61 魔法と内臓
魔法のように彼は心臓を奪われた。
しかし、彼は奪われながらも平然と生きていた。どころか、槍でつかれても毒で苦しめられても四肢をもがれても生きている、不死身になったのだ。
だが、望まぬ不死の代償は奪った魔法使い、その奴隷であった。
小間使いのごとく扱われとうとう彼は魔法使いを殺してしまおう、そう思いたつのにさほど時間はかからなかった。
だが、敵は魔法使い。敵意を敏感に感じ取り脈打つ心臓をぎゅうと握り、彼を律するのだ。
だから、彼は魔法使いが寝静まった時を計らって寝所に忍び込んだ。
そして、組伏せる。魔法使いは何が起こったのか分からず戸惑いながらも心臓を握ろうとした。だが、足によって踏まれた両手は握ることもかなわず、彼は心臓に短刀を差し入れた。
しかし、返ってくるのはなんとも不思議な感触であった。
手応えが、ないのだ。
何度も何度も差し入れるが手応えがない。その手応えのなさのためか短刀が滑ってあらぬ方向に落ちてしまった。
と、そこから魔法使いの反逆だ。踏みつけが緩んだ手で心臓を握りこみ、彼を苦しめる。
死を覚悟しながら彼は薄れ行く意識の中、燭台の光でそれを見る。
魔法使いのそこにあるべき心臓は、ポカリと穴が開いていて存在していなかった、ということを。
彼女も、奴隷であるという事実になにか慰められるのか、と問いかけながら意識は薄れていった。




