09 柱とハーレム
とある国の王様は全ての財を持っていると豪語していた。金銀から銘酒、各国英雄が保持していた名剣名槍、絵画、はては珍獣魔獣まで持っていないものなどないといえる王様だった。
しかし、彼が持ち得ない、または不服としているものがあった。
それは後宮だった。無論后はいる。だが、彼女は王様の思い通りになるような女性ではなかったし、また、王様も愛でるは愚か見ることも耐え難い醜女だったのだ。
そんな王様がとある噂を聞いた。いや、噂というより伝説だ。
それによればとある柱が東にあるのだという。何人も登り得ない天にまで届く長大な柱である。
この塔の上に美女たちが待っている、というのだ。一人ではなく何人も。
「東征だ」
王様は表向きは侵略として、本当はその伝説に終止符を打つという理由で軍を動かした。
そしてついに天をつなぐとも思える長大な柱が見えてきた。
その柱の下に行くと、何やら小屋がある。簡素な作りで一人の男が座っていた。
偉丈夫でその背は王様の部下たちの誰も届かない、熊のような男だ。その代わりなのか酷く顔は茫洋としており軍勢に対しどう対していいかわからない困った表情をしている。
「どうした!?」
王様は部下たちに声をかけ部下たちにではなく熊のような大男に尋ね、部下たちを下がらせた。本来であれば東征である。それが美女を手にするための行軍であるとすれば権威は失墜する。
「あぁ、びっくりした」
大男はほっと胸をなでおろして王様を見下ろした。
「あんた方は、この柱の見学に来たのかい?」
「見学? 違う、余はこの柱の頂上にいる美女たちを手にするために来たのだ」
大見得を切り、胸を張って応える王様に大男は酷く困った顔をした。
故、大男はまずこう答えた。
「――頂上に美女はいないよ」
王様は最初、大男が冗談を言っているのだと思って怒りを露わにし、再度、大男がいないと言いはるの対し、三言目に本当にいないのかと尋ね返した。
「あ、あぁ、いないだよ、あんたもしつこいね」
しつこくもなろう、まず王様は事情を尋ねた。
「もう、この柱を登り切った人がいるだよ、俺はその人に頼まれて柱の番人をやってるだ」
言われて柱を王様は見上げる。頂上が見えないほどに高いのだ、にわかには信じがたいが番人の話を続けて聞いた。
「で、ではその者は美女達をおろしたのか?」
登攀するためのデコボコとした面は柱にはある。だが、それでも尚美女たちを、それも一人ではないのだ、何度も登り降りして降ろしたのだ。信じられない膂力である。
「もしや、貴様がそのものなのではないか?」
「ち、違うだよ。ま、まず俺の話を聞いてくれだ」
といい、大男はまず結論を言った。
「――美女たちはいなかっただ」
東征からの帰路の最中、王様は大男の言葉を思い出していた。
美女たちはいなかった、その言葉は実は間違いであると大男はすぐさま弁明した。
「美女、っていうのは、なんというか、喩えられもんだったんだ」
「なに?」
つまり、大男は苦笑いを浮かべて告げる。
「登った男に曰く、太陽と月、星々が何者にも勝る美しい女達だった、だそうだ」
その言葉に、王様はふらつく思いをしたが、すぐさま皮肉を返した。
「その男の天上の後宮にも、一人足りないな」
大男は何だべ、と尋ね返し、王様はこう答えた。
「――華がない」




