神官様の実力
こんばんは 本日のお話です
「 到着しました こちらになります 」
大地教の大神官であるファネさんと神官コンビのエメリさんとレマさんの案内で連れてこられたのは
大地教の本山のすぐそば、大通りから一本入った通りに面した場所
「 塀だよね 」
僕の目の前には塀が続いている、それなりに高い塀ではあるけれど塀の向こうに大きな建物は見えず
大きな木が何本か見える程度
「 うん 家なんて見えないよぉ なんだよぉあたい楽しみにしてたのに 」
「 きっと塀に隠れて見えないのニャ 」
「 えー そんな低い家なのかなぁ フェオは2階建だと思ってました 」
お嫁さん達からは落胆の声が上がる
まぁ土地は広そうだけどね、塀は随分続いているし
「 ファネ あまり焦らすものではありませんよ 」
デニエが大神官のファネさんに声を掛けている
「 はい、 すぐに解放いたします 」
生真面目なファネさんは、エメリさんとレマさんに指示を出して、何かを唱え始めた
「 詠唱ですわ どうやら何か魔法的な要素があるようですね 」
セオが僕の隣で囁いた
うーん 何が起るのだろうか
「 あ、 あれ・・・ ? 」
ミーネが僕の肩の上で、塀の向こうを指さしている
「 ミーネ どうしたの? 」
「 何かが 見えます 」
「 お、 俺にも見えてきた 」
そう 今まで何もなかったはずの場所
塀の向こうに、確かに何かが見える
そうまるで蜃気楼のようにゆらゆらと揺れる影
徐々に輪郭がはっきりとしてきて
「 え、えぇぇぇ これって ・・・ 」
恐らく理解しているデニエと大地教関係者以外は、その光景を凝視している
「 セオ姉様 ・・・ 」
「 あい・・・ ノエル 流石に私も驚きましたわ・・・ 」
僕らの目の前には 豪邸がその姿を現わしていた
3階建て石造りの立派な建物だ
ちょっとしたお城のよう
「 これがあたいらの家かい? なぁなぁリックぅここに住めるのかい? なんだか貴族みたいだよぉ 」
「 はい 元々は有力貴族の別邸の予定でしたから、相当な物ですよ 」
マーサの問いにはレマさんが答えてくれた。
「 お庭も広いのですか? 走れますかぁ 」
「 もちろんですわ 庭には池もありますし、芝生が植わっていますので思い切り走れますよ 」
フェオとエメリさんが嬉しそうに話をしている
とっても楽しそうだ。
「 でも なんでこんな豪邸が見えなかったんだ 魔法だよな・・・ 〈光学迷彩〉のような魔法か? 」
自分で呟いていながらも、光学迷彩をこれほど大規模にしかも長期間に渡って掛け続ける自信はない・・・
しかも影すら無かったはず。
でも、今は 影も見える・・・
「 はい、 これは認識阻害魔法です 」
後ろから声を掛けてきたのは ファネさんだ
「 認識阻害? 」
「 ええ、 そこに在る物を意識の外に追いやってしまうことにより事実上見え無くしてしまう魔法です 」
どうやらかなり特殊な魔法であり、ファネさんを筆頭とする神官クラス3人が揃って初めて行使が可能な魔法とのこと。
一度かけてしまえば、解除するまで半永久的に続くらしい。
では何故そのような魔法掛けたのかというと。
元々は貴族の別邸として建設され、引き渡し直前で貴族は没落してしまった。
ようするに宙に浮いてしまった建物なのだが、困ったのは建設した業者。
前金は着手前に受け取っていたものの、残りの半金は完成後に支払われる予定だったのだ。
あまりの豪邸であり、そう簡単に買い手が付かず
かといって放置すれば屋敷に入り込むものや、家具を盗もうとする泥棒も予想される。
最初は警備をしていたのだが、その費用も馬鹿にならず
白羽の矢が立ったのが大地教の神官による認識阻害魔法の行使だ。
この魔法が効果を発揮していれば、ただの空き地としてしか認識されないうえに、豪邸があったのを知っていたとしても
その場に立つと認識が阻害されるために、ただの空き地としてしか考えることが出来なくなるのだ。
しかも、周囲を取り囲む塀にも侵入防止の魔法が掛けられており塀を乗り越えることも出来ないのだ。
ほぼ完ぺきな防犯対策と言えるだろう。
だが、もはや認識阻害魔法は解かれた。
突然現れた豪邸に通行人も驚いている、まぁ何もないところに突然巨大な屋敷が現れたら驚くよね。
もちろん 僕もまだ驚いている。
「 さぁ こちらです 」
そんな僕らを促すように、ファネさんが塀の一部に向かって歩き出す。
塀の前ではレマさんが何かを呟きながら手をかざすと
「 すごいニャ 塀が動いてるニャン 」
興奮するユーンの前で、塀の一部がせり出して横にスライドしてゆくと
その向こうには本来の石塀と 立派な門が見えた。
「 うん 本気で豪邸だね・・・ 」
門の向こうには石畳の道が広大な庭を突っ切り続いている
そしてその奥には 見事に立派なお屋敷がその全貌を現わしていた。
魔法による防犯対策 便利ですよね