70 空と童話
ある森がある。奥深く妖精がいるのではないかとか、人狼が潜んでいるのではないかと幻想を掻き立てる陰気な森だ。
そんな確証なきうわさ話のなかで唯一ちゃんと見たという人間のいる噂がある。
森のなかに小さな小屋があるのだ、その小屋の中に一人の老人が住んでいる。
そこまではよくある話だが、ここからが彼らの興味を引いた。
――老人が宝箱を持っている。
彼ら三人組の盗賊は仕事を探していた。その話に金貨を一枚払いよく聞いた。
「爺一人か」
「いや、人狼かもしれないぜ?」
「も、もしかしたらきゅ、吸血鬼かも……」
「なんにせよ、湿気たおまんまから豪勢な飯にありつけそうじゃないの」
そう言って彼らは老人の住む家を見つけた。
家の中には老人の気配がある。
彼らは出かけるのを待って、家の中に入った。
一人はまず見張りに立ち残りの二人は家の中を物色するという役割分担だ。
「なぁ、見つかったか?」
「まだだ」
玄関に立つ盗賊はもう仕事が終わったと思っているようだ。口笛を吹きながら待っている。
だが、どうにも遅い。
気になって彼は家の中に入った。
玄関を開けると居間がある、そこには机と台所があり奥に寝台があるといった簡素なものだ。
ギシ、ミシ、床板が軋みを上げる。
「なぁ、おい、みつ――」
声に詰まる。
のっぽの盗賊と小柄な盗賊が家探しをしていた。その内ののっぽと思しき身体が倒れていた。
彼はその時実家の羊の屠殺場を思い出した。黒々として、しかし、赤い、りんごの様と例えるにはどうにも色合いが違う。
寝台部屋の奥にまだ生きているちびを見つける。
ちびは震えてガチガチと寒いでもないのに歯を震わせていた。
「みてな、い、みて、ない、みて――」
「おい、どうした――」
言葉が先か、行動が先かちびは言う。
「まだ、いるよぉ!」
言葉が後か、行動が後か、男の首は鮮血を吹き出す。
老人が斧を持って立っていた。
血に濡れた斧は少ない光源によって鈍くきらめいていた。
ちびは次は自分の番だ、ということを覚悟した。すでに肩口を切りつけられており行きて変えることはできないことを直感している。
でも、その前に尋ねたいことがあった。
自分が死ぬのは悪事を働いたからだ、その自覚はあって覚悟もある。
だが、納得の行かないことがある。
それは――
「――どうして、宝箱が――」
斧が振り上げられる。
言葉を言う。
「空なんですか?」
コワイ童話ということで一つ。




