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66 狼と靴

 彼は誰よりも早く走れる靴を持っていた。持っているだけではなく使っているので、彼は誰よりも早く俊敏に奔ることができた。

 彼は炎狼という化け物をからかった。炎狼は炎を身にまとい、口からチロチロと炎を噴き出している。

「お前は俺よりも遅いだろう、ホラ、どうだ、俺を食いたいか? 食いたかったらやってみろ」

 怒った炎狼は彼を追い掛け回したが彼を捕まえることができない。

 そこで、炎狼は彼を挑発してみた。

「貴様はどこでも同じように早く走れるのか?」

「あぁ、海の中だろうと俺よりも速いものはいないぞ」

 それを聞いて炎狼はこう言った。

「ならば草原に行ってみろ、私がその時追い詰められなかったらこの炎を貴様に譲ろう」

 彼は拍子抜けした。もっと無理難題をふっかけられると思ったが、苦も無く玉を手に入れられると重い承諾した。

 草原に行き、炎狼の遅さに呆れて彼は昼寝をしてしまう。時節は秋に移っていたが、今日は陽光が暖かく寝るには調度の良い気温だった。

 ダカダカと炎狼の到着を知り彼は起き上がる。

 そこで、少し驚く。この結果を知らなかったというのは、いささか愚かに過ぎるだろう。

 草原が燃えていた。

「ふ、ふん、炎が起ころうと俺は貴様より早いぞ」

「たしかに、貴様は俺よりは速いだろう、だが――」

 炎狼は耳まで避けている口端を吊り上げにまりと笑う。

「炎よりは速いかな?」

 炎の燃え猛る速さはいつもよりも速い。なぜか、秋だから草が枯れてきているのだ。そうなると火に注いだ油のように草原は炎に包まれた。

 彼は炎の檻から脱することはできず、結局炎狼に食い殺されてしまいました。

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