英霊
「晴明さま、これで良かったんでしょうか?」
安東要は揺れる瞳を陰陽師に向けた。
白い狩衣に黒い立烏帽子姿の晴明は深い嘆息の後に言葉を発した。
「一千万の魂を贄としてフクシマ原発を異世界に飛ばす陰陽術、その是非は後世の歴史家にでも任せればいい。あなたはやるべきことをやったのです」
「だけど………」
「彼らも薄々、自分達が助からないことは分かっていたはずです。覚悟は出来ていたはずです。せめて消えゆく魂の有効活用をしてあげることが私の使命だと思っています」
「―――英霊、彼らは神州日本を護った英霊として祀られる、ということでしょうか?」
「まあ、そんなところです。魂は輪廻します。永遠の時の中で、どこかでまた、生まれ変わります」
晴明の言葉に何か腑に落ちぬものを感じながら、安東要は空を見上げた。
一千の魂が光となってフクシマ方面に飛翔していく。
その光景は幻想的でありながら、夏の花火の後のように物寂しさと後悔を要の胸に刻んだ。
昔、昔、東の方に東京という都市がありました。
今は誰も住んでいません。




