62 理想と寿命
「T大教授がX理論を発表した」
彼はなになにと思って新聞を読み愕然とした。
彼もそこそこ名のしれた准教授でとある意欲的なテーマの研究をしていたからだ。
そして、彼がどうしてそこまで愕然したかといえば、この新聞に書かれていた教授の理論が自分の考えているものと同じといっていいほど同じだったからである。
着想したのが速いか遅いか、芽吹いたのが先か後か、そんなものは咲いてしまった結果という果実に比べれば意味が無い。
彼は酒浸りになってしまい、本業も手付かずになってしまった。
そんな時あるニュースが飛び込んできた。
「T大教授のX理論に欠陥がある!?」
それによると教授の掲げた理論には重大かつ初歩的な欠陥があり、革新的な理論であったため、革新性のみが大きくクローズアップされたため発覚が遅れたということらしい。
「こうしてはいられない」
そして、彼は自身の研究を奮起しT大教授連署して発表しようと考え助手に自分の理論を見せた。
すると助手はこう言う。
「これT大教授の理論と一緒ですよね、しかも間違えているところまで」
苦言を呈した助手の言葉に彼は悩ませた。
理想に寿命が来てしまい、だのに同じ理想をおったのが間違いだったというわけだ。
彼はT大教授と同じ理想という風なテーマをたててしまい、T大教授すら導こうという気概ある理想を見ることができなかったのだ。




