51 両性具有と湖
彼女は悪魔を罰する聖職者、異端審問官だった。しかも凄腕で今までどんな悪魔でも退けてきた。
「両性具有を知っているかね?」
彼女の上司が尋ねてきた。
「男性と女性の性器を兼ねている存在ですね、主や御遣いがその扱いである」
淡々と答える彼女に上司は応える。
「我々は両性具有が実際に現れた場合どう接するか?」
「悪魔憑きとして処理をします」
暴力的だがそうだな、上司は笑いもしなかった。
「両性具有者が大量に出てきたのだ」
「元からそうだったというのではないですか?」
そうだったら良かったが、上司は色あせた紙を渡した。資料だ。
「数が多い、悪魔による仕業で両性具有になったという前例はあるにはある。が、同時期同地域で二桁もの両性具有者が現れたというのはちょっと稀だ」
「だから、私を?」
「そうだ、お前ならどんな悪魔でも退けられるだろう」
そう言われておだてられたわけではないが彼女は二つ返事でその地域に赴いた。
大きな湖があり、そこを水運として栄えている大きな港街だった。
彼女はまっすぐ教会を目指し両性具有となった被害者に話を聞き、実際に両性具有になったのか身体検査をし、たしかに彼等彼女等がなっていることを確かめ彼女は頭を抱えた。
見たところ精神的に不安定、境遇を考えればそのほうが自然であるが、なところは見られない。故、悪魔による仕業ではないのかと思える。
どうして変わったのか、という問いからいつから変わったのかと質問を変え、そこの答えだけ悪魔的なものを彼女は感じた。
覚えていない、気が付いたらなっていた、というのだ。
そこから彼女は被害者たちの親族に話を聞くことにした。最初異端審問官であるということで必要以上の怯えと畏怖があったため、中々核心を突くところまでにはたどり着かなかったが、辛抱強く話を聞くうちに彼女は悪魔の正体が分かった。
そして、彼女ではこの悪魔を払うことができないと確信してしまう。
「――悪魔は湖です」
それが、彼女が立てた推測だ。
被害者たちはどれも両性具有になったと思われる時期の前後に湖で溺れているのだという。
「湖の中にいる、というのか?」
「いえ、おそらく、湖そのものが悪魔と考えたほうがいいでしょう」
そして、その証拠にその湖で釣り上げた魚の話をした。
「マスですが、これも雌雄が二つともあります、他の魚も同じようでした、漁師たちもいつからかこのような魚しか上がらないというのです」
「成程、では手に負えないな」
上司は仕方ない、という風な顔をしたが、彼女はきっぱりと言った。
「いえ、何とかできます」
ふむ、と上司は相槌を打ち、では何故払うことができないと思ったのだ、と問うた。
答えはこうだった。
「私はカナヅチなので」




