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80 米と大砲

「その米、この大砲で譲ってくれないか?」

 息巻きながら尋ねて来たのはサムライ様だった。

 しかも人通りが少ないとはいえ街道の往来である。サムライの下人と思しき人足が藁で隠した大砲を荷車に乗せて運んできた。

 対して米商人、にしてはずいぶん泥っぽい男は困ったように顔を隠しながら断りの言葉を入れていた。

「へぇ、おサムライさま、どうにも大砲というものはいけません。あっしの伝手では捌くことが難しいのでございます、へぇ」

「そこを何とか頼む! 兵糧米が盗まれて兵站を管理していた儂に責が及ぶ。よくて降格、悪くて自害じゃ、儂を助けると思うて大砲で売ってくれ」

 困り果てた米商人はこうしましょうとポンと手をうち交渉しだした。

「この米をお貸しします、おサムライさまのお金で私どもに返していただく」

「おぉ、それは名案じゃ、そうしよう」

 そう言ってサムライは難を逃れ、戦にも間に合い何とか功を挙げることができた。

 ところが待てど暮らせど、米商人がやってこない。

 それもそのはずだった、米商人は実は商人などではなく、なんとサムライのところから米を盗んだ米泥棒だったのだ。

 そんなこともつゆ知らず、サムライは良かった良かったと米商人を待っているのだった。

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