」


「 美味しいだろぉ 」


まるで自分たちの手柄のように嬉しそうに話す二人の子供。


「 こんな・・・ 美味しい物 ・・・ 初めて飲んだ ・・・ 」


呆然としながら呟くように話すフェン


「 さぁ おかわりもあるニャンよぉ 」


先ほどと同じようにユーンから手渡されるドーナツとお代わりのミルク。


繰り返される微笑ましい光景、3人目となるフェンもやっぱり両手でドーナツを持って齧り付いた。







やがて馬車は屋敷に到着し玄関前まで乗り付けると、子供たちは待ち構えていたメイドさん達にあっという間に連れ去られていった。

もちろん念話でミーネに状況を伝えておいたので、元気な子たちはそのまま風呂に直行だろうしそこでさらに怪我の有無や健康状態のチェックも行われるだろう。

熱のあった子に関しては、デニエが待っているので診察される予定。


懐に飛び込んできたこの子達は当面ここで保護して今後を考えよう。


世界を救うなんて大それたことは出来ないし考えたことも無い

でも手の届く範囲にいる、手を差し伸べられる立場の弱い存在には出来る事をしてあげたい


それは偽善なのかもしれないけれど、僕は自分に出来ることをしたい



ある意味で行き場を失い、結果的に懐へ飛び込んできた孤児達です。

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