83 旅と幼さ
旅は人を変える。
商人だとしたら富を一山当てるか、全てをなくしてしまうか。傭兵も似たようなものである。
そして、子供は幼さをけして大人になっていく。
その街に取り彼らは異質だった。長い旅の気配を感じさせながら、二人という少ない人数だ。
親と子、という関係にしては年が離れすぎているように見える。
仮に年配の女性を親とし、小さな金髪の少年を子としよう。
砂よけを首と頭に巻きどちらも目しか顔から覗かせない。目元はどちらも日に焼けているが、眼はどちらも異質だった。
女性の眼は落ち着いている、だが、どこか剣呑な調子をはらみ見るものを萎縮させる。子供の方はランランとはじめて来る街を興味の対象として捉えキョロキョロと見ている。けれども、どこか子供らしからぬものの見方だと見るものに錯覚させる。どこをどう見ても子供の行動なのだが、どこか違う。
言葉がかろうじて国の言葉だということに街の住人を安堵させた。
宿を兼ねた酒場に入り彼女たちは金を支払って個室に入った。
そこでようやく会話らしい会話が始まる。
「同士、私たちの目的を思い出そう」
「同士、僕たちはこの街に住む男を殺しに来た」
「同士、殺すだけに足らない彼のもつ財貨という財貨を手にし、罪科という罪科を断罪し、慈悲深き我らの神に返すのです」
「同士、僕たちは許されるでしょうか」
「同士、それは神だけが決めるのです」
夜が来る。
砂漠の街は夜が冷える。湿潤のない乾燥した寒さだ。
だから、言葉が響く。
悲鳴である。
彼らは男をいたぶっている。爪という爪を剥がし、まぶたを切り落とす、痛みという痛みを考えるあらゆる方法で与えている。
それをやっているのが女性ならば分かる。年配だし、手馴れているだろうと予測がつく。
だが、やっているのは子供のほうだった。
女性は同士を見る。
彼女の役割は子供である同士を育てることだった。自分という生き様と生き方を学ばせ、それを後代に伝えていく、という使命だ。
彼女はこの生き方の善悪を評価しない、それは彼女の神が決めることだ、同士にもそう教えている。それがどう世界に及ぼすかということも考えないで。
「同士、僕が彼にできる痛みは全て与えました」
「同士、彼は死にましたか?」
「同士、えぇ死に絶えました」
「同士、貴方はこの行為をどう思います?」
「同士、痛いと思います」
「同士、善悪ではどう判断します?」
「同士、それは僕らの神が決めることです、そして間違っていればいつかわかることです」
子供の笑みに彼女は肯定し、成長が止まっていると感じる。
旅は人を変える。けれども、変わらずそのままで成長することもある。
幼さを消さないまま成長した子供は子供のまま大人になるのだろう。
彼女はその未来を見ることはないだろう、と胸中つぶやき、教育した通り逃亡ルートを覚えさせた子供に任せて夜のうちに街を出た。
旅に、出るのだ。




