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88 愛人と実話系

 とある夫婦がいる。将来の幸福を誓い合い、友人たちから祝福され、互いに幸せを夢見て日々を生きてきた。

 でも、崩れるときはどうしたって崩れる。

 夫婦は別居した。理由は些細なトラブル。子供がいないこともそれに拍車をかけた。好きだった唇は喧嘩するための雑音に変わり、愛しかった顔は見るに耐えない醜悪な顔になり、守りたかった笑顔はもうない。

 そして、決定打は夫の浮気だった。彼は最初はそんな気はなかった。憎悪を募らせた相手とはいえ、一度は操を立てた相手でもある。

 けれども欲求不満や魅力的な女性というのは彼を男に駆り立てるのは難しい話ではなかった。

 そして、彼と彼女は離婚した。

 彼は寂莫を感じながら浮気相手と連絡を取ろうとした。

 しかし、連絡は取れず、いつもあっていた彼女の部屋は引き払われていた。

 孤独を感じながら自宅に帰ると、一通の封筒が郵便受けに入っていた。

 浮気相手の彼女のものだ。

 その文書には彼女は別れさせ屋であるということが書かれていた。

 依頼主は明かせない、という旨を書き謝罪などはなく、今まで送ってきたプレゼントはできるだけ返す、ということや名乗った名前は偽名であることなどが、書かれておりウェットな感情的なものはなく淡々と事務的な文書であった。

「ははっ」

 乾いた笑いが洩れる。

 しばらく彼は仕事に打ち込むことにした。そうしているうちは自分に開いてしまった穴を見ないで済んだ。

 数年が経ち、元妻が死んだことを知った。

 病気だったようだ。しかもその病は彼が別れる前にかかったことを知り、もしかして別れさせ屋の依頼主は彼女だったのではないか、と考えた。

 しかし、真相は闇の中で、彼はその闇を照らす明かりを持っていない。

 一度だけ墓参りに訪れ、彼は妻だった女に愚痴やら悔恨を話した。

 最後に、このことを報告する。

「俺、結婚するんだ」

 返事はない。

「幸福にする、なんて一度失敗した手前いえないけど――これだけは言う」

 言葉は一陣の風に消える。

 ――出来るよ。

 彼は今度は頼られる男になる、言ったのだ。

 風が彼女の頼りだったのか、答えはないまま彼は帰路についた。

 もう、会うこともないだろう、そんな予感を思いながら。

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