90 闇と王子様
――光を見たかった。
王子様は目が見えなかった。自分が王子様と理解できるのは彼を育てる侍女や寝物語を語る母ではない女性、武勇たんを誇る騎士たちのおかげだ。
彼ら彼女らは優しく、王子様はその優しさに応えて自分をまっすぐ育てた。
しかし、王子様は彼ら彼女らの姿をこの眼で見たかった。
彼ら彼女らは自分たちはひどい醜いから王子様のように盲目に慕ってくれる方がありがたい、という。
しかし、自分は王子様なのだ。いずれ王として皆を統べなければならない。
ならば、臣下の面構えすら知らないというのはひどい裏切りのように純真な王子様は思った。
ある時、魔法使いを名乗る男が現れた。
彼ら彼女らに見つからないように王子様の前だけに現れたのだ。
「貴方に光を与えよう」
「ほんとうですか?」
「君が真に望むのならば、私はそれに応えてみせよう」
――お願いします、私は臣下らの顔が見たいのです。
王子様の言葉に魔法使いは応えました。
すると魔法使いの顔がまず見えます。白ひげを豊かに蓄えた老人である。
王子様は礼を言います。
「君が望んだことを後押ししただけだ」
そう言って影すら残さず魔法使いは立ち消えました。
王子様は皆を探します。
しかし、皆は見つかりません。
部屋から出て王子様は愕然とします。
小高い丘の上にある石造りの城は荒れ果て、見える城下は誰一人歩いていません。
そして、白い人を見つけます。
白い人は一人だけではなく何人もいるのです。
王子様はそれが死骸であるとはわからず応えない骸を揺らして崩れ落ち、頭蓋が転がったことでようやく、それが死骸であることを理解します。
そして王子様は自分の国が亡国であることを知り、育てくれた皆は王子様を慕う亡霊であることを知ったのでした。
優しい闇を取り払い王子様は光りあふれる現実を知ったのでした。




