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96 イデオンと鶏肉

「鶏、嫌い」

 言葉少なげに我が子の言葉を彼女は聞いていた。食感が苦手なようで、何度も食べさせようとしたがいつも残しているのが彼女の悩みの種だった。

 どうしたものか、別段嫌いなら嫌いで構わないのだが、彼女の夫は養鶏を家族ぐるみで営んでいるのだ。そんな息子が鶏肉を嫌いというのは将来に影を落とす。

 義母や義父はそれを辛く当たるということはないのだが、それがかえって彼女の悩みを大きくしていた。夫も協力してくれるのだが、どうにも難しいのだ。

 今息子は夫の趣味で借りてきたアニメのDVDを見ている。台所で彼女は今日こそは鶏肉を食べさせようと思いながらシンプルに、唐揚げを作っていた。

 だが、料理をしながら息子が泣き声をあげていた。

「どうしたの?」

 何事かと思い彼女は息子の様子を見に料理の火を止めた。

 息子は要領を得ない呻きをあげ、アニメを映すテレビを指さしていた。

 彼女もしばらくそのアニメを見ていたが、次々に登場人物が死んでいくさまを見て、それが理由かな、と思った。

「大丈夫よ、これはアニメの中のことだから」

「ほぉ、んとぉ?」

 息子は泣きはらした眼で彼女を見上げている。

 でも、全部が全部起こらないと教えるのはアニメが過剰であることを差し引いても、親として告げなければならない。

「でも、こういうことは起こることかもしれないの。お母さんだってこのアニメみたいな形で、たぁくんとお別れするかもしれないの」

 そう言うとやぁやぁ、と駄々をこねるように繰り返した。

 じゃあ、と彼女は尋ねた。

「どうして、たぁくんは鶏肉が嫌いなの?」

 勘ではあったが息子は応えてくれる気がした。息子は今までその理由を言及したことがなかった。それは息子の中でプライドのようなものに抵触していからだろう。

「ニワトリ、に、追い掛け回されたから」

 たしかに、そんなこともあった。それがトラウマになって鶏肉を食べるのが嫌い、もしくは恐れていたのだろう。

「たぁくん」

 彼女は笑顔で告げる。

「トリさんはたぁくんのことを怒ったかもしれないけど、恨んではいないよ」

「どうして?」

「トリさんが追い掛け回したのはトリさんが怒るようなことをたぁくんがやっちゃったからなの」

「うん」

「だから、食べたって恨んだりしないよ?」

「――ホント?」

 そうだよ、と彼女は笑顔で付け加えた。

「食べないほうが恨まれるんじゃないかなぁ?」

「え? ど、どうして?」

「トリさん、もう生きられないって諦めるしかないのに自分を食べてくれないのは諦めがつかないと思わない?」

 うん、と俯きながらも息子は頷いた。

「じゃあ、食べよう? 美味しく作るのに残されると、お母さんも哀しいの」

「……うん」

 そう言って彼女は料理に取り掛かった。

 きっと、食べてくれるだろう、そんな期待をいだき、夫のDVDにはチェックが必要だな、と思いながら。

リア友北の男からのリクエストでした。ホントは発動篇ってことでしたが、筆者見てないですねw なんか最近北の男は見てたらしいけど。



作中お題のタイトルは出てこないけど、多分描写だけでお題はクリアされていると思われ。



では、百本まであとわずかどうぞ最後までお付き合いくださいw



バイトいってっきまーす。

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